[シカゴ 8日 ロイター] - 米メルクと米ファイザーが開発した新型コロナウイルス感染症治療の飲み薬は、早期に服用すれば重症化や死亡のリスクを抑えられる効果が確認された。しかし、医師らは治療薬の効果とワクチンの予防効果を混同し、ワクチン接種をためらうことがあってはならないと、警鐘を鳴らしている。
カイザー・ファミリー財団の調査によると、米国では成人の72%が1回目のワクチン接種を終えたが、その後の接種ペースは減速している。米国ではコロナワクチンの価値と安全性について、党派間で見解が分かれており、企業や州、連邦政府による接種義務化が接種を促進する半面、接種を巡る論争をあおった側面もある。
経口治療薬の登場により、接種プログラムがさらに阻まれる可能性も指摘されている。ニューヨーク市立大学(CUNY)公衆衛生大学院が市民3000人を対象に行った調査では、治療薬が「ワクチン接種を進める取り組みの障害になりかねない」(CUNYの公衆衛生コミュニケーション専門家、スコット・ラットザン氏)との暫定結果が出た。
ラットザン氏によると、調査対象の8人に1人は、ワクチンを接種されるよりも治療を受ける方がましだ、と答えた。「これは高い数値だ」と同氏は言う。
ファイザーは5日、新型コロナ治療薬「パクスロビッド」の臨床試験(治験)で、重症化とそれに続く死亡を89%抑える効果を確認したと発表した。これに先立ち、メルクなどは10月、抗ウイルス薬「モルヌピラビル」が重症化・死亡リスクを半分に抑えると発表。英当局は4日にモルヌピラビルを条件付きで承認した。
両薬ともに、米当局の承認はまだ得ていない。だが、12月には販売される可能性がある。
ただ、米ベイラー医科大学のワクチン専門家、ピーター・ホテズ氏は「抗ウイルス薬だけに頼るのはサイコロを振るようなものだ。確かに何もないよりはましだが、イチかバチかの賭けになる」と語る。
ロイターが取材した感染症専門家6人は、有効な治療法が登場することを一様に大歓迎しているが、ワクチンの代わりにはならない、という点でも意見の一致を見た。
ジョージワシントン大学の救急医リーナ・ウェン氏は「ファイザーのニュースは素晴らしい朗報だ。ワクチンと併せて効果を発揮するが、代わりにはならない」と言う。
ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)は5日のロイターのインタビューで、ワクチン接種を受けない選択を行えば「悲劇的な間違いになる」と強調。「(新薬は)治療薬だ。不幸にも感染症を患った人々のためのものだ」とし「自らを守らず、自分自身と家族、社会を危険にさらす理由にはならない」と述べた。
<早期投与の難しさ>
専門家らによると、体内でウイルスの複製を阻止する抗ウイルス薬は、感染初期の限られた期間に投与する必要がある。この点が、新薬だけに頼るべきではない主な理由の1つとなる。新型コロナウイルス感染症には複数の段階があるからだ。
最初の段階で、ウイルスは体内で急速に複製する。しかし、新型コロナの最悪の症状の多くは第2段階で表れる。複製したウイルスが引き起こす免疫反応による現象だ。
非営利組織、ジャスト・ヒューマン・プロダクションズの創設者である感染症専門家、セリーヌ・ガウンダー氏は「入院が必要な息切れやその他の症状をひとたび起こしてしまえば、免疫不全段階に入ったということであり、抗ウイルス薬は大した効果を発揮しなくなる」と言う。
ホテズ氏も同意見だ。同氏によると、ウイルスが複製段階から炎症段階に移行するまでの期間は流動的なため、十分に早い段階で治療を受けることは簡単ではない。「ある人は早めに移行し、他の人は遅めに移行する」という。
ホテズ氏は、感染症の初期段階では多くの人々が驚くほど体調が良いと説明。このため、炎症段階の始まりを告げる初期兆候の1つである酸素レベルの低下に気付かない可能性があるという。
「病気を患ったと気付いた時には手遅れ、ということがしばしば起こる」とホテズ氏は述べた。
(Julie Steenhuysen記者)