Simon Jessop Tommy Wilkes
[ドバイ 12日 ロイター] - ドバイで開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、石油・ガス関連企業大手が温室効果ガスの削減目標に合意したが、ESG(環境、社会、ガバナンス)ファンドの多くは、対象とする排出元の範囲が狭く、石油・ガス大手をポートフォリオに組み入れるには不十分な内容と見ていることが、関係者6人への取材で分かった。
石油・ガス関連企業大手50社は2030年までに温室効果ガスのメタン排出をゼロにし、さらに50年には自社のエネルギー使用と生産における温室効果ガス排出の実質ゼロを目指す取り決めに合意した。
50社の排出削減目標は、自社の事業による排出である「スコープ1」と「スコープ2」を対象とし、サプライチェーン(供給網)や利用者の排出である「スコープ3」を含んでいない。エネルギー企業において、スコープ3の排出は85%を占める。
持続可能な事業に投資するESGファンドの投資家は、エネルギー大手の取り決めは時流に遅れており、十分ではないと見なしている。
資産運用大手キャンドリアムは、自社のESGファンドから主要な石油・ガス企業を除外する方針を継続すると表明。50社の取り決めについて、地球の気温上昇を産業革命前から1.5度以内に抑えるパリ協定の目標達成にとって望ましいシナリオに全く沿っていないとした。
首席ESGアナリストのアリックス・ジョンソン氏は「これまでと同量の石油・ガスを、より炭素効率の高い方法で生産しても低炭素世界への移行とは言えない。主要なエネルギー源を化石燃料から低炭素エネルギーへとシフトする必要がある」と述べた。
<一歩前進だが不十分>
ESGファンドは、従来型のエネルギー生産者にどのようにアプローチすべきか、長い間頭を悩ませてきた。一部には、こうした企業から投資を引き揚げても効果はなく、排出を減らす、つまりスコープ3に責任を持たせるよう説得した方がよいとの意見もある。
プリンシパル・アセット・マネジメントのグローバル投資責任者、カマル・バティア氏は、エネルギー転換戦略を持たない「化石燃料企業」は、純粋なESGファンド組み入れの環境上の定義を「100%満たしていない」と指摘する。
資産運用会社フェデレーテッド・ハーミーズのレオン・カムヒ氏は、先週ドバイで開かれた業界関係者の夕食会で、大手50社の取り組みは「大きな前進」だが、十分ではないと述べた。
英金融シンクタンク、カーボン・トラッカーの調べによると、石油・ガス大手25社のうちパリ協定に沿った排出目標を掲げているのはイタリアのエニのみで、同社も上流部門への投資計画や報酬政策など他の指標はパリ協定に沿っていない。
<経済情勢が変化>
ウクライナ戦争で化石燃料価格が高騰する中、ESGファンドは石油・ガスセクターへの投資が増加。同時に世界の多くの地域で生活費高騰の危機が発生し、持続可能な投資から、最も簡単に得られる株主利益へと焦点が戻った。
米調査会社モーニングスターのデータによると、米国のサステナブルなオープンエンド型ファンドと上場投資信託(ETF)のうち石油・ガス株を保有するファンドの割合は9月に49%となり、3年前の43%から上昇。従来型ファンドではこの割合が同期間に45%から68%に上がった。
しかし、エネルギー価格が低迷するにつれてファンドは石油・ガスへの投資割合を縮小している。モーニングスターのデータによると、米サステナブルファンドの石油・ガス株への平均エクスポージャーは2022年末ごろには2%だったが、今年9月には1.86%に低下。従来型ファンドは9月が5.3%で、サステナブルファンドの方が低下ペースが速い。
欧州連合(EU)域内でサステナブルとして販売されているファンドの石油・ガスへの平均エクスポージャーは2022年末ごろに3.33%のピークを付け、今年9月に2.43%に下がった。
サステナブル志向の強い投資家が利害関係者として石油メジャーに影響を与えようとしてもほとんど成果を上げていないと、米国の富豪で環境保護活動家のトム・スタイヤー氏はドバイでロイターに語った。スタイヤー氏は、米エクソンモービルがシェール大手パイオニア・ナチュラル・リソーシズを600億ドルで買収すると発表したことに触れ、「100年の歴史を持つ企業文化を変えることがいかに難しいかを認識することは非常に重要だ」と述べた。
<再エネ移行は期待できず>
一部のESG投資家は「石油・ガス企業が再生可能エネルギー企業に転換することはない」という現実を突きつけられて、エネルギー大手への投資の意義が弱まっていると、ジェフリーズの持続可能性・移行戦略ヘッド、アニケット・シャー氏は指摘する。
石油・ガス会社は株主への配当を優先し、設備投資を減らしている。国際エネルギー機関(IEA)の試算によると、2022年には、企業支出10ドル当たりの設備投資は5ドル弱と2008年の8.6ドルから減り、低炭素向け設備投資の割合は0.1ドルに過ぎなかった。
脱炭素を目指す国際的なアセットオーナーの枠組み「ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス」(NZAOA)の議長で独アリアンツの取締役のギュンター・タリンガー氏は「エネルギー供給企業が『本気で供給源と供給方法の変革を目指している』と言うのなら、もっと信頼性を高める必要がある」と苦言を呈した。