■中長期の成長戦略と進捗状況1. 中長期戦略の全体像(1) これまでの経緯と足元の概況プラザクリエイト本社 (T:7502)は2016年3月期から2018年3月期を事業モデル変革期と位置付け、収益構造の抜本的な変革に取り組んできた。
大きな枠組みとしては、1)プリント事業の収益モデルの変革と、2)プリント事業に並ぶような収益の柱の創設、の2つだ。
このうち、2)の第2の事業の柱については、モバイル事業がそれに該当し、2019年3月期決算の項で見たように、太い柱へと成長した。
プリント事業は、同社の祖業かつ中核事業であったが、フィルムカメラからデジタルカメラへ、さらにはデジタルカメラからスマートフォンへという撮影機材の変化に伴い、その対応を迫られてきた。
ハード面の変化と同時にICT(情報通信技術)も大きく発達し、こうした事業環境の変化を踏まえ、同社はプリント事業の抜本的な改革に踏み切った。
第1のポイントは、これまで直営を原則に運営してきたプリントショップの原則FC化だ。
原則が付くのはテナントとの特別な契約関係などやむを得ない一部のケースを除いてすべてFC化するということだ。
全面FC化の最大の意義は、同社が小売業から「企画会社」に変わるということにある。
小売業として長らく展開してきた同社は社名にあるクリエイティビティ(創造性)をいつの間にか失っていた。
企画会社に徹することで再び創造性を取り戻し、自由な発想で成長のダイナミズムを取り戻し、収益成長を実現することが全面FC化の最大の狙いと言える。
第2のポイントはオンライン事業だ。
インターネット(“オンライン”)の活用と、「写真プリント」を脱却してより広い「デジタルプリント」へと領域を拡大することの2つの要素がオンライン事業の本質と言える。
同社はかつてオランダのVistaprint(現Cimpress)とオンラインプリントの合弁事業を立ち上げた。
その経験を活かして日本市場と今の時代にマッチした新しい商材をもってオンライン事業を本格的にスタートした。
第3のポイントは、商品部門の立ち上げだ。
同社は「つくるんです®」シリーズを企画制作し、(株)東急ハンズを始め小売各社に卸売(一部はパレットプラザで小売)を行っている。
これが足元で大ヒットとなり、商品卸売上げが急拡大している。
これは、同社が企画会社となったことに伴う事業領域拡大の成功事例と言うことができる。
以上のように、同社の中長期成長に向けた事業構造改革の取り組みは着実に進捗している。
いずれの取り組みも、当初の立ち上げ・仕組みづくりを終え、今では事業の拡大と収益化を加速させるステージへと移行した状況にある。
前述のように、2019年3月期の業績で順調な進捗を確認できたが、これは言わばエンジンをかけ走り出した段階だ。
2020年3月期以降はアクセルを大きく踏み込む段階であり、どのような加速を見せるか注目される。
(2) プリント事業の収益構造以上のような事業モデルの変革の結果、現在の情報開示の在り方では、同社の状況を正しく理解することが困難になりつつある。
直営店舗をFCに切り替えることで、直営店舗の売上高は当然減少する。
しかし一方で、同社からFC店に対する商材の供給、すなわちFCへの卸売上が増加することになる。
また、同社はオンライン事業を2019年3月期から本格的にスタートさせた。
期中からのスタートであり、サービス・メニューもそろい切っていないため、初年度は数億円の売上高にとどまったとみられるが、2年目の2020年3月期以降は大きく増加するとみられる(逆に、大きく増加しなければオンライン事業の失敗ということになる)。
同じことは商品・法人部門にも当てはまる。
これらは前述のFCへの売上同様、卸売上げということになる。
こうしたプリント事業内部での劇的な変化を踏まえれば、「プリント事業」一本で収益の増減を語るのではまったく不十分で、サブセグメントとしての内訳を開示するか、そもそも、事業セグメントを変更(現在の2事業セグメントから増設)する必要があるだろう。
今後同社がこの点をどのように変えてくるかは現時点では不明だが、プリント事業の収益を考える上では、以下のように、同社のプリント事業が今や4つ~5つの項目に分かれており、それぞれの需要ドライバーに基づいて異なる動きをしていることを常に意識しておくことが重要だ。
直営店舗からFCへの切替えが順調に進捗。
2021年3月までには切替完了の見通し2. 店舗事業(パレットプラザ事業)プリントショップ『パレットプラザ』について、直営からFCへの切り替えが進行中であることは前述のとおりだ。
その切り替えについては、2020年度(2021年3月期)末までに完了するスケジュールで順調に進んでいる・2019年3月期は、下期に約50店舗のFC化を計画していたが、人材育成や手続きなどから2020年3月期上期にずれ込んだ。
しかし2019年5月までに44店舗のFC化が決定しており、今上期だけで50店のFC化はほぼ固まった状況だ。
今後のFC化ついては、最も重要な店長人材(いわゆるFCオーナー)を、外部募集も含めて集める計画だ。
これまでは直営店の店長などを中心に、同社内部からFCオーナーを募ってきた(それゆえ同社は、直営店からの切り替えを“のれん化”、“のれん分け”と称することもあった)。
この人材調達の変更は、内部からの応募が一段落したことと、FC化後の店舗の成長戦略を見据えたことが背景にある。
例えば、同社のパレットプラザ店舗はその立地やファッション性の高さなどから、アーティストやクリエイターのイベントで活用されるケースが多い。
そこで同社は、そうした団体やグループなどと手を結び、そこに関係する人材(アーティストやクリエイター)からFCオーナーを募ってパレットプラザをFC化し、当該店舗をアートスペース的に発展させて収益拡大に結び付けるケースを考えている。
これはあくまで一例であるが、企画会社となった同社は、パレットプラザの店づくりに関しても、全店一律での店づくりやブランドイメージ統一について過度にこだわらず、自由な発想で店舗収益の最大化につながる施策を打ち続けていく方針だ。
収益に関しては、前述のように、直営店舗は最終的にゼロになるため、小売売上高もゼロになる。
一方で、FC店に対する同社からの商材供給が卸売上高として立つことになり、この卸売からの収益と、FC店舗からのロイヤリティが店舗事業収益として上がってくることになる。
収益の規模感としては、全店舗が直営の場合は、“店舗事業収入=小売売上高”となる。
これを100とするならば、全店FC化時には、“店舗事業収入=卸売上高+ロイヤリティ”となり、その規模は60~65というイメージと弊社は考えている。
売上高は大きく減少するが原価と販管費(管理部門の人件費など)も低下するため、利益の額は横ばいかむしろ増加するとみている。
分母(店舗事業収入)が小さくなる分、営業利益率は高まることになる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)