[北京 26日 ロイター] - 中国で牛肉火鍋レストランチェーンを運営する八合里は新型コロナウイルスのパンデミック発生以降、売上高がそれまでの3分の1に激減した。当局が新規感染者ゼロを達成したとしても、事業拡大計画を再始動するつもりはない。
創業者リン・ハイピン氏に話を聞くと、中国政府が断固として感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ政策」を推進し、人々の生活が混乱を極めた結果、消費者がすぐには先行きに対する自信を取り戻せなくなっている点に問題の根がある。
リン氏は「全ての事業計画を延期している」と語る。同氏は2008年、南部の汕頭市で1号店を開いた後、あっという間に中国全土に約200店を展開。しかしコロナ禍で4分の1を閉鎖してしまった。
「人々はお金を稼ぐのが難しいと感じ、貯蓄志向を強めている。痛みを忘れるには時間が必要になる」とリン氏。こうした発言の背景には、ゼロコロナ政策によって景気回復の勢いがそがれ、国内の消費者や企業が自信を失っている状況への不安感の広がりがある。
ロイターがアナリストに実施した調査によると、今年の中国の成長率予想は4%。他のほとんどの国からすればうらやましい伸びだが、中国の基準としては低調で、政府が掲げる目標の5.5%前後に届かない。目標未達なら、株価暴落と資本逃避に揺れた2015年以来となる。
その景気減速のあおりを、民間セクターがもろに受けつつある。
中国の消費者信頼感は過去最低圏で推移し、民間投資は上半期に鈍化。若者の失業率は19.3%と過去最悪の水準に上昇し、政府に追加の景気対策を促す声が強まっている。
今年になって新型コロナ関連の多種多様な規制措置の影響を受けた都市は十数カ所、その住民は数億人に上る。極めつけが4月から5月いっぱい実施された上海のロックダウン(都市封鎖)だった。さまざまな業種の企業が休業し、当局の場当たり的な対応のために時には再開を認められてすぐにまた閉鎖を強いられるケースも出ている。
コロナ禍を起因に混乱した物流関連の業界はその1つ。ドイツの商用車部品メーカー、フォイトのモビリティー部門で最高経営責任者(CEO)を務め、上海で活動するマーティン・ワウラ氏は、収支の帳尻を合わせるには従業員のレイオフが不可避と話す。
民間各社は、収束しない不動産危機や主要輸出市場における借り入れコスト上昇、地政学的緊張の高まり、中国当局によるハイテクや教育産業への締め付けなどにも懸念を抱いている。
中国経済の約4分の1を占める不動産セクターは、複数の大手開発企業のデフォルト(債務不履行)で痛手を受け、工事が止まっている物件へのローン支払いを拒否する買い主は増える一方だ。
ノムラのグローバル・マクロ調査責任者ロブ・スバラマン氏は「中国は信認の危機に直面している」と語る。「家庭はロックダウン再開を恐れて支出をためらい、潜在的な住宅購入者は資金繰りに窮した開発企業から完成前に物件を買っても大丈夫とは思わなくなった。民間企業は、悪化し続ける消費と輸出の見通しを踏まえ、新規投資を手控えている」と話す。
<民間の悲鳴>
多くのエコノミストや投資家は、中国経済がおかしくなったことと、ゼロコロナや、ハイテクをはじめとする急成長産業への規制強化といった習近平国家主席の象徴的な政策の間には直接の因果関係があるとみている。
あるインターネット関連企業で働く30歳女性のリューさんは2018年の入社から給料が3倍に上がり、つい最近まで2つのベッドルームがあるマンション住戸の購入を計画していた。「自分の収入に大変な自信を持っていた」と、リューさんは言う。
ところが昨年、彼女が働く企業は当局の規制強化がもたらした逆風に対処するため従業員のレイオフと給料カットを実施。リューさん自身はこれらの対象者ではなかったが、もう少し小さい今の物件のローンを払う方が賢明だと考え直したと明かした。
民間セクターで悲観論が悲観論を呼ぶ形になっている中で、一部の著名エコノミストからも政府は余計な締め付けをやめるべきだとの意見が強まっている。
北京大学国家発展研究院のヤオ・ヤン院長は「規制当局者や政策担当者が国内企業の悲鳴を聞いているのかどうか定かではない。彼らはパンケーキをひっくり返すように経済を混乱させている。これで起業家がどうやったら自信を持てるのか」と苦言を呈した。
<政府の大事な仕事>
中国政府はここ数週間で減税や補助金給付などの措置を講じている。また、投資家の間には、中国共産党中央政治局常務委員会が今週開く会合でさらなる支援策が打ち出されるのではないかと期待もある。
予想されているのは、既に今年に入って何兆ドルもの財政資金が投じられているインフラ整備プロジェクト向けに追加支出するための借り入れ拡大だ。ただ、中国の国内総生産(GDP)に対する債務総額の比率は第1・四半期に277.1%と昨年末の水準から4.6ポイント上昇している。
政府のあるアドバイザーは「政策支援強化を別にすれば、(政府にとって)最も大事な仕事は期待をうまく誘導し、(人々の)自信を回復させることだ」と話す。
(Kevin Yao記者、Sophie Yu記者)