[シカゴ 29日 ロイター] - 米疾病対策センター(CDC)が新型コロナウイルス感染防止の指針を改定し、無症状の感染者の隔離期間を10日から5日に短縮したことを巡り、専門家から批判の声が出ている。これでは感染防止の効果がなくなり、新変異株オミクロン株の拡大によって既に記録的水準にある米国内の感染者数をさらに増大させかねないというのが理由だ。
CDCは、隔離終了後も5日間は他者と接触する場面でのマスク着用を求めている。こうした指針改定に踏み切った背景には、無症状者や感染していない濃厚接触者まで10日の隔離措置を続ければ、今後数週間のうちにさまざまな業界で自宅にとどまらざるを得なくなる働き手がもっと増えてしまうという事情がある。
科学者が主に懸念しているのは、新たな指針がワクチン接種者と未接種者を区別せず、症状回復まで人によってかなり差がある点に配慮していない点だ。隔離を終えて職場や社会に復帰する前に、もう感染力がないと確認するための検査も義務付けていない。
スクリプス・トランスレーショナル研究所のエリック・トポル所長は「ワクチン未接種者はウイルスが消えて感染力がなくなるまでにずっと長い時間がかかる。ウイルスがいなくなるまである人は1日でも、別の人は1週間かそれ以上になる」と述べた。
トポル氏からみれば、新指針はCDCがこれまでに打ち出した中で最低の内容で、科学的根拠に従ってパンデミックを抑制するというバイデン政権の約束を無視しているという。
同氏や他の専門家は、5日間の隔離とワクチン接種・未接種者を区別しない扱い、隔離終了時の検査義務なしというやり方の正しさを裏付ける、オミクロン株の動きの面からの材料は不十分だと指摘している。
CDCのワレンスキー所長は29日、新指針について、感染の最大90%が発症後5日以内に起きているという科学的知見に基づくものだと説明。パンデミック発生以来、完全な10日間の隔離を積極的に受け入れた人はごく少数だったという現実とも釣り合わせたと述べた。
またワレンスキー氏は同日のホワイトハウスにおける会見で、標準的なPCR検査では感染者は数週間陽性反応が出続けるので、いつ隔離を終えることができるかの判断には使えないと発言した。一方CNNテレビでは、迅速抗原検査を通じて患者の症状がなくなった時点での感染力をはっきり予測できるかどうか分からないとの見方も示した。
米国以外にも複数の国が隔離期間短縮に動いている。世界保健機関(WHO)の緊急対応責任者マイク・ライアン氏によると、これは過去の変異株に関する研究とオミクロン株を巡るこれまでの知見に基づき、想定外の要素を勘案していない判断のようだという。
ライアン氏は29日のジュネーブでの会見で「純粋に暫定的な研究結果に基づいた新型コロナウイルス抑制措置の縮小という面で(前提条件に)大きな変化がないとすれば、それは当を得ていることになる」と語った。
<理想と現実>
米国の新規感染者数の1日当たり平均は29日時点で26万人近くと過去最高を更新。多くが軽症か無症状とはいえ、感染確認や濃厚接触のため次々と隔離が必要となっていることで、国内の人手不足に拍車が掛かっている。
これまで最も痛手が大きいのは航空業界で、年末年始の休暇期間中に乗務員が自宅待機を強いられた影響で何千便もが欠航した。
ジョンズ・ホプキンス大学の感染症専門家デービッド・ダウディー氏は「突然これらの人々が全て同時に2週間も職場を離れれば、とてつもない混乱を引き起こすことになる」と懸念しつつ、解決策は簡単に見つからないと付け加えた。
こうした中でCDCの新指針は、不用意に感染者を増やしかねないと警告する声も聞かれる。
ブラウン大学のメーガン・ラニー公衆衛生学部長は今回の指針について、5月にCDCが示してさんざん批判された勧告と同じだとみている。この勧告は、ワクチン接種を終えた人は屋内公共スペースでマスクを外してもよいとする内容で、結果的に多くの未接種者まで屋内でマスクをしなくなり、新規感染者増加につながった公算が大きい。
CDCの狙いは、マスクを外せるという動機が国民に積極的なワクチン接種を促す点にあったが、大半が屋内のマスク着用義務に反対していた未接種者がその義務を守るということを当てにしていた。
同じように新指針も、5日間の隔離終了後に検査をせず、感染者が誠実にあと5日マスクをつけると想定している。しかしラニー氏は「人々は現在、マスクを着用していないという事実が分かっている」と話す。
そこで迅速抗原検査で陰性が証明された無症状ないし軽症の感染者のみ、隔離期間を短縮するという方法なら、妥当性が高まるだろう。
サスカチュワン大学のウイルス学者アンジェラ・ラスムセン氏は、そうしたやり方を推奨すれば誰もが混乱する悪い指針が、科学的証拠に基づく非常に合理的な指針に変わっていくとの見方を示した。
もっともラニー氏によると、検査キットの供給不足が続いている以上、迅速抗原検査の義務化は「ほぼ絵空事」だ。科学上の理想と現実の世界は別物だという。
(Julie Steenhuysen記者)