[ワシントン/リオデジャネイロ 2日 ロイター] - トランプ米大統領は2日、ブラジルとアルゼンチンから輸入する鉄鋼とアルミニウムに直ちに関税を課すと表明した。両国の意図的な通貨切り下げで米農業部門が圧迫されているとの考えから報復措置を打ち出したものとみられる。
トランプ大統領は早朝、ツイッターに「ブラジルとアルゼンチンは大規模な通貨切り下げを実施してきた。これは米国の農業部門に良くない。このため、両国から米国に輸出される鉄鋼とアルミニウムに直ちに関税を課す」と投稿した。これ以上の情報は明らかにしなかった。
ただ事実は逆で、ブラジルとアルゼンチン両国はともに、自国通貨を対ドルで上昇させようと積極的に動いてきた。アナリストらはトランプ大統領の決定の発端が中国との貿易戦争を巡る国内政治状況にあるのではないかとみている。
2020年11月の米大統領選を巡り、トランプ大統領にとって国内農家はカギとなる票田。米中貿易戦争で米農産品の競争力が削がれ、ブラジルとアルゼンチンの農産品を利していることが背景となっている可能性もある。
マーティン・カリーの投資戦略部門責任者、キム・カテキス氏は「多くのブラジル人にとって、これはブラジル大豆農家の大儲けに対する腹いせのにおいがする。米中貿易戦争では、中国向け米国産大豆の代替となることでブラジルの大豆農家は大きな利益を得ている」と述べた。
この件に関して米国務省、および米通商代表部(USTR)担当者からコメントは得られていない。
ブラジルのボルソナロ大統領はトランプ氏と直接協議する意向を表明。現地ラジオ局のインタビューで「報復措置とは考えていない」と指摘。「米経済はわれわれの経済と同規模ではなく、何倍も大きい」とし、「関税を課さないようトランプ氏に電話するつもりだ。ブラジル経済は基本的にコモディティーで成り立っている。トランプ氏が理解してくれることを望む。われわれの主張を聞いてくれると確信している」と述べた。
アルゼンチンのシカ生産・労働相はトランプ氏の発表について「予想外」だったと表明。午前中に米国の措置への対応を協議したとし、より詳細な情報を得るために米国のロス商務長官との会談を望んでいると述べた。また、外務省も米国務省との交渉を始めると明かした。
シカ生産相によると、アルゼンチンが今年米国に輸出した鉄鋼・アルミニウムはこれまでに金額ベースで約7億ドル。
<トランプ氏の主張に懐疑論>
ブラジルとアルゼンチンの通貨が人為的に切り下げられているとのトランプ大統領の主張には懐疑的な声も聞かれる。
ブラジル中央銀行のカンポス・ネト総裁は、通貨レアルは変動相場制の通貨であり、中銀は相場のターゲットを設定していないと指摘。サンパウロでの講演で、レアルの最近の下落は大型の投資家を引き付けられなかった油田入札への失望に関連しているとした。アルゼンチンは苦境にある通貨ペソの安定に向け通貨管理を導入した。
ブラジルのボルソナロ大統領の報道官を務めるオタビオ・バロス氏は、通貨について協議するため米当局者と連絡を取ると語った。
トランプ大統領はこのほか「連邦準備理事会(FRB)は多くの国がドル高をうまく利用することを防ぐために行動を起こす必要がある」と投稿。FRBに対し他の国が通貨切り下げを通して経済的な利益を得ることを防止するよう呼び掛け、「FRBは金利を引き下げ、(政策を)緩和する必要がある!」と投稿した。FRBは10─11日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開く。
ブラジルの鉄鋼ロビー団体、Instituto Aco Brasilは声明で、レアルは自由変動通貨であるため、ブラジル政府はレアル相場を操作できないと指摘。「米国の農業部門の『損失を補填する』手段としてブラジルの鉄鋼に関税を掛けることは、ブラジルに対する報復措置である」とし、「このような決定で結局は米国の製鉄業界が打撃を受ける」とした。
*内容を追加しました。