[日本インタビュ新聞社] - 神鋼商事<8075>(東証プライム)はKOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社として鉄鋼製品、鉄鋼原料、非鉄金属、機械・情報、溶接材料・機器などに展開している。成長戦略としては、重点分野と位置付けているEV・自動車軽量化関連および資源循環型ビジネス関連の拡大を推進するとともに、サステナビリティ経営も強化している。24年3月期は神戸製鋼所の厚板ミル改修に伴う鋼材取扱量減少、半導体市場の需要低迷などにより減益予想としている。ただし四半期別に見ると第2四半期は前年比増収増益に転じている。第1四半期がボトムだった可能性などを勘案すれば、通期会社予想に上振れの可能性がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。株価はやや小動きだが徐々に水準を切り上げて戻り高値圏だ。高配当利回りや1倍割れの低PBRなど指標面の割安感も評価して上値を試す展開を期待したい。なお2月7日に24年3月期第3四半期決算発表を予定している。
■KOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社
神戸製鋼所<5406>系で、KOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社として鉄鋼製品(鋼板製品、線材製品など)、鉄鋼原料(輸入鉄鋼原料、合金鉄、コークスブリーズなど)、非鉄金属(銅製品、アルミ製品、非鉄金属地金・スクラップなど)、機械・情報(ゴム・タイヤ機械、製鉄・非鉄機械、化学機械、環境関連機器、電池用材料、液晶用材料、PC部品など)、溶接材料・機器(溶接材料、溶接関連機器、溶接ロボットシステムなど)などに展開している。成長戦略としては、重点分野と位置付けているEV・自動車軽量化関連および資源循環型ビジネス関連の拡大を推進するとともに、サステナビリティ経営も強化している。
21年9月には、日新イオン機器(NIC)から半導体・FPD用イオン注入装置の製造を手掛ける中国・NIHY(揚州)の株式を買い取り、社名を神商精密器材(揚州)に変更して子会社化した。21年11月には子会社の神鋼商事メタルズがベトナムにアルミ切断加工販売会社を設立した。21年12月には子会社のSCWが、日本エア・リキード合同会社から大半の溶接関連資機材事業を譲り受けた。23年2月には、子会社の神鋼商事メタルズがシンクスコーポレーションと共同で、ベトナムにアルミ厚板切断加工販売会社を設立(神鋼商事メタルズの出資比率60%)した。23年9月には稲垣商店より、同社の非鉄金属卸売事業に関する権利義務を会社分割により承継させた新・稲垣商店の全株式を取得して連結子会社化した。またタイの現地法人TEMSがフィリピンに事務所を開設した。
23年3月期のセグメント利益(経常利益)は、鉄鋼が22年3月期比24.4%増の51億40百万円、鉄鋼原料が108.5%増の14億98百万円、非鉄金属が11.8%減の26億75百万円、機械・情報が37.1%増の21億70百万円、溶材が148.0%増の8億04百万円、その他(不動産賃貸事業等)が3億78百万円(22年3月期は65百万円の損失)だった。鉄鋼、鉄鋼原料、非鉄金属の収益は取扱数量と市況の影響で変動しやすい特性がある。
■収益力・商社機能の強化および投資の促進を推進
中期経営計画(22年3月期~24年3月期)では「明日のものづくりを支え社会に貢献する商社」を目指し、目標数値に最終年度24年3月期経常利益95億円(鉄鋼41億円、鉄鋼原料13億円、非鉄金属23億円、機械・情報13億円、溶材5億円)以上、ROE9%以上、ROA3%以上、自己資本比率20%以上、D/Eレシオ1.0倍程度を掲げている。22年4月にはDX推進の方向性を示す「DXビジョン」を策定した。
基本戦略としてM&Aも積極活用し、収益力の強化(関係会社の機能最適化と戦略的活用、事業ポートフォリオ見直し)、商社機能の強化(グループビジネスの深化の追求、SDGsを意識した環境リサイクルビジネスの拡大、海外拠点主導のビジネス開拓、新事業開発の強化、DX時代に適したビジネスモデルの創出・提案)、投資の促進(北米・アジアでのサプライチェーンの深化と創造、事業投融資の加速、製造拠点の設備投資)などの戦略を推進している。
投資額は3年合計200億円としている。内訳は自動車向け鋼材加工事業(中国、北米)に20億円、環境リサイクル事業(日本、東南アジア)に30億円、アルミ加工事業(北米、中国、東南アジア)に80億円、M&Aによる流通再編(日本、東南アジア)に20億円、その他・海外チャンネル拡大・サプライチェーン強化に50億円としている。
鉄鋼は海外(中国、米国など)拡販や海外現地需要取り込み、鉄鋼原料は鉄スクラップとバイオマス燃料の取り扱い拡大、非鉄金属は半導体・自動車向け部材やエアコン用銅管の取り扱い拡大、機械・情報は建設機械部品の海外取り扱い拡大、溶材はM&Aによる流通再編や販売機能の強化を推進する。
株主還元の基本方針は、財務体質の強化と将来の事業展開に必要な内部留保等を考慮しつつ、連結配当性向30%を目標に安定的な配当を維持するとしている。
■サステナビリティ戦略も推進
重点分野としてはEV・自動車軽量化関連と資源循環型ビジネス関連を掲げ、サステナビリティ戦略として、リサイクル事業(鉄スクラップのグローバル拡販)、バイオマス事業(バイオマス燃料の安定供給、供給事業化)、雑電線屑の再資源化などを推進している。
22年4月には、サステナビリティ基本方針と重要課題(マテリアリティ)を制定するとともに、取締役会の諮問機関としてサステナビリティ委員会を設置した。サステナビリティへの取り組みをより一層強化するため推進体制を構築した。22年5月には、水素社会を早期に構築することを目的とする一般社団法人水素バリューチェーン推進協議会に入会した。また、低炭素社会に向けてCO2フリーアンモニア利用のバリューチェーン構築および社会実装を目的とする一般社団法人クリーン燃料アンモニア協会に入会した。
22年6月には、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同するとともに、TCFDコンソーシアムに参画した。また、グループのCO2削減についての取り組みの一環として、グループ会社の蘇州神商金属有限公司が22年9月から太陽光発電を開始した。22年8月には、環境省が推奨する地球温暖化対策のための「COOL CHOICE(賢い選択)」に賛同登録した。
22年9月には、アルミ圧延材のスリット・シャーリング加工および販売を行う蘇州神商金属有限公司が太陽光発電を開始した。約1000枚のパネルを向上屋根に敷設し、所内で使用するほぼ全ての電力を太陽光パネルによる再生可能エネルギーによってまかなうことが可能になった。また、蘇州神商金属有限公司における生産活動高度化に向けた工場DXの取り組みも紹介している。
22年10月にはダイバーシティ推進プロジェクトチームを発足し、女性およびグローバル人材活躍に向けて30年までの目標を設定した。22年12月には、経済産業省が公表した「GXリーグ基本構想」への賛同を発表した。また、環境情報開示システムを提供する国際環境非営利団体であるCDPによる「気候変動」に対する取り組みや情報開示の評価において「B」評価を取得した。
23年1月には、ユニバーサルマテリアルズインキュベーター(UMI)が設立したUMI3号脱炭素投資事業有限責任組合(UMI脱炭素ファンド)へ出資した。出資を通じて優れた脱炭素分野技術への支援や新規事業創出を推進する。
23年2月には光変換光合成促進農法社(長野県岡谷市、以下:光変換社)への資本参加と業務提携を発表した。光変換社は、光変換光合成促進農法による農作物栽培用資材および農作物の生産販売を目的として09年に設立された農業法人で、高麗人参を短周期で収穫する短期促成栽培システム(19年に特許登録)を開発している。SDGsを推進している企業であり、本件を開発投資と位置付けて経営支援を行うとともに、新領域となる農業分野への足掛かりとする方針だ。
23年3月には経済産業省と日本経営会議が選定する健康経営優良法人認定制度において「健康経営優良法人2023(大規模法人部門)」に認定された。
23年9月には、ちとせグループの統括会社であるCHITOSE BIO EVOLUTION(シンガポール)に出資し、藻類基点の新産業を構築する「MATSURIプロジェクト」に参画した。同グループと協業し、微細藻類によるカーボンリサイクルや微細藻類を使った新規事業開津など、新たな資源循環型ビジネスモデルの構築を目指す。また、東京理科大学創域理工学研究科が23年4月に設置したサステイナブルアーバンシティセンターに対して協賛した。
23年10月には、ESGや人権に関する問題意識の高まりと企業の社会的責任を踏まえて「神鋼商事グループ人権基本方針」を制定した。また「神鋼商事 統合報告書2023」を発刊した。
23年12月には、奥村組<1833>、丸紅クリーンパワー、大成建設<1801>とともに、北海道石狩市における早生樹の植樹実証事業の開始を発表した。植樹した早生樹を石狩市内のバイオマス発電所で燃料の一部として使用することを見据えており、地産地消によるエネルギー事業の可能性を検討する。
■24年3月期減益予想だが上振れの可能性
24年3月期の連結業績予想は売上高が23年3月期比11.5%増の6520億円、営業利益が19.8%減の108億円、経常利益が21.1%減の100億円、親会社株主帰属当期純利益が22.8%減の71億円としている。配当予想(11月8日付で第2四半期末5円上方修正)は23年3月期比65円減配の250円(第2四半期末125円、期末125円)としている。予想配当性向は31.0%となる。
第2四半期累計は売上高が前年同期比0.3%増の2794億11百万円、営業利益が6.5%減の60億02百万円、経常利益が21.5%減の50億13百万円、親会社株主帰属四半期純利益が16.2%減の37億13百万円だった。
自動車・半導体分野の需要低迷などにより売上高が横ばいにとどまり、各利益は販管費増加なども影響して減益だった。営業外収益では持分法投資利益が4億74百万円減少、営業外費用では支払利息が5億02百万円増加した。為替差損益は2億97百万円悪化(前年同期は為替差益2億34百万円、当期は為替差損63百万円)したが、デリバティブ評価損は49百万円減少した。特別利益では前期計上の固定資産売却益4億29百万円が剥落したが、投資有価証券売却益が5億58百万円増加した。
セグメント利益(経常利益)を見ると、鉄鋼は2.0%減の27億34百万円だった。売上面は取扱数量横ばい・鋼材価格上昇で9.5%増収だが、米国子会社における金融収支悪化などの影響で減益だった。鉄鋼原料は12.9%減の6億37百万円だった。売上面は重点分野と位置付けている資源循環型ビジネスにおいてバイオマス燃料などが増加したが、神戸製鋼所の粗鋼生産減産に伴って主原料の取扱数量が減少し、原料価格下落も影響した。非鉄金属は65.2%減の5億15百万円だった。自動車・液晶向けアルミ板、自動車端子向け銅板条、空調向け銅製品や自動車向けアルミ製品の取扱量減少などにより大幅減収減益だった。機械・情報は29.2%増の8億29百万円だった。国内では建機部品や電池関連材料、海外では建機部品や半導体ガス製造装置などが増加した。溶材は11.6%減の3億09百万円だった。国内の造船・建築向けが堅調で価格も上昇したが、海外子会社での取扱量が減少した。その他(不動産賃貸事業等)は11百万円の損失(前年同期は3億97百万円の利益)だった。
全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高が前年同期比3.1%減の1365億86百万円、営業利益が27.1%減の25億07百万円、経常利益が46.5%減の21億46百万円、親会社株主帰属四半期純利益が56.1%減の13億61百万円と減収減益だったが、第2四半期は売上高が3.7%増の1428億25百万円、営業利益が17.2%増の34億95百万円、経常利益が20.6%増の28億67百万円、親会社株主帰属四半期純利益が77.2%増の23億52百万円と増収増益に転じた。第1四半期がボトムとなった可能性が高いだろう。
通期の連結業績予想は据え置いている。鋼材等の市況は23年3月期下期並みの水準が続くと想定するが、神戸製鋼所の厚板ミル改修に伴う鋼材取扱量減少、半導体市場の需要低迷などを見込み、営業活動の活発化に伴う販管費増加なども影響して減益予想としている。
セグメント別経常利益計画は、鉄鋼が神戸製鋼所の厚板ミル改修による取扱量減少により14.4%減の44億円、鉄鋼原料が0.1%増の15億円、非鉄金属が国内での伸銅品・アルミ製品の取扱量減少や中国のアルミ板材加工会社での取扱量減少などにより17.8%減の22億円、機械・情報が40.1%減の13億円、熔材が溶接材料の取扱量減少などにより25.4%減の6億円、その他が4億円減少の0億円としている。なお足元の状況として、非鉄金属が弱含みだが、鉄鋼が国内自動車関連の回復や鋼材価格の高止まりにより、機械・情報が産業機械や電池関連材料の取扱数量増加により、いずれも上振れの見込みとしている。
第2四半期累計の進捗率は売上高43%、営業利益56%、経常利益50%、親会社株主帰属当期純利益52%だった。第1四半期がボトムだった可能性などを勘案すれば、通期会社予想に上振れの可能性がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。
■株価は上値試す
株価はやや小動きだが徐々に水準を切り上げて戻り高値圏だ。週足チャートで見ると13週移動平均線が26週移動平均線を上抜いた。高配当利回りや1倍割れの低PBRなど指標面の割安感も評価して上値を試す展開を期待したい。2月2日の終値は5990円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS806円00銭で算出)は約7倍、今期予想配当利回り(会社予想の250円で算出)は約4.2%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS8235円14銭で算出)は約0.7倍、そして時価総額は約531億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)