[8日 ロイター] - 中国の輸出が予想外の不振に陥っていることが明らかになった。8日発表された7月の輸出額は前年比14.5%減と新型コロナウイルスのパンデミック発生以降で最大の落ち込みを記録したからだ。
米国や欧州は中国に対する不信感を背景に、特定の戦略産業において中国との取引への依存度を減らそうとしており、各企業にはサプライチェーン(供給網)の「デリスク(リスク低減)」を呼びかけている。
今のところ、中国の低調な輸出はそうした動きよりも循環的な要因、つまり中国の輸出先の消費需要が弱かったという現象が、大きなウエートを占める。
ただ、貿易や投資の基調的な流れは、中国と西側の距離が通商面で長期的に離れていく事態を示唆している。
例えば、今後の通商関係が親密になるか疎遠になるかを占う指標の一つとして、直接投資が挙げられる。
6月の中国国内総生産(GDP)に対する外国からの直接投資額の比率は約0.4%で、パンデミック前5年間の平均1.6%から低下。実質ベースで67%減り、25年前の記録開始以降で最低水準になった。
オクスフォード・エコノミクスのシニアエコノミスト、ルイス・ロー氏は「中国の経済活動再開で直接投資が持ち直すと想定していたが、実際にはそうならなかった」と語る。
ロー氏は「規制環境やサプライチェーンの側で何が起きているかということを考えると、これはむしろ地政学的な話しだ」と指摘。中国当局の幾つかの業種に対する統制強化が、潜在的な投資家を不安にさせたと付け加えた。
<ドイツに注目>
昨年の米中貿易総額は過去最高の6900億ドルに達しており、双方の政治的な緊張関係に現実の貿易取引が見合っていないとの声も聞かれる。
しかし、イェール大学法科大学院ポール・ツァイ中国センターのスティーブン・ローチ上席研究員は、こうした貿易額は物価調整前の金額だと指摘。同氏が計算した実質ベースにおける昨年の米中間のモノとサービスの貿易額は、米GDPに対する比率が3%で、既往ピークだった2014年の3.7%から約2割減っている。
同氏は先月のコラムに「完全なデカップリング(分離)とは程遠いものの、その方向への重要な一歩だと確実に認められる」と記した。
このような構図は欧州全体で見るとはっきりしないが、ドイツの貿易データからは明瞭に分かる。
ドイツはメルケル前政権時代に中国との結びつきを強め、この関係が経済成長をけん引してきた。
ところが、ロイターが先週入手した公式統計によると、今年前半のドイツの輸出に占める中国向けの割合は6.2%と、2016年以降で最低になった。
現時点では、中国がドイツの輸出業者にとって大きな市場でなくなった原因はデリスクの取り組みというより、これまではドイツから購入していた製品を中国が自前で生産できるようになった部分が大きい、というのが専門家の見方だ。
ショルツ政権が先月公表した「中国戦略」では、ドイツが最終的に中国との通商関係をどこまで抑制していくのか、正確なところは明らかになっていない。
シンクタンクの欧州外交問題評議会のマーク・レオナルド氏は、メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン(VW)、BASFといったドイツ4社が2018─21年における欧州からの中国投資の3分の1を占めるだけに、ドイツの態度は重要だと説明。ドイツが向かう先に他の欧州諸国もついていく場合が多いと強調した。
<関係一層冷却化も>
西側と中国の貿易環境はこれからさらに冷え込んでもおかしくない。
事情に詳しい関係者の話では、バイデン米大統領は戦略的に重要なセクターに関する対中投資について審査を課す命令を、数日中に出す見通しだ。
米国と台湾では来年の大統領選と総統選に向けた選挙戦が本格化する中で、米国の外交政策はよりタカ派的になる可能性がある。オクスフォード・エコノミクスのロー氏は、これが対中貿易関係に重くのしかかるだろうとみている。
ロー氏は「近いうちに米中関係がより予測可能で透明性の高い枠組みになる可能性は、なお低いと確信している」と述べた。
(Mark John記者)