清水律子
[東京 17日 ロイター] - 政府が国内外で石炭火力発電を縮小する方針を打ち出した。二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭火力発電は、世界的に縮小・廃止の方向にあり、一見、日本も歩調を合わせたかに見える。しかし、専門家からは、既定路線の範囲内で「脱石炭火力」には程遠いとの指摘が出ている。地球温暖化の防止に向け、日本のエネルギー政策を見直すには、さらなる切り込みが求められている。
<輸出支援、「しない」のか「厳格化」か>
「(原則)支援しない方針を書き込む異例の決着を見た」―――。石炭火力の輸出支援4原則の見直しを発表した際、小泉進次郎環境相は興奮気味に語った。環境相に就任して以降、取り組んできた石炭火力の輸出支援の見直しが、ようやく形になった格好だ。
しかし、エネルギーを所管する経産省とは立ち位置が異なる。あくまで支援要件の「厳格化」だとする梶山弘志経済産業相は、日本の石炭火力を望む国は多く、それに応えていく姿勢を強調する。
新しい要件では、相手国の脱炭素化に向けた政策誘導を行い、行動変容を2国間協議などを通じて確認することになる。しかし今回の見直しが適用されるのは、これから計画される新規のプロジェクト。ベトナムのブンアン2石炭火力発電事業など既存案件は、見直しの対象にはならない。
脱炭素化へ誘導しながら、石炭火力の輸出支援を継続する。非常に分かり難い政策となっていることに経産省幹部は「効率が高く、長期にわたって効率が落ちない日本製の石炭火力を輸出するのは脱炭素化に向けた方向性に合致する」と説明。「ニーズは高く、新要件でもしっかりとしたサポートができる」と輸出支援の継続を強調した。
<世界への貢献>
自然エネルギー財団は「今回の方針は、国内外からの厳しい批判を受けとめ、今後のインフラ輸出は自然エネルギー発電などを重視していくことを示したものではあるが、石炭火力輸出を推進してきた従来の政策を完全に転換したものとは言えない」と指摘している。
2000億ユーロの運用資産を持つノルデア・アセット・マネジメント(本社ヘルシンキ)の投資責任者、エリック・ペダーセン(Eric Pedersen)氏は「豊かな国は国内外を問わず、新たな石炭発電所に補助金を出すべきではない。日本のような世界的な技術リーダーは、洋上風力、蓄電、水素などの分野でクリーンなブレークスルーを起こし、それを促進する大きな可能性を秘めている」と述べ、石炭火力への輸出支援継続には否定的だ。
今回の方針では、発電効率43%以上の超々臨界圧発電方式(USC)などを列挙して、環境性能がトップクラスのものを条件とした。前述の経産省幹部は、性能が悪く、発電効率40%の石炭火力は、発電効率がどんどん低下していくため、日本製の43%のものとは「10%以上の違いがある」とし、高効率の石炭火力の輸出支援は「技術を持っている日本の世界に対する貢献として必要なもの」と言い切る。
<100基廃止でも残る石炭火力>
一方、国内では、140基ある石炭火力発電のうち、発電効率が低い114基の発電を「できる限りゼロに近づけていく」という方針を打ち出した。全発電量に占める石炭火力は2018年度で32%。内訳は、高効率26基で13%、非効率の114基で16%、化学メーカーや鉄鋼メーカーなどの自家発電分が3%となっている。
この比率からわかる通り、旧型の非効率な石炭火力は小型なものが多く、今後新設される高効率の最新の石炭火力は大型なものが多い。「140基中100基が休廃止」という数字の印象と実態とは異なる。地球環境戦略研究機関(IGES)は「2030年時点では50基の石炭火力が残る」とし、設備容量で見た場合「今回の方針による削減は3割程度」と推計している。
CO2排出についても「高効率な石炭火力でも、CO2排出量は、非効率なものより数%しか減らない」(自然エネルギー財団)と指摘。今回、高効率なものを日本が継続するという姿勢を示したことに懸念を示している。
一方、東京電力グループと中部電力が出資するJERAの小野田聡社長は「事業の予見性が高まる」と評価するとともに、日本が資源の少ない国であることを考えると、経済、環境、安定供給をバランスしたものが必要だとし「そのなかで石炭火力は一定程度の役割をもつ」との認識を示している。
梶山経産相も、非効率な石炭火力のフェードアウト方針は、2018年に決めたエネルギー基本計画で示した2030年度の石炭火力比率26%の達成を確実にするためとしており、さらなる石炭火力発電の比率引き下げを意味するものではないと説明している。
<原発の再稼働困難、さらなる対応は>
東日本大震災以降、日本では、原発がなかなか再稼働しない状況にある。2030年のエネルギーミックスでは、20―22%を原発が占める計画だったが、18年は6.2%に過ぎない。再生可能エネルギーでアクセルを踏んだとしても、石炭火力を放棄しては、電力の安定供給に支障をきたす、との懸念がある。梶山経産相は「エネルギーミックスをしていくためには、一つ一つの電源について、放棄できるものではない」と話している。
ただ、政府が3月に国連に提出したNDC(国が決定する貢献)には、CO2削減について「2030年度26%目標を確実に達成することを目指すとともに、この水準にとどまることなく更なる削減努力を追求していく」と明記した。小泉環境相は4月のロイターとのインタビューで、COP26までに新しい数値を出すかという質問に「間違いない。そのために頑張る」と意気込みを語り、今回も「石炭の輸出政策の見直しが、エネルギー政策全体に間違いなく風穴を開ける」とアクセルを踏む勢いだ。
環境省と経産省は共同で「地球温暖化対策計画」の見直しに着手した。さらに踏み込んだ計画を打ち出せるかどうか、まだ、スタートラインに立ったばかりともいえる。
(清水律子 取材協力:Sheldrick Aaron 大林優香 編集:石田仁志)