Yoruk Bahceli
[30日 ロイター] - 8月は米国債利回りが15年ぶりの高水準に上昇したにもかかわらず、ユーロ圏の国債市場は比較的無傷だった。これはユーロ圏の経済成長が今後ますます米国に遅れを取るとともに、財政資金ニーズも低位で推移するという投資家の見方を反映している。
米国は景気が底堅く、政府の借り入れ需要も強いため、高金利が予想以上に長期間続くとの見方から国債利回りが上昇した。米物価連動国債(TIPS)の利回りは2009年以来初めて2%を超え、株価を圧迫して世界的に借り入れコストを押し上げている。
しかし、ユーロ圏の国債はあまり影響を受けておらず、その理由は分かりやすい。
米経済は繰り返し予想を上回る成長を示し、第2・四半期の成長率は2.4%に達した。一方、ユーロ圏は先週発表された企業の景況指数が大幅に悪化した。
ジェネラーリ・インベストメント・パートナーズの債券責任者、マウロ・バーレ氏は「米国は昨年末の時点でリセッションが予想されていたにもかかわらず、最近の経済データは堅調だ。これに対して欧州は、数カ月前に経済基調が良好だったのが、今では暗い指標が増えてきた」と説明した。
債券市場はこうした欧米経済のかい離を反映している。
10年物米国債利回りは17ベーシスポイント(bp)ほど上昇して8月を終えそうだが、ユーロ圏の指標であるドイツ10年物国債利回りは4bpの上昇にとどまっている。英10年国債利回りは11bpの上昇。
政策金利の動向に敏感な2年物のドイツ国債に至っては、8月に入って利回りが17bp低下した。これは経済指標が弱く、欧州中央銀行(ECB)が9月に利上げを休止するとの見方が強まったため。対照的に、米国債の2年物利回りは今月横ばいで推移している。
<財政赤字>
米欧で政府の借り入れ需要に差がついている点も重要だ。米国の財政見通しが悪化している一方、ユーロ圏は改善している。
「欧州は口先で財政規律を唱えているだけではなく、実際に財政規律を保っている」とバークレイズのユーロ圏金利ストラテジー責任者、ローハン・カーンナ氏は言う。
格付け会社フィッチ・レーティングスは今月初め、財政悪化を理由に米国債の格付けを最上位の「トリプルA」から1段階引き下げた。同社は米財政赤字の対国内総生産(GDP)比率が昨年の3.7%から今年は6.3%、来年は6.6%に拡大し、その後も拡大を続けると予想した。
一方、フィッチはドイツの財政赤字比率について、昨年の2.6%から今年は3.1%に拡大するが、長期的には1%前後に縮小するとの見通しを示している。フランス、そして重債務を抱えるイタリアについても財政赤字の縮小を予想した。
市場関係者は、この点からもユーロ圏の国債の方が米国債よりも堅調に推移するとみている。
<各国への波及>
先週末に開かれた経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」では、米経済が強いため連邦準備理事会(FRB)は市場が予想している以上の利上げを余儀なくされ、諸外国の借り入れコスト上昇につながるとの懸念が示された。
バークレイズのカーンナ氏は、国内要因だけを考えればドイツ国債利回りは今より50―60bp低かったはずだと推計している。
ピクテ・ウェルス・マネジメントのマクロ経済調査責任者、フレデリック・デュクロゼット氏によると、ECBは今のところ、米国債利回りの上昇によるこうした影響を歓迎している。金融環境が引き締まることは、インフレとの闘いの一助になるからだ。
しかし、米国債利回りの上昇による影響が重荷になっている国もある。
日本では、米国債利回りの上昇を背景に為替レートが約10カ月ぶりの円安水準になり、日本国債利回りは10年ぶりの高水準に上昇した。