Howard Schneider
[ワシントン 13日 ロイター] - 物価下振れと景気減速の明確な証拠を求めていた米連邦準備理事会(FRB)幹部にとって、7月の前回連邦公開市場委員会(FOMC)以降に出てきたデータはある程度そうした期待を裏付ける内容だった。しかし年内の追加利上げの可能性をすっかり否定できるほどではなさそうだ。
13日に発表された8月米消費者物価指数(CPI)の前月比上昇率は1年2カ月ぶりの高い伸びを記録。これは変動の大きいエネルギー価格が主導したとはいえ、基調的な物価上昇率も予想外に加速した。
エコノミストの間では、物価情勢は引き続きFRBの望む方向に進んでいるとの見方が広がっているものの、8月CPIはある種の「サプライズ」であり、19─20日のFOMC後に公表されるFRBの最新見通しに、少なくともあと1回の追加利上げの想定は残されることになるだろう。
パンテオン・マクロエコノミクスのチーフエコノミスト、イアン・シェファードソン氏は、CPIの前月比上昇率の振れが大きくなるのは避けられないとしつつも、基調的なCPIは来年初めまでに3%未満の「落ち着いた」伸びになるとみている。
その上で来週のFOMCについて「FRBは政策金利を据え置くが、データ次第で再び利上げする意思があると示唆する」と予想した。多くの投資家も今回のFOMCで政策金利は5.25─5.5%に維持されるとの見立てだ。
注目はFOMCメンバーによる最新の政策金利見通しで、7月時点と同じく年内に25ベーシスポイント(bp)の追加利上げを想定する向きが大勢となるかどうかだろう。前回FOMC以降、一段の利上げは必要ないとの認識を示した政策担当者は2人しかいない。
投資家は追加利上げに否定的な意見が多数派だが、パウエルFRB議長はこれまでずっと、物価上昇率が2%の目標へ向かう持続的な道筋がはっきりするまで、政策の軸足は引き締め方向にあり、より長く引き締めを続けると強調してきた。
前回FOMC後の会見では「全体としてさらなる行動を求めることを告げるデータが出現すれば、われわれは動く」と言い切った。
<今月据え置きに疑念も>
一方前回FOMC以降のデータのほとんどは、FRBが望んでいる米経済のソフトランディング(軟着陸)、つまりスピードを落としながらも経済成長は続き、物価圧力は和らぐという構図を描いているのは確かだ。
雇用と賃金の増加ペースは鈍化し、離職率や求人件数、失業者1人当たりの求人といった他の雇用関連指標も、新型コロナウイルスのパンデミック前の水準に落ち着きつつある。経済団体ビジネスラウンドテーブルの最新四半期調査では、企業経営者の先行きの景況感や採用と売上高見通しはやや低下した。
銀行貸出は7月半ば以降、前年比で減少が続いており、金利引き上げや融資基準厳格化を通じて金融環境が引き締まっている様子が分かる。
ただパウエル氏が必要だと明言しているのに、まだ実際に起きていないのは、経済成長率全体が潜在成長率を下回るペースまで減速する事態だ。そうなれば物価上昇率が40年ぶりの高い伸びになった昨年夏のピークから持続的な鈍化基調にあるのだ、とFRBが自信を強められる。
FRB内では、物価上昇率が目標の2%で推移し、「適切な金融政策」が行われているとの想定なら、米経済は1.8%の成長が可能になるとの見解が一般的だ。
ところが現実の米国内総生産(GDP)成長率は第2・四半期が年率2.1%で、ゴールドマン・サックスのエコノミストチームによると第3・四半期には3%強に加速する見通しになっている。
これにより米国が景気後退に陥る確率は乏しくなった半面、物価の高止まりないし上振れに対するFRBの懸念はしっかりと残り続けるのではないか。
自動車労働者がストに突入する可能性や連邦政府機関の閉鎖の恐れなどは、逆に景気悪化を警戒すべき要素かもしれない。
だがTSロンバードのチーフ米国エコノミスト、スティーブン・ブリッツ氏は「8月CPIが発したメッセージは、成長減速と失業率上昇がない限り、コア物価上昇率が基調的に2%に戻らないということだ。FRBにとっての問題は果たして5.5%の政策金利で景気をスピードダウンさせるのに十分なのかという点にある。実際のところ、FRBは今月の利上げ見送りが可能かどうかには十分な疑念が存在するが、11月に追加利上げされる可能性が大きいことは誰もが分かる状態になっている」と指摘した。