現在の市場心理を表すのに適切な言葉が2つある。「パニック」と「恐怖」だ。5日のNYダウ平均株価は750bp以上下落し、年初来最大の日次下落幅となった。先週トランプ米大統領が中国に対する追加関税実施を表明した後、中国側もUSD/CNYレートを1ドル=7元台に切り下げる措置を取り、対抗姿勢を強めた。為替調整に加え、中国は国営企業に対し米国産農産物の輸入停止を呼びかけている。トランプ米大統領は中国を「為替操作国」だと非難し、財務省による公式認定が続いた。米国が1994年以来初めてとなる中国の「為替操作国」認定を行ったことにより、トランプ米大統領が中国に対する輸入制限を更に強めることが可能になる。このような敵対的姿勢により、トランプ米大統領が「中国から税を取る」と発言していることからも、より激化するような展開も予想できる。市場は米国の企業・消費者活動への影響を嫌気し、ダウ平均株価は下落し、米国債利回りも急激に低下した。物価上昇と、投資額減少により、消費者は痛手を受けることになりそうだ。米国企業は利益の逼迫に直面し、投資額・雇用の減少に繋がることが懸念される。
トランプ米大統領は、先週のパウエル議長による利下げを「失望に値し、不十分であった」と評価した。ドル安、国債利回り低下、追加利下げのお膳立てを行った。追加関税と5日のダウ平均株価800ポイント低下(7月31日からは1400ポイントの低下)を受け、年内に1回ではなく2回の利下げが織り込まれている。FRBファンド先物は、9月の25bpの利下げを100%織り込んでおり、12月に更に25bpの利下げを行うことを織り込んでいる。これは先週7月31日時点で、織り込まれていた年内再度の利下げ確率が60%のみであったことを考えると、大幅な変化だ。
トランプ米大統領により引き起こされた貿易戦争に、FRBが反応しなければならなくなるのは自明だ。追加関税が9月1日に開始すれば、追加利下げは9月か10月に実施される。とはいえ今年前半に見られたように、現在から将来時点で様々なシナリオがあり得るため、何が起きるか予想は難しい。市場が過度に落ち込めば、トランプ米大統領は追加関税実施を留まる事も考えられる。我々は今週ポジティブな材料が出るとは期待しておらず、米ドルのようなリスク通貨は更なる下落に晒されうる。USD/JPYは106円台を割り、105円台すらも割る勢いだ。
トランプ米大統領による関税はオーストラリア準備銀行の動向にも影響を与えそうだ。AUD/USDは、同行の政策金利発表を控え過去8ヶ月最低の値で取引されている。前回の同行会合では、今年に入って2度目となる利下げを行い、過去最低水準となる1%となった。同行ロウ総裁は、「完全雇用・インフレ目標達成のために必要であれば、我々は金利を調整する用意はできている」と発言した。 前回の金融政策会議以来、オーストラリア経済は改善しているため、3連続の利下げを行う可能性は低いとの見方がエコノミストの中で強い。例えば、小売売上高の増加、インフレ率の上昇、7月正規雇用率の堅調な増加、改善傾向にある製造業指数など様々な指標で改善傾向にある事が窺える。だが信じがたいかもしれないが、中国の経済指標による影響を受け、利下げ可能性はわずかに高まっている。 オーストラリア経済のパフォーマンスだけを鑑みれば、再度の利下げは必要ない。しかし、対中国追加関税と人民元安はオーストラリア経済にとってゲームチェンジャーであり、オーストラリア準備銀行の利下げに対する決意を強める結果となる。前回の利下げ同様、実際に追加関税が導入されるまで利下げを待ちながら、年内の景気刺激策の準備を進めそうだ。