[北京 28日 ロイター] - 北京冬季五輪がまもなく開幕する。外交ボイコットや徹底した新型コロナウイルス感染対策などが暗い影を落とした準備期間は終わり、スポーツが舞台の中央に立つ。
北京は史上初の夏冬両大会開催都市となる。開会式の会場となる国家体育場(通称「鳥の巣」)など一部の施設は2008年夏季大会の再利用で、開会式の総監督を務めるのも08年大会と同じ著名監督の張芸謀(チャン・イーモウ)氏だ。
しかし、それ以外はほとんど様変わりした。
08年夏季大会では、日の出の勢いの中国が世界の表舞台に登場し、見る者を圧倒した。しかし今や中国は以前よりも裕福かつ強力になり、習近平国家主席の下で権威主義の様相を強め、欧米諸国と対立を深めている。
コロナ禍の時代にあって中国は「ゼロコロナ」戦略という独自路線を採り、ほぼすべての国際便の運航を停止した。このため選手らは、選手や関係者を外部と接触させない「バブル」の中にチャーター便で直接入る必要がある。
08年夏季大会と同様に、五輪によって中国の人権問題が再び注目を浴びた。中国の人権弾圧は08年大会以降悪化し、米政府は中国がイスラム系少数民族ウイグル族にジェノサイド(集団虐殺)を行っていると批判し、米国その他の国々が外交ボイコットに踏み切った。
中国は疑惑を否定し、大会の政治化だと繰り返し反発している。
オックスフォード大学のラナ・ミッター教授(中国史・政治学)は「08年夏季五輪は、世界的な影響力の獲得を目指す中国にとってソフトパワーの強力な源泉だった。この1年で西側世界における中国の評価は大幅に悪化した」と指摘した。
「中国共産党は22年冬季五輪によって、こうした状況を覆すことが何かできるのではないかと期待するだろう」
しかし今大会は地政学的な緊張が高まる真っただ中で始まる。ウクライナ国境沿いで軍隊を増強しているロシアのプーチン大統領とグテレス国連事務総長が大会期間中に北京を訪れる予定だ。
<時代の変化>
北京市内は08年大会ではカーニバルのような賑わいを見せたが、今回は新型コロナ感染拡大阻止のための制限措置に対する諦めムードが漂っている。
チケットが一般発売されないことに対する失望もある。
今大会は昨夏の東京大会よりもはるかに厳しい「閉じた輪」の中で実施され、新型コロナウイルスの新変異株オミクロン株への対応が試される。
情報セキュリティを心配する選手団の中には、プリペイドスマートフォンの持参を呼びかけているところもある。
選手や人権保護団体は、中国滞在中に政治的に微妙な話題について発言するのは危険だと警告している。
中国の著名な女性プロテニス選手、彭帥さんが中国最高指導部の元メンバーに性的関係を強要されたと訴え、その後一時所在が分からなくなったスキャンダルも中国批判に拍車を掛けた。
米国のある五輪選手はロイターの取材に、人権についての発言は自分の安全を脅かすことになるため、控えるつもりだと明かした。
「中国は自分たちにとって不愉快な発言を抑え込むために極端な手段も辞さないという姿勢を露わにしており、最近では彭帥さんの事件からもそれが分かる」と言う。
国際オリンピック委員会(IOC)は、選手は「バブル」内で行われる記者会見やインタビューで自由に意見を述べることができるが、競技中やメダル授与式ではできないとの方針を示している。一方、中国の当局者は最近、選手が五輪の精神や中国の規則に違反する行動を取れば罰せられる可能性があると述べた。
<安全な選択肢>
2022年冬季五輪の開催地選びはオスロなど複数の有力候補が辞退し、カザフスタンのアルマトイと北京の一騎打ちになったが、15年に北京がアルマトイを破った。ウィンタースポーツの歴史が浅く、雪も少ないにもかかわらず、IOCは安全な選択肢として北京を選んだ。
中国は、大規模な人口造雪による環境への影響が懸念されるものの、効率的に準備を進め、IOCの信頼に応えた。
1年遅れになった20年東京大会と異なり、北京大会は何が起こっても開催が大きく疑問視されたことはなかった。
大会ボランティアのイェ・ウェンシャオユーさん(20歳)は「08年大会はすごく壮大で、世界に向けて華やかなショーを見せてくれた」と振り返った。「今年の北京大会はとてもシンプルで、低炭素なものになる。でも当然ながら、そんなことと関係なく素晴らしい大会になるだろう」
(Tony Munroe記者)