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TKP Research Memo(4):日本リージャス買収により、国内フレキシブルオフィスマーケットをけん引

発行済 2019-05-24 15:04
更新済 2019-05-24 15:21
© Reuters.  TKP Research Memo(4):日本リージャス買収により、国内フレキシブルオフィスマーケットをけん引
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■日本リージャス買収について2019年4月15日付で、レンタルオフィス「Regus」を展開する日本リージャスを子会社化(全株式の取得)するとともに、その親会社であるIWG plc※(以下IWGと記載)と日本における独占的パートナー契約を締結し、短中期のオフィス事業へ本格参入することを公表した(公正取引委員会の承認後に株式譲渡を完了する予定)。

取得価額は、純有利子負債などの調整を行った上で決定することとなっているが、企業価値では約467億円(320百万英ポンド)に上ることから、ティーケーピー (T:3479)にとっては非常に大型のM&Aに踏み切ったと言える。

本件における目的及び今後の方向性、期待される効果、財務への影響等については以下のとおりである。

※IWG plcはスイスに本社を置く世界最大のワークスペースプロバイダー。

レンタルオフィス世界No.1ブランド「Regus」や「Open Office」、「SPACES」などの多様なブランドをグローバルに展開しており、そのネットワークは世界110ヶ国超、1,100都市超、3,300拠点超、会員250万人超(2018年12月時点)に及ぶ。

また、同社が完全子会社化する日本リージャスは、IWGの日本事業として全国約37都市、139拠点以上のレンタルオフィスを展開する日本国内最大のネットワークを持つレンタルオフィス業界の最大手企業である。

1. 目的及び今後の方向性本件は、同社が進めるフレキシブルオフィス事業※における成長戦略の一環として位置付けられる。

すなわち、これまでの会議室利用(時間貸し)に加えて、短中期のオフィス利用(月貸し等)へとサービス領域を広げることにより、多様なスペースの活用が可能となるため、広範な顧客ニーズを取り込むことができ、同時に既存スペースの稼働率向上にもつなげるところに狙いがあると考えられる。

これまでも、ポテンシャルが大きく、貸会議室との親和性が高いレンタルオフィス事業への展開を模索してきたが、本件により一気に事業基盤(拠点ネットワーク、顧客基盤、人的資源、ノウハウ、ブランド力等)を獲得することができたと言える。

両社を合わせた国内拠点数は約400拠点(約47万平方メートル)となり、巨大なネットワークを形成する。

今後は将来的に全国1,500拠点を目指す計画である。

また、サービス領域の拡充により、今後、拡大が予想される日本のフレキシブルオフィスマーケットをけん引するリーディングカンパニーとして、人々の働き方や企業のオフィスの在り方の変革を後押しするとともに、市場の拡大を自らの成長に結び付けていく戦略を描いている。

一方、IWGにとっても、パートナーである同社の事業拡大により、効率よくプラットフォーム使用料を得られるところに最大のメリットがある。

※一般的なオフィスの賃貸借契約ではなく、より利用者の目的に対応したワークスペースを活用することができる新しいオフィスのあり方のこと。

2. 期待される効果(1) サービス拡充により広範な顧客ニーズに対応前述のとおり、サービス領域の拡充や拠点ネットワークの拡大により、国内全域で細分化されたビジネス需要を取り込むことができる上、会議室利用からオフィス利用へ、オフィス利用から会議室利用へと相互送客が可能となるため、顧客とのリレーション強化や顧客単価の向上、営業の効率性を高めることが可能となる。

これまでも、同じビルに入居していることが多く、日本リージャスの利用者が同社の会議室を使うなど利用者の重複もあったことから、今後は両社にとっての取りこぼしを防ぐことができる。

また、働き方やオフィスの在り方が変わりつつあるなかで、高い利便性や最適化されたサービスの実現を始め、多様な形態のワーキングスペース、付帯サービスの提供などを通じて、同社の事業機会はさらに拡大するものと期待される。

(2) 遊休不動産の最適な活用を促進不動産の共同仕入れが可能となるため、不動産オーナーへの交渉力や仕入れ業務の効率性を高めることができる。

特に、前述のとおり、これまでも同じビルに入居していることが多かったことから、この部分における即効性は高い。

また、両社が蓄積してきた遊休不動産の膨大な活用実績に加え、両ブランドが一体となった共同マーケティング、共同開発により、地域特性や物件特性に応じた最適な提案が可能となるため、今後、2次空室に伴う空洞化が予想されるオフィスビルや稼働率の安定しない物件など、不動産オーナーに対しても、これまで以上に最適な活用を促進することができる。

(3) 既存スペースにおける稼働率の向上これまでの貸会議室(時間貸し)ビジネスにおける稼働率は、季節によって変動はあるものの、年間を通じた平均では30%程度にすぎない。

つまり、70%程度は空いている状況となっている。

したがって、そこを月単位でのオフィス利用で埋めていくことができれば、稼働率を高い水準で安定化させるとともに、収益性をさらに高めることが可能となる。

(4) グローバルサービスへのアクセスを実現IWGと締結した独占的パートナー契約により、国内顧客に対し、IWGが全世界で展開するロンドンやニューヨークなどの「Regus」や「Open Office」「SPACES」などのフレキシブルワークスペースを提供できるほか、IWGの海外顧客に対して、従来の日本リージャスの施設、サービスだけでなく、同社が展開する貸会議室のほか、料飲、ケータリング、宿泊などの付帯サービスへのクロスマーケティングが可能となる。

3. 財務への影響実際の取得額はまだ確定していないが、企業価値は約467億円に上ることから、総資産が約510億円の同社にとって、財務面での影響も大きい。

2019年2月期末の「現金及び預金」の残高は約120億円に上るが、仮に企業価値評価の全額を銀行借り入れにより賄うことになれば、資産規模が一気に2倍近くに拡大するとともに、有利子負債残高も大きく増加し、自己資本比率は2019年2月期末の水準(21.0%)からさらに低下することが予想される。

また、企業価値評価のうち、「のれん」として計上される部分が大きいことから、のれん償却費が期間損益に与える影響はもちろん、減損リスクについても懸念材料として認識する必要がある。

さらに言えば、企業価値評価(約467億円)は日本リージャスの連結EBITDA(約29億円)の約16倍に当たることから、一般的な見方をすれば、決して低いハードルとは言えない。

また、レンタルオフィス市場は、成長性が期待できるとは言え、既に競合が厳しくなりつつあり、事業特性から収益性もあまり高くないとの評価もある。

ただ、本件については、業界の中で高い収益性を誇り、今後の展開力も期待できる「Regus」ブランドやその運営ノウハウを獲得できるメリットに加え、買収後のシナジー創出の大きさを勘案すれば、十分に理にかなった投資と言え、のれん償却費も今後の利益成長の中で十分に賄えるものとみている。

別の言い方をすれば、レンタルオフィス事業との親和性の高い貸会議室事業を展開してきた同社だからこそ、成功に導く可能性が高いとも言える。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)

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