アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の2人のそっくりさんが拳をぶつけ合うあいさつは、ある意味で平昌五輪を象徴するシーンではないでしょうか。
これほど五輪外交が注目される大会も珍しく、韓国の立ち回りが目を引いています。
その成否は閉幕後のウォンの値動きに表れるでしょう。
ほんの数カ月前までは、北朝鮮の核・ミサイル開発に関連し緊張が高まっていた東アジア地域ですが、北朝鮮と韓国は統一旗を掲げ、国際オリンピック委員会(IOC)会長は閉幕後に北朝鮮を訪問する予定を組むなど、韓国の文在寅大統領を中心に平和ムードが演出されています。
こうした関係国の思惑が渦巻く国際政治における力関係が、今後通貨の値動きに反映される可能性があります。
ウォンは、国内経済の回復を背景に昨年1年間でドルに対し17%も上昇し、2014年10月以来、3年4カ月ぶりの高値水準まで値を切り上げていました。
先月のトランプ政権のセーフガード発動で一部の家電などが対象に含まれたことから、国内経済の腰折れへの警戒で株安に振れ、ウォン高はいったん収束。
それでも、足元は1ドル=1070ウォン付近の高値圏で推移し、心理的節目の1000ウォンを目指す値動きが予想されています。
今月初旬に韓国銀行(中銀)がまとめた2017年の国際収支によると、経常収支は20年連続で黒字を記録しました。
ただ、過去最大となった旅行収支の赤字が響き、黒字額は前年の+992億ドルから+784億ドルまで縮小しています。
アメリカのミサイル防衛システム「THAAD」の配備をめぐり関係が悪化した中国からの渡航者の減少、それにウォン高を背景とした韓国からの海外への渡航者の増加が旅行収支悪化の要因です。
韓国政府は平昌五輪の開催期間中、海外からの渡航者を40万人と見込み、旅行収支の改善の目玉として期待しています。
特に、2月16日からは「春節」による連休と重なるため、中国人旅行者に対し4カ月間の入国ビザの申請を免除し、テコ入れする思惑でした。
外交関係のほか「クール・コリア」や「爆買い」など文化・経済での交流を以前のように活発化させようと躍起になっていることがわかります。
ところが、連休期間の中国人の渡航先は日本がトップで、タイ、ベトナム、シンガポールなど温暖な国が続き、韓国はトップ10から外れてしまいました。
2014年12月に直接取引を開始した人民元・ウォン相場は、昨年同様160-175ウォンのレンジ内でもみあいが続き、対ドルでのウォン高による影響は限定的のはずですが、やはり外交上の根深い対立は、簡単に雪解けとはいかないようです。
こうした背景から、韓国にとって最大の輸出先である中国との関係改善には時間を要することが明らかになりました。
このため、韓国の経常収支の黒字はなお縮小が見込まれます。
また、米韓軍事演習の再開となれば「微笑外交」はどこかへ吹き飛び、東アジア地域に再び緊張が高まるシナリオも考えられます。
外交面からのアプローチによれば、ウォンには下落要因が目立ちます。
それでも、平昌五輪の閉会式には次回、4年後の北京大会の開催国として中国政府の要人が出席するとみられます。
他方、アメリカはトランプ大統領の長女で、アジア外交の「要」であるイバンカ大統領補佐官を送り込む方針です。
北朝鮮の政府関係者も顔をそろえる見通しで、オリンピック開催期間限定の「平和」はクライマックスを迎えます。
それが、ウォン高のピークになるかもしれません。