原油価格は7年以上ぶりの水準にまで高くなっており、一般的には石油会社や業界の拡大にとっては良い兆候である。しかし、この点については難問がある。
原油価格が上記のチャートのように上昇しているのだから、本来ならば探鉱や生産(E&P)がどんどん増えていくはずなのだが、そうはなっていない。
Energy Aspects社のAmrita Sen氏によると、世界の生産量を日産1億バレルに維持するためには、「毎年、少なくとも5200億ドルの投資が必要」とのことだ。しかし、同氏の分析によると、業界は3700億ドルしか投資していない。
なぜ投資が増えないのか、また低調なE&Pの不足は長期的に市場にとってどのような意味を持つのか。
探鉱と生産の妨げとなっているもの
米国では、価格が1バレルあたり35ドル以上高く、生産者にとって魅力的な価格であるにもかかわらず、生産量は2020年1月に比べて日産160万バレル減少している。
石油リグの数は、パンデミック前には700基近く稼働していたのに対し、現在はまだ500基程度である。これはより大きな利益が得られる可能性があるにもかかわらず、生産量がそれほど伸びていないことを示している。
ダラス連銀サーベイなどの指標は、米国の生産者が現在、さまざまな理由で生産投資に特に懸念を抱いていることを伝えている。これらの理由の中には、米国に特有のものもあるが、米国外で活動する企業にも影響を与えるものもある。
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規制の不確実性:石油や天然ガスの生産に関する連邦政府の規制は流動的で、特に排出量、認可、リースに関する規制が厳しくなっている。米国の生産者は、短期的な利益を得る可能性があるにもかかわらず、現在行っている投資、特に長期的なプロジェクトへの投資に、政府の政策がどのように影響するかについて不安を抱いている。
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金融機関の消極性:同様に、銀行や投資家も、政府の政策に対する先行きの見通しが立っていない。また多くの大手銀行は、近年、石油・ガス会社への多額の投資をめぐって活動家からの不満の声を受けており、石油・ガス業界全体からの撤退を迫られている。このような圧力や不確実性は、石油・ガス産業におけるリスク・テイクの意欲を失わせてしまう。
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環境に配慮したポジション:このように不確実性が高いため、石油・ガス生産者は環境保護運動の怒りを買うことを恐れている。これは石油・ガス生産者がE&Pを拡大することを躊躇する力となる。特に欧州企業では、政府の政策によって石油・ガス生産者が新たな探鉱・生産を行うことを抑制しているため、この傾向が強くなっている。 BP (NYSE:BP)のように、石油価格が高く、原油販売と精製が最大の収入と利益の源であるにもかかわらず、非石油・ガスプロジェクトに多くの資金と投資を投入し続けている企業も少なくない。
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株価の推移: 石油会社は、短期的な高株価を好む傾向を示している。2014年に原油価格が下落し始めてから、石油メーカーはE&Pを削減した。また自社の株価を守るために投資を削減した。原油価格が再び上昇した今、生産者は収益をE&Pに再投資することもできるし(会計上のメリットや税制上の優遇措置もある)、利益を配当や財政健全化によって株価を支えることもできる。業界の多くは後者を選択しており、E&Pを犠牲にして、現在と近い将来の高い株価と配当に夢中になっている。(これも米国企業に限ったことではない。)
E&Pの欠如がエネルギー市場と業界にもたらすもの
市場にとっては、生産量の増加が緩やかであることは、近い将来の供給過剰の心配が少ないことを意味している。むしろ数年スパンの長期的な見通しにおいては、生産者が早期にE&Pへの投資を増やさなければ、大幅な供給不足に陥る可能性があるだろう。
業界にとって、E&Pが抑制されているということは、原油価格が高い間はほとんどの株式の価格が高くなるということだが、多くの事業者は生産する方法をみつけられなければ、今後数年間は苦しむことになる。今後数年間は、E&Pに投資している事業者、あるいは生産可能な資産を獲得できる事業者が、将来への準備をしていなかった事業者よりも圧倒的に有利になるだろう。