3月の米国における雇用統計は良好な内容になると予測されているにもかかわらず、中国におけるコロナウイルスの取り締まり強化は、上海の金融ハブの閉鎖につながったことで、今週にかけて原油需要や他の主要コモディティに打撃を与える可能性がある。
また、雇用統計の前日である木曜日には、個人所得と消費支出という形で米国のインフレ関連データが発表されることとなっており、週を通じて市場全体が不安定となる可能性もある。
J.P. Morgan(JPM)は先週のレポートで、ユーラシア大陸とカリフォルニア州における移動者数が減少していると発表した。2月24日のウクライナ侵攻後に140ドル近くを記録して以来、今回発表された移動者数の減少は、1バレル100ドル前後を維持している原油の需要減少の最も明確な兆候であると述べた。
月曜日のアジア取引時間では、ロンドンで取引されている原油の世界的ベンチマークであるブレント原油は、シンガポールの午後12時(ニューヨークの午前12時)までに3.23ドル(2.6%)値下がりし、1バレル114.14ドルとなっている。ブレント原油は先週、約12%上昇し、ウクライナ侵攻以来、週間最大の上昇幅を記録した。
米国産原油のウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)は3.51ドル(3.1%)下落の110.39ドルだった。WTIは先週、8.8%上昇していた。
政治的・経済的トラブルに対するヘッジ手段である金でさえ、今週月曜日のアジア取引時間では下落した。
ニューヨークのCOMEXで最も活発な金先物取引である4月限は、10.10ドル(0.5%)下がり、1オンスあたり1944.10ドルだった。ベンチマークとなる金先物取引は、先週1.3%上昇した。
パンデミックは終息したと思われていたところ、中国では上海で1日における無症候性感染が新記録をつけるまでに増加し、9日間にわたってコロナウイルスの感染検査を行うため、2段階に分けて街を封鎖すると日曜日に発表している。
上海はほぼ1ヶ月間、新たなコロナウイルスの感染者数が急増しており、土曜日は最初の流行が後退して以来、1日の患者数が最高となった。この日、上海では新たに2,631人の無症状患者がみられた。これは中国全体の無症状患者の60%近くを占め、さらに47人の有症状患者が新たに発見されている。
上海市当局はこれまで、経済の不安定化を避けるために市内を広範囲に封鎖することに抵抗し、よりオーダーメイドの「スライシング&グリッド」方式で、近隣地域を1つずつスクリーニングする方法を選択してきた。
新しい都市封鎖政策の下、これらの地域ではライドヘイリング・サービス(配車サービス)を含む公共交通機関は、ロックダウンによって停止されると市政府は公式WeChatアカウントで述べ、未承認の車両は道路に入れないと付け加えた。またロックダウン中、公共サービスの提供や食料の供給に関わる企業を除き、すべての企業や工場は製造や遠隔での作業を停止するという。
JPMは報告書の中で、原油価格の高騰だけがコモディティにおける需要減少ではないと述べている。ウクライナ危機、ロシアに対する金融制裁、中国における感染力の強いオミクロン株の継続的な蔓延は、物価高よりもさらに直接的な影響を地域の燃料消費に及ぼしている。さらに、3月と4月に中国の活動が縮小し、中国の第2四半期のGDP成長率が1.1%ポイント引き下げられるとの見通しを示した。
その結果、2022年第2四半期の需要予測を日量110万バレル、次いで第3四半期と第4四半期にそれぞれ約50万バレルの引き下げを行った。これは価格高騰、コロナ禍規制、地政学的対立がロシア、中国、インド、欧州の需要破壊を促すためであり、2022年の世界の原油需要予測から日量平均42万バレルを削減することになる。
(ガソリン価格が史上最高値になったにもかかわらず)米国は今のところ原油の需要低下トレンドからは比較的孤立している。JPMが発表した需要減少は、地政学的ショックの震源地である欧州に大きく集中している。ロシア・ウクライナ戦争が始まって以来、同行のエコノミストは同地域の成長率を2%ポイント以上引き下げ、インフレ予測を3%ポイント近く引き上げた。
その結果、JPMはロシアへの制裁措置により、2022年のユーラシア大陸の原油需要予想を日量27万バレル引き下げた。ユーラシア大陸のジェット燃料需要は、領空侵犯や部品不足によりロシアの民間航空機の約半数が地上待機となるため、前回予想から日量13万バレル減としている。また、欧州の原油需要について、価格高騰への敏感さと同地域の経済成長への期待低下により、2022年の日量平均を16万バレル下方修正した。
カリフォルニア州では、昨年末から車両走行距離(VMT)が2018-19年の水準に近い形で推移している。しかし今年はこれまで2回、オミクロン事件が州内に広がったときと、原油価格が急騰した2月末から現在に至るまでの2局面では、2019年のトレンドから外れている。
一方バイデン政権は、戦略石油備蓄(SPR)からの原油の再放出を検討しており、それは今月初めに行われた3000万バレルの売却よりも大規模になる可能性があると関係者は述べている。米国と国際エネルギー機関(IEA)の他の加盟国は、合計で約6000万バレルを備蓄から放出した。
「IEAメンバーには約15億バレルのSPR在庫があるため、間違いなくもっと大きなことをする能力がある。そもそもSPRとは有事の際に活用するものであり、今がまさにその時だ」とJPモルガンのコモディティ・リサーチ責任者であるNatasha Kaneva氏は述べた。
金曜日に発表される3月の非農業部門雇用者数は、FRBの利上げ計画が積極的すぎるのか、それとも十分ではないのか、市場が見極めるのに役立つだろう。
エコノミストは、2月に67万8000人の雇用が創出された後、3月は47万5000雇用が増えたと予想している。平均時給は前年同期比で5.5%増加し、失業率は3.7%に下がるとみている。
労働市場が引き続き好調であることが示されれば、FRBが高騰するインフレを抑制するために、より積極的な利上げペースの根拠となる。
FRBは3月16日に25bpsの利上げを行ったが、それ以降パウエル議長は、景気後退の引き金になるとの懸念があるにもかかわらず、利上げが必要な場合は50bpsずつ引き上げる用意があることを示唆している。
雇用統計に先立ち、米国政府は2日に2月の個人所得・消費支出が発表される予定だ。この報告には、FRBが注視するインフレ指標である個人消費支出のデータが含まれる。
エコノミストは、コアPCE価格指数が年率5.5%で上昇し、FRBのインフレ目標2%を大きく上回ると予想している。
経済カレンダーではこのほか、消費者信頼感、求人数、民間雇用、新規失業保険申請件数およびISM製造業PMIも発表される予定となっている。
また、週明けにはニューヨーク連銀のWilliams総裁、フィラデルフィア連銀のHarker総裁、アトランタ連銀のBostic総裁、リッチモンド連銀のBarkin総裁がそれぞれ公の場に登場予定となっている。
免責事項:Barani Krishnanは、あらゆる市場の分析に多様性を持たせるため、自身以外のさまざまな見解を用いている。中立性を保つため、時に逆張りの見解や市場の変数を提示することがある。同氏は執筆しているコモディティおよび証券のポジションを保有していない。