[ワシントン/ムンバイ 17日 ロイター] - ナイジェリアのノフェ・イサーさん(25)は今年1月から暗号資産(仮想通貨)投資を始めたが、先週になって仮想通貨ルナが暴落し、5000ドルの貯蓄全てを失った。もう二度と仮想通貨には投資しない決意だ。
「自分が仮想通貨にひっかかったなんて信じられない。うつにだけはならないように頑張っているところ。仮想通貨にお金を奪われてしまったのは確かだけど、精神までやられたくない」──。
最近失業したばかりというイサーさんは、ロイターの電話取材にこう語った。
投資家がインフレと金利上昇を懸念してリスク資産からマネーを引き揚げたことで、仮想通貨は先週暴落した。
世界最大の仮想通貨であるビットコインは12日に2万5401ドルと、2020年12月以来の安値に沈んだ。昨年11月には過去最高値の6万9000ドルを付けていた。
第2位の仮想通貨・イーサリアムは15%下落。ルナはソーシャルメディア上で大ブームとなり、機関投資家の支持も得ていたが、価値がほぼゼロになった。
イサーさんのような個人投資家は、一獲千金を狙って仮想通貨に群がった。それをあおったのがロビンフッドのような取引プラットフォームだ。同社の第1・四半期決算では、取引収入の約4分の1が仮想通貨によるものだった。
世界最大の仮想通貨交換業者・バイナンスの顧客数は今年4月時点で約1億1800万人と、昨年第1・四半期の4340万人から急増している。
しかし、先週の波乱を受けて、オンライン掲示板には損失に苦しむ個人投資家の声があふれている。
米掲示板レディットには「私は49歳。多額の住宅ローンを抱え、3人の子持ち。退職祝いのパーティーはいつになることやら」、「18万ドルを失ったなんて、現実の事とは思えない」といった嘆き節が並んだ。
<死のスパイラル>
仮想通貨のリスクを象徴する出来事が、ステーブルコイン「テラUSD」の暴落だった。テラUSDは、姉妹通貨ルナを利用する複雑なアルゴリズムによってドルとの価値を1対1に保つよう設計されているはずだった。
だが、先週になって大量の売りを浴びると、このシステムが崩壊。コインゲッコーのデータによると、テラUSDは10日に0.09ドル前後に、ルナはほぼゼロに沈んだ。
インドのムンバイに住むグラフィックデザイナーのテジャン・シュリバスタバさん(31)は昨年から仮想通貨に投資してきたが、ルナの崩落で250ドルの投資が吹き飛んだ。
「死のスパイラルに陥った。15分間で投資資金が全部消えた」とシュリバスタバさん。「将来、仮想通貨に投資するかどうかさえ分からなくなった。仮想通貨のポートフォリオを持っているが、収支トントンになったら処分するつもりだ」とロイターに語った。
コインゲッコーのデータを見ると、ルナの時価総額は4月初めに400億ドルを超えていたが、今では大半が吹き飛んだ。
韓国の首都・ソウルでは先週、テラUSDの創設者、ド・クウォン氏のマンションのベルを鳴らして走り去った不審者がおり、警察がこの人物を捜索中だと明かした。ソウルの警察官はロイターに対し、この人物が暗号資産に投資していたかどうかを調べる方針だと述べた。
<信じ続ける投資家も>
仮想通貨は、過去13年間の歴史で幾度も乱高下を繰り返してきた。しかし、今回の暴落では、仮想通貨全体の時価総額が昨年11月の半分に満たない1兆2000億ドルに縮小。5月1日に仮想通貨として世界8位の規模を誇ったルナに至っては、壊滅状態となった。
それでも、仮想通貨への信頼を捨てない個人投資家もいる。
メキシコのエロイザ・マルケソニさんは「下がったところで買いを入れるつもり。私たちは皆、ビットコインが2万2000ドルに下がるのを待っている。確率が高いわけではないけど、全くあり得ないシナリオでもない」と語り、ヘッジとして自動車や腕時計、不動産などの現物資産にも投資していると説明した。
ビットコインは、17日時点で3万ドル前後で推移している。
(Hannah Lang記者、 Savio Shetty記者、 Lisa Pauline Mattackal記者)