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焦点:大震災から11年、原発再稼働に議論の機運 実現には高い壁

発行済 2022-03-11 14:47
更新済 2022-03-11 14:55
© Reuters.  ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本でもエネルギー安全保障の議論が進みつつあるが、東京電力福島第1原発事故以降、安全性への根強い不信感を背景に政府は再稼働スケジュールの前

[東京 11日 ロイター] - ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本でもエネルギー安全保障の議論が進みつつある。中でも、原子力発電所の再稼働に向け、与野党や経済界から表立った発言が増えてきている。ただ、東京電力福島第1原発事故以降、安全性への根強い不信感を背景に政府は再稼働スケジュールの前倒しには明確な姿勢を示していない。今夏には参議院選挙を控えており、原発推進派が期待するような動きになるかは不透明だ。

<相次ぐ発言>

自民党の電力安定供給推進議員連盟(細田博之会長)は10日、会合を開き、緊急決議を採択。稼働を停止している原発について、安全の確保を優先しつつ、緊急的に稼働させることを政府に求めた。ウクライナ危機により世界的に天然ガスの供給不安が生じており、火力発電依存が高い日本にとって電力の安定供給に影響が及びかねない危機的状況にある、とした。

現在稼働している原発は6基。年間発電電力量に占める原子力発電の割合は、事故前の2010年度には26%だったが20年度は3.7%にとどまる。政府がまとめたエネルギー基本計画では、30年度に20―22%を占めることになっているが遠く及ばない。その代わり液化天然ガス(LNG)は29%から37%に高まっている。

高いエネルギーコストに苦しめられている企業からも「原発の意味合いを考え直してほしい。原発の位置付けをはっきりさせる時期にきている」(日本商工会議所の三村明夫会頭、3日の定例会見)との指摘が出ている。

さらに野党も、国民民主党の玉木雄一郎代表が4日、岸田文雄首相らと会談した際、法律に基づく安全基準を満たした原発の再稼働に取り組むよう要請した。

欧州連合(EU)の欧州委員会が2月、原子力と天然ガスを脱炭素に貢献するエネルギーと位置付ける方針を発表したことも、原発推進派にとっては追い風だ。

複数の政府関係者は「(欧州も)ようやく現実路線となった。原発抜きで脱炭素を論じることは非現実的だ」とロイターの取材に答えた。

そのうちのひとりは、中期的に再生可能エネルギーの中心を担うとされる太陽光発電は、近い将来に廃棄の問題が浮上すると懸念を示す。また、別のひとりは、エネルギー源を分散させる必要性があると強調する。

別の政府関係者は、原子力政策について、潮目が大きく変わる時が来ている、と指摘する。

「原発を稼働させれば問題はない。国民の中で理解が得られれば、安全性を確保した上で、再開のスケジュールを早めるという、要するに審査を早めてくれという選択肢はあると思う」と、小野寺五典元防衛相は8日に実施したロイターのインタビューで、再稼働を早めることがベストオプションとの見方を示した。

主要7カ国(G7)が急きょ、10日夜に開いたエネルギー関係閣僚会議では、将来的にロシアに対するエネルギー依存度を下げていくことを目指すことで合意。LNG開発投資を増やすほか、原子力の有効性についても確認するなど、エネルギー源の多様化を進めることで一致した。

<越えるべきハードル>

ただ、11年3月11日の福島原発事故以降、再稼働が進まなかった現実があり、今後、動きが加速するのかは不透明だ。

東京電力ホールディングスの柏崎刈羽6、7号機は不祥事が続き、経営再建計画の中で、再稼働は最短で22年度と想定するなど、再稼働への歩みは進まない。

東北電力の女川原発2号機は、安全対策工事の完了が予定より2年遅れて22年度になると発表。再稼働は22年度以降となる。

住民が運転差し止めを求めた訴訟で水戸地裁に「防災体制が不十分」と断じられた日本原子力発電の東海第2原発は、実効性ある広域避難計画など越えるべきハードルは高い。

原子力規制委員会の更田豊志委員長は「安全上の議論は商業的な利益などに影響されない」との立場を明確にしている。エネルギー需給問題が取り沙汰される中においても「科学的・技術的な観点から十分な安全性が確保されていると確認したものについて、許可なり認可を行っている。この構図は変わらない」と、安易な再稼働の議論をけん制する。

安全性という面では、ウクライナの原発施設をロシア軍が攻撃するという、これまで想定していなかった事態も生じている。原子力規制委員会によると、原発におけるテロ対策は、大型航空機の意図的な衝突に耐えられることが規制基準となっている。しかし、ウクライナで生じたような「武力攻撃」に対する規制基準はない。どの程度の武力に耐えられることを前提とするかは「原子力規制の範囲を超えており、政府の判断」(更田委員長)となる。

ある与党関係者は、ウクライナ危機で原発のリスクが改めて認識されており「今夏の参院選前の原発再稼働前倒しの議論は難しい」とみている。

<地元からは「短絡的な議論」>

原発の立地地域では、依然として不信感はぬぐえていない。

福島県飯館村に住む田尾陽一氏(元工学院大学客員教授、現「NPO法人ふくしま再生の会」理事長)は「原発を作るというのは、自分で爆弾を作る現状を作っている。それをエネルギー安全保障のために動かすというのは子供だましの話」と指摘する。

女川原発再稼働反対グループのメンバー、多々良哲氏は「石油や天然ガス(の価格)が上がるのは困るだろう。でもだからといって原発だということに結びつけるのは全く、近視眼的な、短絡的な議論だと思う」と話す。

再び事故を起こすことは許されない。萩生田光一経産相は11日の会見で「いかなる事情より安全性を最優先する」と明言。「国も前面に立って、立地自治体などの関係者の理解と協力を得られるようにしっかりと粘り強く取り組んでいく決意だ」と述べている。

ある政府関係者は、科学的・技術的な観点を持って、地元の理解を得るべく説明をしていく考えだとしている。

© Reuters.  ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本でもエネルギー安全保障の議論が進みつつあるが、東京電力福島第1原発事故以降、安全性への根強い不信感を背景に政府は再稼働スケジュールの前倒しには明確な姿勢を示していない。写真は東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原発、2012年11月撮影(2022年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

欧州では、フランスのマクロン大統領が昨年11月、原発増設の方針を示した。一方で、ドイツ政府は8日、ロシアへのガス依存を減らすために浮上した原子力発電所の稼働延長案を却下した。

日本国内で原発再稼働の議論がにわかに活発化するなかで、「化石燃料の価格高騰や供給不安は、化石燃料だから必然的に生じるリスクであり、そこから逃れるには再生可能エネルギー中心の脱炭素化しかない」(高橋洋・都留文科大学教授)との指摘も出ている。

(清水律子、村上さくら 取材協力:大林優香、金子かおり、竹本能文 編集 橋本浩)

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