[トラスカラ(メキシコ) 31日 ロイター] - メキシコの首都メキシコ市の東にあるトラスカラで2人の子どもと暮らすアドリアナ・サンチェスさん(39)は、米国で働く夫から毎月送られてくる300ドル(約4万2700円)前後のお金では、もう出費を賄えなくなるのではないかと不安が尽きない。通貨ペソの急騰と根強いインフレが家計を圧迫しているためだ。
海外からメキシコへの年間送金額は600億ドル近くに上り、その大半は米国から。メキシコは世界屈指の送金受け取り国で、これが国内の家計支出を支える重要な柱の1つになっている。
しかしペソが跳ね上がり、ドル建て送金の価値は以前よりも目減りせざるを得ない。
メキシコ中央銀行が利上げを続けた上に、製造業が生産拠点をアジアから近隣地域に戻す「ニアショアリング」に動いたことから、ペソはドルに対して今年になって14%余りも上昇し、他通貨をアウトパフォームしている。
こうした中でサンチェスさんは最近支出を切り詰め、子どもとの外出を減らしたほか、家族で食べる肉の購入も減らしている。
ところが「(お金を)最大限まで有効に使おうとしているが、今は足りない」と語り、来年入学を迎える子どもたちにどうやって学用品をそろえようかと心配する。
<貧困世帯に痛手>
1年前は1ドル=20.40ペソ前後だったペソ相場は今月28日時点で一時16.63ペソと7年半ぶりの高値を付けた。
ロペスオブラドール大統領は対応策として社会福祉プログラムに多額の追加予算を計上するとともに、国外で働く国民に対してドル送金を続けるよう呼びかけ、個人消費をコロナ禍後の経済成長エンジンにする取り組みを進めている。
ただ送金額の実質的な減少は、貧困世帯に重圧をもたらすだろう。
BBVAメキシコのチーフエコノミスト、カルロス・セラノ氏は「ペソ高のせいで送金が生み出す購買力は低下してしまった。それが送金の大半を受け取っている比較的所得が低い世帯や地域に打撃を与えている光景が見て取れる」と指摘した。
<インフレの重圧>
海外からメキシコへの今年の送金額は過去最高水準を更新しそうだが、従来ほどの勢いはなくなっている。
昨年の送金額は585億ドルで前年比13.4%増だったのに対して、今年1―5月の伸びは10.3%だ。
また送金額が増え続けていることから、一部の国民がインフレによる目減りを補うためより多くのお金を送っている状況がうかがえる、とモンテレイ工科大学の経済学者パブロ・ロペス・サラビア氏は説明する。
メキシコの総合ベースの物価上昇率は昨年夏に前年比8.7%まで高まったが、今は半分の伸びに減速している。しかしコア物価上昇率はまだそれより2ポイントも高く、中銀は政策金利を11%超に維持したままなので、ローンの借り手にかかる負担は大きい。
米国で働くメキシコ人にとっては、現地のインフレも生活がより厳しくなる要因だ。
カリフォルニア州で清掃員の仕事をしているマニュエルさん(42)は、以前は毎週100ドルをメキシコの家庭に送っていたが、ルームシェアの家賃が上がった影響で、現在は70-80ドルを送るのが精いっぱい。「家族の面倒を見られればそれ以上何も望まない。でもここにはいつも仕事があるわけではない。(正規の就業に必要な)書類がない私たちのような人々はさらに仕事が少なくなる」と嘆いた。
同じカリフォルニア州で店員として働くベロニカさん(45)は、毎週100ドルだったトラスカラの家族向けの送金額を逆に40ドル前後増やした。「家族からもっと送ってとお願いされたわけではないけれども、メキシコでは何もかもが値上がりしていて、彼らは家計のやり繰りができなくなっている」という。
それでも送金額が多いメキシコの世帯でさえ、家計のひっ迫感は解消されていない。ゲオルギナ・カルデナスさん(34)は米国で建設作業員として働いている夫から毎月1200ドルを受け取っており、以前は2人の子どもと暮らしていくのに十分な額だったが「もはやそうではなくなった」と訴えた。
(Lizbeth Diaz記者、Noe Torres記者)