[ロンドン 26日 ロイター] - 英国は昨年末にコロナ禍前の経済規模を取り戻したが、重要な点がまだ回復していない。コロナ禍が始まった時点に比べ、労働人口が約40万人も減っているのだ。
この傾向は大半の先進諸国とは対照的で、40年ぶりの高さに達したインフレに拍車をかける恐れもある。
イングランド銀行(BOE、中央銀行)は、人手不足によって潜在成長率が圧迫され、賃金の上昇圧力がさらに強まることで、インフレ率を目標まで下げるのがさらに難しくなると懸念している。
人々が労働市場から脱落したのは、職不足が原因ではない。今年は求人件数が史上初めて求職者数を上回っており、失業率は1970年代以来で最低だ。
労働人口減少の原因は、長期にわたって病気を患う人や、早期退職者、全日制の大学や大学院で学ぶ若者が急増していることにある。このうち長期療養者の増加には、新型コロナウイルスの後遺症が影響している可能性がある。
BOEは、これらの要因のどれかが早期に好転するとは確信していない。加えて、欧州連合(EU)から離脱した英国はEU諸国からの労働者にも頼れなくなっているため、人手不足が原因でスタグフレーションに陥りかねない。
パンデミック以前の英国は労働参加率が高く、労働人口が着実に伸びていた。
就業者と求職中の人を合わせた数は、2019年第4・四半期に3420万人だった。だが、今年第1・四半期には3380万人に減っている。
経済協力開発機構(OECD)のデータによると、先進7カ国(G7)の中で、15―64歳の労働参加率が英国より大幅に下がったのはイタリアだけだ。
英国は、労働人口が減少し始めてからの期間も1990年代初頭以来で最長に達している。
ベイリーBOE総裁は今月の議会で、諸外国に比べてインフレが長引くと予想される理由について「(労働人口)減少のしつこさと規模に驚いている」と述べた。
<長期療養>
2019年第4・四半期から2022年第1・四半期の間に、長期の疾病を理由に労働市場から離脱した人は約23万3000人と、労働人口減少の約3分の2を占めた。早期退職者は4万9000人、全日制の学習を理由に挙げたのは5万5000人だった。
労働人口から離脱した理由として大きく減ったのは「家族もしくは家の世話」で、2019年末から15万6000人減少している。エコノミストによると、これは在宅勤務の広がりによって仕事と世話を両立しやすくなったことが原因かもしれない。
<原因はコロナ後遺症か>
長期間病気を患う人の増加が、どれほど直接的に新型コロナに起因するかを正確に示すのは難しい。
新型コロナの症状が1カ月以上続いている英国人の数は4月初めの時点で約180万人と報告されており、このうち34万6000人前後は日々の活動を「大きく制限」せざるを得ないほど症状が酷いと述べている。これは労働参加率低下の原因かもしれない。
BOEの金融政策委員会(MPC)のマイケル・ソンダース委員は最近の講演で、パンデミックによって緊急治療以外の医療を受けるための待ち時間が大幅に長期化したことで、病気が重症化して働けなくなる人が増えた可能性も指摘した。
この点について、他国と直接比較するためのデータは乏しい。しかし、英国よりも新型コロナの死亡率が13%低いスペインでは、2019年末から2022年初頭までに病気を理由に労働市場から離脱した人は4%の増加にとどまったのに対し、英国では12%増えている。
<ブレグジットが追い打ち>
英国は今、求人が増えており、今年第1・四半期には賃金が前年比7%上昇した。英国のEU離脱(ブレグジット)前であれば職に就く人が増え、必要に応じてEU諸国から労働者を呼び込んでいたところだろう。
しかし過去2年間で、英国で働くEU加盟国籍の人は21万1000人減った一方、非EUの労働者は18万2000人増えた。そして今ではほぼすべての外国人労働者がビザを取得する必要があるため、海外からの雇用は困難さを増し、適切な職能を備えた人材を素早く採用して穴を埋めるのはハードルが高くなっている。
BOEは最新の経済見通しで労働参加率の予想を下方修正。今後数年間で労働参加率はさらに下がる一方、インフレによる景気減速で失業率が上昇するとの見通しを示した。
さらには、働かなくなった理由として病気を挙げた人のほぼ全員が、もう就職は望んでいないとしている。
(David Milliken記者)