米大統領選の予備選が佳境を迎えています。
共和党は不動産王ドナルド・トランプ氏の指名獲得が確実視される一方、民主党は大本命のヒラリー・クリントン前国務長官に対し既成政治の解体を掲げるバーニー・サンダース上院議員が精力的な選挙活動を展開して着実に支持を広げています。
当初は泡沫候補とみられていた同氏は、政策内容よりも「女性初の大統領」という話題性や華々しい経歴をを前面に押し出して選挙戦を進めているクリントン氏とは対照的に、本質的な「チェンジ」を呼びかけています。
予備選では分が悪いものの、その政策は今後一大ムーブメントになる可能性を秘めています。
サンダース氏の主張を一言で表すなら言えば、「行き過ぎた新自由主義の修正」でしょう。
米国では高所得者の上位1%だけで所得の20%を稼ぎ出すといわれています。
富裕層がより裕福になれば経済を底上げして貧困層にも恩恵が行きわたり、経済全体が活発になるという「トリクルダウン」の考え方があります。
しかし、こうした社会構造が中間層を痛めつけ、貧富の格差を拡大させる要因となり、むしろ国力を弱める結果を招いたとの認識が次第に広がってきました。
また、富裕層は社会に対する還元を小幅にとどめる一方、莫大な資金を使って政治家を動かし、富がさらに富を生むよう自分たちに都合のいい社会を作り出してきました。
国内経済の延長線上でサブプライム問題を引き起こし、リーマン・ショックの影響を世界中にばら撒いた米国は、国際社会で敵を作ってきました。
アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設に際し、世界が親中国と親米国に色分けされたことは記憶になお鮮明です。
しかし、経済の実態が不明確で信頼性の低い中国よりも、投資家が本当に求めているのは安定的に成長する経済大国、つまり「穏健な」米国ではないでしょうか。
格差社会の是正と、米国本来の民主的な国家の確立というサンダース氏の主張は単なる理想主義ではなく、合理性も正当性もあると筆者は考えます。
格差の是正により安定的な経済成長を実現できれば個人消費の増大や企業収益の拡大、また累進課税の強化で税収が増えれば財政赤字が削減され、米国債の魅力向上につながります。
今以上に世界中から積極的な投資を呼び込むことで、本当の意味で強い米国、強いドルが復活すると考えます。
連邦準備制度理事会(FRB)が「利上げしますから」と市場に懇願してドルを集める現在の構図も一変し、自然にドルが回り始めるのかもしれません。
ただ、民主党内では、党幹部が最初からクリントン支持で結束しているため、予想外に大きな勢力に発展したサンダース氏の支持者との軋轢(あつれき)が増しています。
最終的な「党内融和」が危ぶまれる状況にで、対トランプの本選シフトを急ぎたいクリントン氏や党サイドは苛立ちを募らせています。
こうした情勢を共和党に付け込まれるとの危機感から、党側は公然とサンダース氏批判を始めました。
サンダース氏自身は、獲得代議員数で劣勢を覆すことは困難な状況ですが、すでにトランプ氏に支持率で追いつかれたクリントン氏よりも自分の方が本選で「勝てる候補」だとして、7月の党大会で指名を争う構えを見せています。
民主党側の「反エスタブリッシュメントの乱」の決着がつくのは少し先になりそうです。
「トランプ対クリントン」との見方はまだ早いのではないでしょうか。
(吉池 威)
共和党は不動産王ドナルド・トランプ氏の指名獲得が確実視される一方、民主党は大本命のヒラリー・クリントン前国務長官に対し既成政治の解体を掲げるバーニー・サンダース上院議員が精力的な選挙活動を展開して着実に支持を広げています。
当初は泡沫候補とみられていた同氏は、政策内容よりも「女性初の大統領」という話題性や華々しい経歴をを前面に押し出して選挙戦を進めているクリントン氏とは対照的に、本質的な「チェンジ」を呼びかけています。
予備選では分が悪いものの、その政策は今後一大ムーブメントになる可能性を秘めています。
サンダース氏の主張を一言で表すなら言えば、「行き過ぎた新自由主義の修正」でしょう。
米国では高所得者の上位1%だけで所得の20%を稼ぎ出すといわれています。
富裕層がより裕福になれば経済を底上げして貧困層にも恩恵が行きわたり、経済全体が活発になるという「トリクルダウン」の考え方があります。
しかし、こうした社会構造が中間層を痛めつけ、貧富の格差を拡大させる要因となり、むしろ国力を弱める結果を招いたとの認識が次第に広がってきました。
また、富裕層は社会に対する還元を小幅にとどめる一方、莫大な資金を使って政治家を動かし、富がさらに富を生むよう自分たちに都合のいい社会を作り出してきました。
国内経済の延長線上でサブプライム問題を引き起こし、リーマン・ショックの影響を世界中にばら撒いた米国は、国際社会で敵を作ってきました。
アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設に際し、世界が親中国と親米国に色分けされたことは記憶になお鮮明です。
しかし、経済の実態が不明確で信頼性の低い中国よりも、投資家が本当に求めているのは安定的に成長する経済大国、つまり「穏健な」米国ではないでしょうか。
格差社会の是正と、米国本来の民主的な国家の確立というサンダース氏の主張は単なる理想主義ではなく、合理性も正当性もあると筆者は考えます。
格差の是正により安定的な経済成長を実現できれば個人消費の増大や企業収益の拡大、また累進課税の強化で税収が増えれば財政赤字が削減され、米国債の魅力向上につながります。
今以上に世界中から積極的な投資を呼び込むことで、本当の意味で強い米国、強いドルが復活すると考えます。
連邦準備制度理事会(FRB)が「利上げしますから」と市場に懇願してドルを集める現在の構図も一変し、自然にドルが回り始めるのかもしれません。
ただ、民主党内では、党幹部が最初からクリントン支持で結束しているため、予想外に大きな勢力に発展したサンダース氏の支持者との軋轢(あつれき)が増しています。
最終的な「党内融和」が危ぶまれる状況にで、対トランプの本選シフトを急ぎたいクリントン氏や党サイドは苛立ちを募らせています。
こうした情勢を共和党に付け込まれるとの危機感から、党側は公然とサンダース氏批判を始めました。
サンダース氏自身は、獲得代議員数で劣勢を覆すことは困難な状況ですが、すでにトランプ氏に支持率で追いつかれたクリントン氏よりも自分の方が本選で「勝てる候補」だとして、7月の党大会で指名を争う構えを見せています。
民主党側の「反エスタブリッシュメントの乱」の決着がつくのは少し先になりそうです。
「トランプ対クリントン」との見方はまだ早いのではないでしょうか。
(吉池 威)