■業績動向
(1) 2016年12月期第3四半期累計の業績概要
2016年11月14日付で発表されたカイオム・バイオサイエンス {{|0:}}の2016年12月期第3四半期累計の業績は、売上高が前年同期比19.1%減の175百万円、営業損失が827百万円(前年同期は936百万円の損失)、経常損失が827百万円(同920百万円の損失)、四半期純損失が964百万円(同949百万円の損失)となった。
売上高は創薬支援事業の減収を主因に落ち込んだものの、研究開発テーマの絞り込みを進めたほか、希望退職者募集を実施するなどで人件費の圧縮に取り組むなどの費用減により、営業損失は前年同期比で109百万円縮小した。
ただ、特別損失として(株)イーベックにかかる投資有価証券評価損113百万円、及び希望退職者の募集に伴う特別退職金24百万円(8名)を計上した結果、四半期純損失は前年同期よりも14百万円拡大した。
なお、イーベックは血液Bリンパ球から完全ヒト抗体を作製する独自プラットフォーム技術を有するバイオベンチャーで、抗体作製技術においてシナジーが見込めると判断し、2015年10月に同社株式の10%を114百万円で取得していた。
なお、2016年12月期第3四半期末の従業員数は前期末比13名減の46名となったが、当面は現状の人員規模で事業活動を継続していく方針となっている。
a)創薬事業
創薬事業の売上高は18百万円(前年同期比10百万円減少)、セグメント利益(売上総利益)は15百万円(同13百万円減少)となった。
主にADCTとの「LIV-2008b」にかかるADC開発用途でのオプションライセンス契約締結(2016年3月)に伴う契約一時金を売上高として計上している。
ADCTとは2015年も「LIV-1205」についての開発・販売権に関するオプションライセンス契約を締結しており、現在は両抗体の評価をインビトロ(試験管内)試験で確認している段階にある。
評価期間についての目安は「LIV-1205」が2017年前半、「LIV-2008b」が2018年前半頃までかかるものと想定しており、その後に独占的開発販売権の許諾契約を締結するかどうかをADCTが判断することになる。
また、「LIV-1205」については、米国国立がん研究所と小児がんを対象とした非臨床試験の実施プログラムの中のプロジェクトの1つとして採択され、試料提供契約を締結したと2016年10月に同社から発表されている。
同研究所が運営するPPTC(Pediatric Preclinical Testing Consortium:小児がんのための非臨床試験組合)の開発候補抗体として、「LIV-1205」の可能性を小児がんの特徴を反映した動物モデルで評価していくものとなる。
なお、PPTCでは小児がんを対象とした非臨床試験の実施プログラムで10年の実績があり、50以上の製薬企業と協力して小児がんのモデルで新薬候補を評価している。
今回の契約による業績への直接の影響はないものの、本プログラムへの採択が「LIV-1205」の初期臨床開発への重要な一歩になると同社では考えている。
b)創薬支援事業
創薬支援事業の売上高は156百万円(前年同期比30百万円減少)、セグメント利益(売上総利益)は59百万円(同29百万円減少)となった。
このうちオリジナルADLib®システムの技術導出先である富士レビオからのライセンス料及び「ビタミンD測定用の抗体を含む診断キット」の販売に伴うロイヤルティ収入は約24百万円と前年同期並みの水準だったと見られる。
ただ、富士レビオとのADLib®システムの共同開発契約は9月末で終了しており、第4四半期以降は製品販売に伴うロイヤルティ収入のみが売上げに計上されることになる。
富士レビオではADLib®システム技術を用いて複数の診断薬キットを開発しており、これら製品が上市されれば、同社の売上高も増えていくものと予想される。
今回、富士レビオとの共同開発契約は終了となったが、この発表以降、同技術に対する問い合わせが増えているという。
今後、コンパニオン診断薬の市場拡大が見込まれるなかで、各社とも抗体を用いた新規の治療および診断マーカーの研究・開発に注力していることが背景にあると見られ、今後、ADLib®システムを使って開発を進める企業が出てくる可能性は十分ある。
また、同事業セグメントの売上高の大半を占める創薬支援サービスについては若干の減収となった。
主要顧客となる中外製薬グループ向けの案件の進行状況などにより若干減少したことが主因だが、他の大手製薬企業やアカデミアとの抗体作製プロジェクトは増加傾向にある。
なお、中外製薬グループのChugai Pharmabody Research Pte. Ltd.との委託研究取引契約について、契約期間を2021年12月末まで延長したことを発表している。
c) ADLib®システムの研究開発状況
ADLib®システムの研究開発状況としては、大手製薬企業やアカデミア等との抗体作製プロジェクトを通じて、技術の底上げが着実に進んでいるようだ。
完全ヒトADLib®システムの開発状況としては、特異性を持った抗体は作製できるものの、機能性(薬効を持っているかどうか)や安定性も併せ持った抗体を作製・評価するまでには至っていないようで、今後も抗体作製の実績を積み重ねながら臨床開発で使用可能な実用レベルでの抗体開発を進めていく考えだ。
抗体作製に関してはここ最近、アジア企業の台頭もあって既存技術により比較的安価なコストで行われるようになってきている。
このため製薬企業もADLib®システムのような新技術の導入には慎重で、技術導出が進まない要因の1つになっている。
このため、ADLib®システムの技術導出を実現するためには困難抗原での治療薬候補抗体としてポテンシャルを持つ抗体を作製することが当面の課題となっている。
(2) 2016年12月期の業績見通し
2016年12月期の業績見通しを同社側では開示していない。
創薬事業について現段階で合理的な業績予想の算定が困難なためだ。
創薬支援事業の売上高については、前期の246百万円から227百万円と若干の減少を見込んでいるが、これは旧(株)リブテックとヤクルト本社 (T:2267)の「LIV-1205」に関するライセンス契約終了に伴う清算手続きで、前期に24百万円の一時収入を売上計上した反動減が主因となっている。
第3四半期までの進捗状況はほぼ会社計画どおりで推移している。
今期の事業方針としては、創薬支援事業で安定的な事業資金を確保しつつ、企業価値拡大に向けた初期臨床開発費用捻出のため、筋肉質な組織体制の構築を進めることとしている。
研究開発費(人件費含む)も、優先度の高い研究テーマに絞り込んで開発を行っていくことで、前期の828百万円から585百万円に抑制する計画となっている。
また、人件費についても人員減に伴い、前期比で100百万円程度の削減が見込まれている。
このため、通期の営業損失も前期から縮小することが見込まれる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
(1) 2016年12月期第3四半期累計の業績概要
2016年11月14日付で発表されたカイオム・バイオサイエンス {{|0:}}の2016年12月期第3四半期累計の業績は、売上高が前年同期比19.1%減の175百万円、営業損失が827百万円(前年同期は936百万円の損失)、経常損失が827百万円(同920百万円の損失)、四半期純損失が964百万円(同949百万円の損失)となった。
売上高は創薬支援事業の減収を主因に落ち込んだものの、研究開発テーマの絞り込みを進めたほか、希望退職者募集を実施するなどで人件費の圧縮に取り組むなどの費用減により、営業損失は前年同期比で109百万円縮小した。
ただ、特別損失として(株)イーベックにかかる投資有価証券評価損113百万円、及び希望退職者の募集に伴う特別退職金24百万円(8名)を計上した結果、四半期純損失は前年同期よりも14百万円拡大した。
なお、イーベックは血液Bリンパ球から完全ヒト抗体を作製する独自プラットフォーム技術を有するバイオベンチャーで、抗体作製技術においてシナジーが見込めると判断し、2015年10月に同社株式の10%を114百万円で取得していた。
なお、2016年12月期第3四半期末の従業員数は前期末比13名減の46名となったが、当面は現状の人員規模で事業活動を継続していく方針となっている。
a)創薬事業
創薬事業の売上高は18百万円(前年同期比10百万円減少)、セグメント利益(売上総利益)は15百万円(同13百万円減少)となった。
主にADCTとの「LIV-2008b」にかかるADC開発用途でのオプションライセンス契約締結(2016年3月)に伴う契約一時金を売上高として計上している。
ADCTとは2015年も「LIV-1205」についての開発・販売権に関するオプションライセンス契約を締結しており、現在は両抗体の評価をインビトロ(試験管内)試験で確認している段階にある。
評価期間についての目安は「LIV-1205」が2017年前半、「LIV-2008b」が2018年前半頃までかかるものと想定しており、その後に独占的開発販売権の許諾契約を締結するかどうかをADCTが判断することになる。
また、「LIV-1205」については、米国国立がん研究所と小児がんを対象とした非臨床試験の実施プログラムの中のプロジェクトの1つとして採択され、試料提供契約を締結したと2016年10月に同社から発表されている。
同研究所が運営するPPTC(Pediatric Preclinical Testing Consortium:小児がんのための非臨床試験組合)の開発候補抗体として、「LIV-1205」の可能性を小児がんの特徴を反映した動物モデルで評価していくものとなる。
なお、PPTCでは小児がんを対象とした非臨床試験の実施プログラムで10年の実績があり、50以上の製薬企業と協力して小児がんのモデルで新薬候補を評価している。
今回の契約による業績への直接の影響はないものの、本プログラムへの採択が「LIV-1205」の初期臨床開発への重要な一歩になると同社では考えている。
b)創薬支援事業
創薬支援事業の売上高は156百万円(前年同期比30百万円減少)、セグメント利益(売上総利益)は59百万円(同29百万円減少)となった。
このうちオリジナルADLib®システムの技術導出先である富士レビオからのライセンス料及び「ビタミンD測定用の抗体を含む診断キット」の販売に伴うロイヤルティ収入は約24百万円と前年同期並みの水準だったと見られる。
ただ、富士レビオとのADLib®システムの共同開発契約は9月末で終了しており、第4四半期以降は製品販売に伴うロイヤルティ収入のみが売上げに計上されることになる。
富士レビオではADLib®システム技術を用いて複数の診断薬キットを開発しており、これら製品が上市されれば、同社の売上高も増えていくものと予想される。
今回、富士レビオとの共同開発契約は終了となったが、この発表以降、同技術に対する問い合わせが増えているという。
今後、コンパニオン診断薬の市場拡大が見込まれるなかで、各社とも抗体を用いた新規の治療および診断マーカーの研究・開発に注力していることが背景にあると見られ、今後、ADLib®システムを使って開発を進める企業が出てくる可能性は十分ある。
また、同事業セグメントの売上高の大半を占める創薬支援サービスについては若干の減収となった。
主要顧客となる中外製薬グループ向けの案件の進行状況などにより若干減少したことが主因だが、他の大手製薬企業やアカデミアとの抗体作製プロジェクトは増加傾向にある。
なお、中外製薬グループのChugai Pharmabody Research Pte. Ltd.との委託研究取引契約について、契約期間を2021年12月末まで延長したことを発表している。
c) ADLib®システムの研究開発状況
ADLib®システムの研究開発状況としては、大手製薬企業やアカデミア等との抗体作製プロジェクトを通じて、技術の底上げが着実に進んでいるようだ。
完全ヒトADLib®システムの開発状況としては、特異性を持った抗体は作製できるものの、機能性(薬効を持っているかどうか)や安定性も併せ持った抗体を作製・評価するまでには至っていないようで、今後も抗体作製の実績を積み重ねながら臨床開発で使用可能な実用レベルでの抗体開発を進めていく考えだ。
抗体作製に関してはここ最近、アジア企業の台頭もあって既存技術により比較的安価なコストで行われるようになってきている。
このため製薬企業もADLib®システムのような新技術の導入には慎重で、技術導出が進まない要因の1つになっている。
このため、ADLib®システムの技術導出を実現するためには困難抗原での治療薬候補抗体としてポテンシャルを持つ抗体を作製することが当面の課題となっている。
(2) 2016年12月期の業績見通し
2016年12月期の業績見通しを同社側では開示していない。
創薬事業について現段階で合理的な業績予想の算定が困難なためだ。
創薬支援事業の売上高については、前期の246百万円から227百万円と若干の減少を見込んでいるが、これは旧(株)リブテックとヤクルト本社 (T:2267)の「LIV-1205」に関するライセンス契約終了に伴う清算手続きで、前期に24百万円の一時収入を売上計上した反動減が主因となっている。
第3四半期までの進捗状況はほぼ会社計画どおりで推移している。
今期の事業方針としては、創薬支援事業で安定的な事業資金を確保しつつ、企業価値拡大に向けた初期臨床開発費用捻出のため、筋肉質な組織体制の構築を進めることとしている。
研究開発費(人件費含む)も、優先度の高い研究テーマに絞り込んで開発を行っていくことで、前期の828百万円から585百万円に抑制する計画となっている。
また、人件費についても人員減に伴い、前期比で100百万円程度の削減が見込まれている。
このため、通期の営業損失も前期から縮小することが見込まれる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)