[ブリュッセル 21日 ロイター] - 世界保健機関(WHO)加盟国の年次拠出金をそれぞれ増額し、WHOの独立性を強化する形で資金面の安定を図る案を1月4日付でWHO作業部会が発表したことに対し、最大の資金拠出国である米国が抵抗している。事情に詳しい4人がロイターに明らかにした。
WHOへのバイデン米政権による長期的な支援に疑念を強めかねない動きだ。
この提案は、感染症の危機の初期にWHOが介入する力に限界があることがコロナ禍で浮き彫りになり、WHO改革の背中を押している流れの一環でまとめられた。
しかし、米当局者によると、中国などに起因する将来の脅威にWHOが立ち向かいにくくなるとの懸念から米政府は提案に反対している。米政府は代わりに、複数の拠出国が直接に管理する別個の基金を創設し、これによって公衆衛生の危機を予防・抑制することを推進しようとしている。4人の欧州関係者がロイターに認めた。
4日付の提案は、2024年から加盟国に義務付ける拠出金を少しずつ増額し、28年までにWHOの中核予算20億ドルの半分を満たせるようにする内容。現在は2割に満たない。
WHOの中核予算は世界各地での感染症大流行との闘いや公衆衛生システム強化が目的。このほかに年間約10億ドルを調達し、熱帯性疾病やインフルエンザなど特定の世界的な感染症との闘いに充てている。
提案の支持者によると、現状では加盟国からの自発的な資金拠出や慈善財団からの寄付に依存している形になり、拠出国などが考える優先事項をWHOが重視せざるを得なくなったり、問題が発生したときにWHOが加盟国を批判しにくくなったりする欠陥がある。
WHO改革の提言に向けて任命された感染症第三者委員会は、加盟国ごとの義務的拠出の総額を中核予算の75%まで高めることを答申していた。現在の制度ではWHOの独立性を大きく損なう恐れがあるとも指摘していた。
欧州関係者3人によると、4日付の提案を支持しているのはドイツなどの欧州勢やアフリカ諸国の大半のほか、南アジアや南米、中東諸国など。提案は1月下旬にWHO執行理事会で協議される予定だが、意見の食い違いがあるため合意は見込めないという。
WHOは提案を巡って加盟国の意見が一致していないことを認め、5月の世界保健総会まで協議が続く可能性が高いとしている。
欧州の当局者によると、米国の代替案は多くの加盟国から疑念を呼んでいる。この当局者は、米国が主張するような特定拠出国が管理する新基金の創設はWHOが管理するものではなくなり、WHOが将来の感染症大流行に立ち向かう能力を弱めると主張する。
バイデン政権は発足直後にトランプ前政権によるWHO脱退を撤回した。しかし、同政権当局者はロイターに対し、WHOには大規模な改革が必要だと指摘。現状のWHOの体制は特に中国などからの増大する脅威に対抗できるだけの統治やシステムがないとの懸念も表明している。
欧州当局者の1人によると、他の大きな拠出国では日本やブラジルなども4日付のWHO提案に消極的という。2人の欧州当局者によると、中国はこの提案への姿勢をまだ明らかにしていない。ただもう一人の欧州当局者は、中国政府もWHOによる提案に反対していると指摘した。