1959年、ジョン・F・ケネディが行った演説は有名である。
中国語で書くと、「危機」という言葉は2つの文字からなり、1つは危険を表し、もう1つは機会を表す」。
今日、この漢字の解釈は正しくないことが広く認識されているが、危機がユニークな機会を生むというケネディ大統領の知恵は、これまで以上に重要な意味を持つかもしれない。
水曜日、フリーポートLNGの工場火災によって、米国最大の液化天然ガス輸出工場の一つを3週間停止することになった。
ウクライナ侵攻による経済制裁としてロシア産天然ガスの輸入を停止している中、欧州の液化天然ガス(LNG)バイヤーが期待していた主要な供給源が文字通り吹き飛んでしまった。フリーポートは、米国内のLNG加工量の約20%を占め、最近では中国の液化天然ガス需要の急増にも対応していた。
このプラントは、日量最大21億立方フィート(21bcfd)の天然ガスを生産でき、フル稼働時には年間1500万トン(150MTPA)の液化ガスを輸出することができる。米国のLNG輸出量は昨年、過去最高の9.7bcfdを記録した。
米国エネルギー省によると、3月には約21のLNGカーゴが同施設に積み込まれ、欧州、韓国、中国に向け推定640億立方フィート(64bcf)の天然ガスが運ばれた。これは、2月の15カーゴ、1月の19カーゴよりも増加している。
フリーポートLNGは現在、週に4カーゴほど出荷しており、3週間の停止で少なくとも100万トンのLNGが市場から消えることになる。
調査会社Rapidan Energyのグローバル天然ガスおよびLNG担当ディレクターであるAlex Munton氏は、ロイターが伝えたコメントの中で、「これは米国の主要施設における重要な生産停止である」と話す。
また、「世界のLNGが不足することになる」とも述べている。
しかし一方で、フリーポートの操業停止は、非常にタイトな米国内の天然ガス市場に、予想外の救済弁を開くことになるかもしれない。
今回の工場火災の影響は低位
LNGは輸出用が中心であるため、米国の電力会社は今後数週間でより多くの天然ガスを手に入れ、発電に使用したり、特にテキサスの暑い気候の都市に冷房を供給したり、貯蔵場所に追加したりすることができるようになるだろう。
しかし、今回の工場火災が市場に与える長期的な影響は低位だろう。米国の天然ガス貯蔵量は、5年平均で300bcf以上不足している。フリーポートの3週間の操業停止によって米国内市場に転用できるのは、最大でも45bcf程度だろう。
しかし、あらゆる追加供給を求める苛烈な市場において、これは歓迎すべきことであり、ケネディ大統領のかつての発言、「一方にとっての危機は、他方にとっての好機である」という今や伝説となっている言葉を裏付けるものである。
出所:Gelber & Associates
Investing.comが追跡したアナリスト予想のコンセンサスによると、フリーポートの工場火災とは関係なく、米国全域で季節外れの暑さが続き、冷房需要が高まったと推定される6月3日までの週に、米国の電力会社は通常より少ない96bcfの天然ガスを貯蔵に追加したと予想される。
この予測注入量は、前年同週の98bcfや5年間(2017-2021)の平均注入量100bcfと比較すると、少ない。
前週は90bcfの天然ガスが注入された。
もしこの予想が当たれば、アナリストが予測する6月3日終了週の注入量は、5年平均を約14.6%、前年同週を16.6%下回る1兆998億立方フィート(1.998tcf)まで備蓄を引き上げることになる。米国エネルギー情報局が米国東部時間午前10時30分に予定されている週次の天然ガス貯蔵量の発表で、正式な備蓄量を確認することができる。
ロイター傘下の金融情報ベンダーRefinitvのデータによると、先週の冷房度日(CDDs)は約57日で、30年間の平年値である48日を上回った。
CDDは、家庭や企業の冷房需要を見積もるために使われ、1日の平均気温が華氏65度を何度上回ったかを測定する。
他のコモディティ危機と同様、フリーポートの工場火災も天然ガスの市場価格(この場合はニューヨーク・マーカンタイル取引所のヘンリーハブ)にすぐに反映された。
木曜日のニューヨーク・プレオープンでは、前月限(7月限)はアジア取引時間中に38セント(4.4%)安の8.27ドルで取引された。
水曜日につけた2008年以来の高値である9.66ドルと比べると、わずか24時間で1.40ドル近く(14.5%)の下落である。
「長期的な影響はまだ不明だが...フリーポートは...天然ガス先物を下落させた」とnaturalgasintel.comはその影響を分析している。
Criterion Researchのリサーチ担当バイス・プレジデント、ジェームス・ビーバン氏は、「米国の天然ガス貯蔵所の構造的な改善にはつながらないが、フリーポートの事件は、短期的には興味深い追加供給がみられる可能性がある。最悪のシナリオとして、10月末まで施設が完全に停止すると仮定すると、フリーポートLNGの事故は、日量平均1.95bcfをグリッドに押し戻し、285bcfを貯蔵に追加する可能性がある。2022年7月までの2ヶ月間の停止でも、105bcfの在庫が追加されることになる」という。
同氏は、フリーポートの電力消費など他の興味深い要因についても言及している。フリーポートが完全に稼働している場合には、690メガワットが消費されるとしている。
猛暑に襲われているテキサス
テキサス州は現在華氏3桁の気温で、この週末には記録的な電力需要になる可能性があり、テキサス州民は厳しい暑さから逃れるためにエアコンを最大限使用するため、これも天然ガス価格に対しては大きな救いとなるかもしれない。
米国の干ばつモニターによると、テキサス州の80%近くが少なくとも中程度の干ばつに見舞われているとのことである。また、テキサス州の約18%は、現在、最も高いカテゴリーである「例外的干ばつ」の状態にある。
記録的な暑さはテキサス州全体の天然ガス需要を押し上げ、貯蔵用の余剰供給はほとんどなく、在庫は冬のシーズン後の低位な水準から抜け出るのに苦労している。
AccuWeatherは、「地表が非常に乾燥しているため、大気は通常より早く、より激しく暖められる」と述べている。
同気象予報会社によれば、テキサス州内のいくつかの都市では、息苦しいほどの暑さのために気温が通常より華氏15度も上昇しているとのことである。例えば、サン・アントニオは、数日連続して記録的な暑さに見舞われている。月曜日と火曜日に連続して華氏104度を記録するなど、日曜日から火曜日にかけて公式に新記録が樹立された。
AccuWeatherのシニア気象学者ビル・デガーは、「サン・アントニオでは、今週末から来週初めにかけてさらに記録的な暑さが続き、この6月前半は最近の記憶では最も暑い期間のひとつになる」と語った。数日間は記録が塗り替わる可能性がある。
しかし、木曜日にヘンリー・ハブが下落したにもかかわらず、天然ガス価格はすぐに回復し、9ドルの領域に戻る可能性があると、同氏は言う。
足元の下落にも関わらず、価格はすぐに反発する可能性
これは、LNGの供給停止がどのような期間であろうと、市場に出回る米国産カーゴが少なくなるため、世界価格を押し上げる可能性が高いからである。欧州は来年の冬に向けて貯蔵在庫を補充するためにカーゴの引き揚げを続けるだろうし、アジアは夏に向けて需要が高まり始めている。潜在的な上昇要因があれば、一時的にでも米国市場に波及する可能性がある。
「ヘンリーハブの急落は、買われすぎの水準に近づいていた天然ガスの日足ストキャスティクスに必要なリバランスをもたらしたかもしれない」とskcharting.comのチーフ・テクニカル・ストラテジスト、Sunil Kumar Dixit氏は述べている。
何らかの理由で下落が続いた場合、50日指数移動平均の7.85ドルや水平方向のサポートである7.50ドルに触れ、100日単純移動平均の6.50ドルにも到達する可能性がある。
「週次と月次チャートのストキャスティック・ダイバージェンスは、フリーポートの工場火災前にみられたラリーの枯渇を引き起こす可能性がある」と同氏は言う。
8.10〜7.50ドルの間でコンソリデーションがみられるが、7.50〜6.50ドルの間で推移すると、上昇を再開する可能性があるという。
「9.65ドルに向けて上昇基調が再開するために、新たな買いが割安水準になったら出てくる可能性がある。」
免責事項:Barani Krishnanは、あらゆる市場の分析に多様性を持たせるため、自身の見解以外の様々な見解を用いている。中立性を保つため、逆張りの見解や市場の変動要因を提示することもある。同氏は執筆しているコモディティおよび証券のポジションを保有していない。