[11日 ロイター] - 世界のサプライチェーン(供給網)危機が、今年末ごろにようやく解消に向かいそうな兆しが出てきた。しかし、目詰まりはあまりに激しく、一部の産業では「辛うじて正常」な状態に戻るのさえ来年の遅い時期になりそうだ。しかも、コロナ禍によって新たな混乱が生じないことが条件になる。
米食品大手・ケロッグのスティーブ・カヒレーン最高経営責任者(CEO)は「今年後半には人手不足、ボトルネック、サプライチェーン全体を現在見舞っている混乱が、徐々に和らぎ始めると期待している」と話す。同時に「混乱があまりにも劇的なので、2024年までは正常と言えるような環境には戻らないだろう」と付け加えた。
世界の貿易システムにとって、コロナ禍のような事態は初めての経験だった。
2020年当初、景気悪化に見舞われた企業は向こう1年間の生産計画を撤回した。ところが、その後にワクチンの急速な普及と景気刺激策の効果によって需要が上向くという不意打ちを食らった。
さらに、新型コロナウイルス感染防止のための制限措置と集団感染によって人手不足が生じ、工場が閉鎖を余儀なくされた。これは消費がサービスからモノに移行するタイミングと重なった。
欧州中央銀行(ECB)のレーン専務理事兼主任エコノミストはこの状況を、第2次世界大戦後になぞらえている。当時も需要が爆発的に伸び、企業は軍事物資から民生品の製造へと体制の急転換を迫られた。
今回、ドイツなどの輸出主導型経済は工場の供給ボトルネックが景気回復を阻む要因となった。一方、米国は輸送コストの急上昇と燃料価格の高騰が重なり、40年ぶりの高インフレに見舞われた。
<まだら模様>
現在、新型コロナのオミクロン株が従来株に比べて重症化を引き起こしにくいとして、各国当局が制限を緩めたため、供給問題が解消に向かいそうな兆候が垣間見えている。
米サプライマネジメント協会(ISM)の1月調査では、雇用と入荷状況が3カ月連続で改善。IHSマークイットが発表する製造業購買担当者景気指数(PMI)では、欧州でも供給制約が和らいでいることが示された。
IHSマークイットは、英国の調査について「相変わらずサプライチェーンの制約が成長を阻害し続けているが、峠は越えた兆しがある。このことが購入価格インフレのわずかな緩和につながっている」と説明した。
このため各国中銀は、年末に向けてインフレ圧力が目に見えて低下するとの期待を抱くようになった。中銀は一方で、実体経済がまだら模様のメッセージを発し続けていることも分かっている。
海運大手・マースクのソレン・スコウCEOはこのほど、港湾で再び働き始める労働者が増え、新しい船舶が運航を開始し、消費者は再びサービス消費を好むようになるとの想定に立って事業を進めていると述べた。
「今年のある時点で、もっと正常な状況になるだろう」という。
独海運大手・ハパックロイドも、第2・四半期に配送のボトルネックと運賃の高騰が和らぐと予想している。だが、海運業にとって大きな不透明要素は、いつになれば安心して納入スケジュールを立てられるようになるかだ。
海事調査会社シーインテリジェンスは、現在ほどの物流滞留は前例がないとしながらも、過去の経験に照らせば港湾と内陸地域の物流網が回復するのに8―9カ月を要するとみている。
同社のアラン・マーフィーCEOは「とは言え市場では、そうした軌道に沿って問題が解消に向かい始めた兆候は全く見られない」と述べた。
<コロナ禍前には戻らず>
全ての回復シナリオは、新たな問題が持ち上がらないことを前提としている。
トヨタ自動車や米ゼネラル・モーターズ(GM)、クライスラーの親会社・ステランティスが10日、カナダのトラック運転者らによる抗議デモの影響で部品が不足し、北米の生産が打撃を受けていると発表したことは、こうした薄氷の状況を思い知らせた。
また、日本やドイツ、国際通貨基金(IMF)の高官らは、中国がオミクロン株の感染拡大を封じ込めるために「ゼロコロナ」政策が大々的に展開し、ボトルネックが悪化する可能性を懸念している。
消費者がサプライチェーン危機の解消を実感できるのは、しばらく先になりそうだ。しかも、物価や品物の入手しやすさがコロナ禍前に戻ることは必ずしも期待できない。
自動車その他のメーカー幹部らは、今年は原材料価格が幅広く上昇するとの見通しを持っているが、値上げによってその一部もしくは全部を価格に転嫁できるとの自信を示している。
米二輪車大手ハーレー・ダビッドソンは在庫の制約に対処するため、バイクの注文に予約制を取り入れた。
物流大手・DSVのイエンス・ビョルン・アンダーセンCEOは、物流は完全に混乱に陥ったため、何があっても業界がコロナ禍前に戻ることはないと断言。「私は正常化という言葉を決して使わない」と語った。
(Mark John記者)