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焦点:コロナ困窮者を物価高が追い打ち、「分配」選挙に届かぬ声

発行済 2022-07-06 08:22
更新済 2022-07-06 08:30
© Reuters.  7月6日 東京の気温が今年初めて35度を超えた6月25日、東池袋中央公園にはNPO法人TENOHASHIが主催する食糧配布に長い列が出来ていた。6月25日、東京都豊島区

金子かおり

[東京 6日 ロイター] - 東京の最高気温が8日連続で35度を超え、2015年の過去最長記録と並んだ7月2日、新宿区の都庁前には食料を求める長い列ができていた。都内各地を参議院選挙の候補者が遊説して回る中、少し前まで航空会社の客室乗務員だった44歳のなおさん(本人の申し出により名字は掲載せず)は、帽子のつばをくるりと上げ、カーキ色のパンツと涼しげなサンダル姿で列に並んでいた。

「最初は食料配布に自分が行ってもいいのか躊躇(ちゅうちょ)した」。そう話す彼女は東北地方から上京して大学を出ると、日本の大手航空会社に就職した。外資系の同業他社に転職して海外で暮らしていたが、新型コロナウイルスの世界的流行で旅客需要が減って職を失った。

派遣などで働く今の月収は約10万円と、かつてのおよそ3分の1。東京の下町にある築40年、月6万円の賃貸物件に住んでいる。世界的なエネルギー価格の上昇で値上がりした電気代を節約するため、エアコンの効いた百貨店やオフィス街へ行き、「優雅なふりをして涼んでいる」と話す。100万円近くしたカルティエの時計、ブルガリのアクセサリー、あらゆるものを売り払った。

長引くコロナ禍は観光や飲食などサービス業を中心に仕事や収入を奪った。足元で感染拡大がいったん落ち着き、長いトンネルの出口にようやく差し掛かったタイミングで食料品や電気代などが値上がり、コロナで生活が苦しくなった人たちを直撃している。

7月10日投開票の参院選は、ウクライナ情勢を背景とした安全保障やエネルギー政策とともに「分配」が争点の1つになっている。岸田文雄首相が党総裁として率いる自民党は「成長」と「分配」を掲げ、野党第1党の座を争う立憲民主党も「格差是正」や「分配」を訴える。

しかし、食料配布の列に並ぶなおさんに主張は届かない。「分配政策になっていない。テレビさえない。情報を知っている人とそうでない人で差が出る」と話す彼女は、投票に行かないつもりだ。「海外から日本は貧困になったとみられている。防衛費を増やすなら、みんなが働ける仕組みや環境を作って欲しい」と、なおさんは語る。

<物価高、3%の消費増税に相当>

政府はコロナで収入を減らした人のために、無利子で小口資金を貸し付ける特例貸付制度の申請期限を今年8月末まで延長した。また、住民税非課税世帯への臨時特別給付金も実施している。厚生労働省の毎月勤労統計によると、2021年度の実質賃金指数は100.6と前年から0.5%増。5年ぶりにプラスに転じたが、コロナ前の2019年度の水準には戻っていない。

総務省が発表する失業率は、コロナ拡大直後も今年5月も2.6%と大きく悪化はしていない。しかし、その背景の一部には、政府が失業者を増やさないよう、コロナの影響で休業しても雇用を維持する事業者には補償を支払ったことがある。第一生命経済研究所の星野卓也・主任エコノミストの試算によると、休業者数を失業者数としてカウントした場合の失業率は、コロナ拡大直後の20年4月は11.5%だった。その後、徐々に改善し今年5月は5.4%となったが、こちらもコロナ前の水準には戻っていない。

みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介・上席主任エコノミストは、「食料含め生活必需品の価格が軒並み上がっている。所得の低い人たちは消費全体に占める生活必需品への支出の割合が高所得者に比べて高くなるため、打撃による負担感が大きい」と指摘する。同社試算によると、年収300万円未満の世帯では、燃料油価格の激変緩和措置が続いたとしても5万円程度の負担増となる。同措置がない場合の負担増は6万円超。3%程度の消費増税に相当するという。

NPO自立生活サポートセンター「もやい」が毎週土曜日に都庁前で実施する食料配布に並ぶ人の数は、今年に入り1日で過去最多の550人を超えた。その後も500人前後が列を作る。大西連理事長は「本来は自立しているとみなされるような人達が、今は常に低所得状態にある」と語る。「今後は中間層も生活が苦しくなる。負担が増えるので寄付をするとかボランティア活動をするという気持ちの余裕がなくなってくるかもしれない」と危惧する。

46歳のがくさん(本人の申し出により名字は掲載せず)は、コロナ前までフリーカメラマンとして学校の修学旅行などに同行して写真を撮っていた。しかし、コロナ禍の影響で学校行事がなくなり、最後に撮影の仕事をしたのは2020年の3月から4月ごろ。貯金を生活費に当てていたが、それも底をついてきた。

© Reuters.  7月6日 東京の気温が今年初めて35度を超えた6月25日、東池袋中央公園にはNPO法人TENOHASHIが主催する食糧配布に長い列が出来ていた。6月25日、東京都豊島区で撮影(2022年 ロイター/Kaori Kaneko)

東京の気温が今年初めて35度を超えた6月25日、がくさんは豊島区の東池袋中央公園へ出向き食料配布の列に並んだ。昨年の冬以来2回目だ。食事は仕事がないため昼ごろ起きて1食目、夜に2食目。「近くの業務用スーパーで買い物をしているが、100円だったパスタが最近130円から140円くらいに値上がりした」と話す。電気代も月3000円から4000円程度に上がったが、「暑くなってきたのでクーラーをつけないわけにはいかない」と語る。

この公園で食料配布や相談会を主催する 「TENOHASI」の清野賢司代表理事は、若者が増えたほか、中高年で新たに並ぶようになった人が目につくと感じている。「収入減と物価高の状況の出口が果たしてあるのか、不安に思っている人たちが多くいると思う」と、清野さんは言う。「(参院選の候補者には)まずは、こういうところに来て考えて欲しい」

(金子かおり 編集:久保信博)

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