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アジア投資 Research Memo(8):今後の収益拡大に向けた中期経営計画がスタート

発行済 2018-12-07 15:08
更新済 2018-12-07 15:20
アジア投資 Research Memo(8):今後の収益拡大に向けた中期経営計画がスタート
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■中期経営計画

日本アジア投資 (T:8518)は、2019年3月期から2021年3月期を最終年度とする新たな中期経営計画をスタートさせた。
「日本とアジアをつなぐ投資会社として、少子高齢化が進む社会に安心・安全で質と生産性の高い未来を創ります」という新たな経営理念のもと、VC業界を取り巻く環境変化への対応や課題解決に向けて、投資方針(本体投資分)の抜本的な見直しを行い、収益拡大に向けた足掛かりを築く内容となっている。
すなわち、この3年間を第1段階と位置付け、次の第2段階で収益やキャッシュフローの安定化を実現し、更なる成長に向けた投資を拡大するシナリオである。


具体的には、第1段階として、1)収穫期に入る既存のPE投資資産の売却により、利益・資金を確保するとともに、2)新たな投資方針(詳細は後述)による投資資産の入れ替えを行い、安定収益の拡大と財務健全性向上を目指す。
また、3)金融機関への約定返済の削減と、プロジェクト投資事業でのプロジェクトファイナンスによる借入金の増加を図る。
そして、第2段階として、4)安定した収益とキャッシュフローを基盤として、更なる成長投資を実施する、という2段構えの戦略となっており、本中期経営計画は第1段階として位置付けられる。


1. 各事業の方向性
(1) PE投資事業
ファンドでの投資は、現状のファンドの投資方針を継続する一方、本体投資は、新たな経営理念やVC業界を取り巻く事業環境の変化を踏まえ、投資方針を抜本的に見直す。
すなわち、これまでの「大数の法則(確率論)」に従った散発的な投資から、「JAICとして取り組むべき事業テーマ」を明確に持ち、そのテーマを軸に「企業への投資」(PE投資)と「事業への投資」(プロジェクト投資)を組み合わせる戦略的投資を推進する構えである。


なお、「取り組むべき事業テーマ」については、同社の強み・独自性や市場へのアクセスなどを踏まえ、既存の「再生可能エネルギー」のほか、新規事業として「スマートアグリ(植物工場)」や「ヘルスケア(介護・医療)」を選定。
したがって、今後、本体資金からの投資は、選定した事業テーマに沿った戦略投資※を実施していく。
ただし、情勢に応じて柔軟なテーマ設定を継続する方針である(なお、ファンド資金による投資は、事業テーマに限らず、これまで同様、出資者ニーズに沿って投資)。


※事業テーマに基づく「事業への投資」(プロジェクト投資)を行ううえで、パートナーとなる企業への出資。
これまでもメガソーラープロジェクトにおけるパートナー企業として、リニューアブル・ジャパン及びスマートソーラーへ戦略投資を行ってきた。



(2) プロジェクト投資
安定収益確保のためメガソーラー投資を継続し、投資残高増加を目指すとともに、その成功ノウハウを生かし、他の再生可能エネルギー(バイオマス、バイオガス、風力等)や新規事業テーマである「スマートアグリ」へも展開する。
なお、メガソーラー投資資産は、これまで同様、期間損益や資金の状況に応じて中途売却も検討する方針である(長期保有による安定収益と短期売却による足元収益の獲得のバランスを取ることで厚みのある収益基盤の確立を目指す)。
また、もう1つの新規事業テーマである「ヘルスケア」についても、実績のあるAIP※の介護施設開発案件への投資を継続する。


※2018年3月期に売却した同社初の高齢者施設プロジェクト(AIP勝どき駅前ビル)におけるパートナー企業。



2. 財務的な目標
(1) 収益構造
メガソーラーを軸とした再生可能エネルギー投資の積み上げ等により、安定収益の確保(売電収益等)を図り、少なくとも安定収益で販管費の過半を賄うことができる状態を目指す。
具体的には、販管費を11億円(2018年3月期は13億円)にまで削減するとともに、安定収益を6億円(2018年3月期は5億円)に拡大する。


(2) 財務バランス
相対的にリスクが低く流動性の高いプロジェクト投資資産を積極的に積み上げ、借入金をカバーするところまで改善を図る。
具体的には、プロジェクト資産を90億円(2018年3月期末36億円)にまで大きく拡大する一方、借入金については70億円(2018年3月期末119億円)に削減することで、プロジェクト資産が借入金を上回る財務バランスを実現する。
また、PE投資資産(本体投資分)については、投資方針の見直しに従い、戦略的PE投資に入れ替えながら20億円(2018年3月期末60億円)にまで縮小する方針である。


弊社では、VC業界を取り巻く環境が大きく変化しているなかで、投資方針の見直しを行ったことは、同社にとって大きな転機になるものとみている。
特に、PE投資事業において、ファンド運用残高が年々縮小傾向をたどり、今後も増加に転じる兆しが見えないなかで、事業テーマに基づくプロジェクト投資の拡大を図る戦略は極めて現実的で合理性が高いと評価している。
もっとも、これまでの主力であるベンチャー投資から離れてしまうわけではなく、ベンチャー投資を継続するために必要となる財務基盤を確立するという見方が妥当だろう。
また、成長分野であり、かつ同社の強みが生かせる事業テーマの中から、優良なベンチャー企業を見つけ出し、さらには協業を通じてハンズオンを実行できる点においては、今後のベンチャー投資を優位に進めるためにもメリットが大きいと考えられる。
さらに言えば、プロジェクト投資事業についても、単なる安定収益源にとどまらず、収益性※にも優れているところは評価すべきポイントと言える。


※同社の試算によれば、2018年9月末の長期保有目的プロジェクト(完成までの投資予定額は約30億円)における20年間の収入見込み額(累計)は約100億円。
内部収益率(IRR)では10%を超える水準と推定される。



一方、財務的な目標である安定収益の拡大やプロジェクト資産の積み上げについては簡単なハードルとは捉えていない。
特に、安定収益の拡大については、これまでの軸であった管理報酬がファンド運用残高の縮小に伴って減少する傾向にあることや、売電収益についても立ち上がりの費用などが重荷になることに注意が必要である。
また、プロジェクト資産の積み上げについても、メガソーラー以外のプロジェクトでの積み上げがカギを握るものとみている。
したがって、収益構造の変化やプロジェクト投資の進捗については、今後も注意深く見守る必要があるだろう。



■株主還元

2009年3月期以降、配当実績はない。

安定収益の底上げにより、将来的な復配の可能性に期待
同社は、業績の悪化に伴う累積損失を計上していることから、2009年3月期以降、配当の実績はない。
今後も有利子負債の削減による財務体質の改善と安定収益の拡大に向けた投資に取り組む方針であることから、しばらくは配当という形での株主還元は見送られる可能性が高いとみている。
ただ、中期経営計画に従い、プロジェクト投資事業による安定収益の底上げが図られることで将来的には復配はもちろん、安定的な配当が可能となるものと期待できる。


(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)

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