坂口茉莉子
[東京 25日 ロイター] - 生損保による中期債の買い越し規模が、9年ぶりの高水準となっている。日銀の早期政策修正への警戒感から超長期債の買いを手控え、消極法的に中期債を選好しているためだ。今週の日銀金融政策決定会合でイールドカーブ・コントロール(YCC)の修正が見送られても、先行きの政策修正への思惑が解消しなければこの構図はしばらく続くとみられ、長期・超長期の金利低下圧力は強まりにくい。
<資金の配分先に苦慮、中期債への「消極的な買い」に>
日本証券業協会が20日に発表した6月分の公社債店頭売買高によると、生損保による中期債買い越し額は1918億円で、外国人、信託銀行に次ぐ高水準となった。一定期間の金利から収益を得るキャリー収益の積み上げを運用の主体とする生損保が、短い年限で資金を運用する中期債を選好することはまれで、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の試算では2014年6月以来9年ぶりの規模となる。
一方、生損保の超長期債の買い越し額は3984億円と、直近5年平均(3781億円、三菱UFJモルガン・スタンレー証券調べ)をやや上回った程度にとどまった。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア債券ストラテジスト、鶴田啓介氏は「日銀の政策修正観測を背景とした金利先高観から、超長期債は大きくは買いづらい」と指摘する。「資金の置き所として現預金に向かっていたものの、積み上げていくことも難しい。このため、運用の一つの選択肢として中期債に振り向けているのではないか」とみている。
日銀の政策修正への警戒感から金利上昇圧力がかかる可能性がある超長期債は買えず、ドル/円のヘッジコストが5%を上回る高水準となっている為替ヘッジ付き外債への投資も抑制されている。保険料収入や国債償還などで現預金が積み上がっても、銀行に預けるとマイナス金利がかかる可能性もある。
結果として、金利が上昇しづらく、ボラティリティーが比較的低い「5年ゾーンなどは、プラス利回りを確保できる一時的な資金の置き場の一つ」(生保運用関係者)とみなされ、生損保からの「消極的な買い」が入っているという。
2年債や5年債などの中期債は、金利上昇圧力が相対的に他の年限よりもかかりにくい。日銀の国債買入オペや共通担保資金供給オペによるサポートがあるほか、為替ヘッジコストの面から上乗せ金利が確保できる海外勢やキャピタルゲインを狙う銀行セクターなどが資金を投じているためだ。
<9月以降の根強い日銀政策修正観測>
生損保が長期・超長期債から中期債に資金をシフトさせる動きは、しばらく続く可能性がある。
日銀は7月27─28日の決定会合で現状の金融緩和政策を維持する公算が大きいとみられているが、一方で先々の政策修正への思惑は根強い。
その一つの要因は、円安の進行だ。足元のドル/円は141円前半での推移で、日銀が金融緩和を継続するとのロイター報道など受け20日時点から約2円近く上昇している。もし25─26日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で25ベーシス(bp)の利上げが決まり米連邦準備理事会(FRB)がタカ派姿勢を示す一方で日銀が金融政策を維持すれば、金融政策の方向性の違いから一段の円安が進み得る。
ニッセイ基礎研究所の金融研究部、福本勇樹金融調査室長は「円安が進むと物価上昇や日銀の政策修正への思惑からイールカーブの形状がゆがむという流れが、YCCが解除されるまでは繰り返されやすい」と指摘する。こうした状況では海外勢などの売買でボラティリティーが高まることもあり、国内投資家の積極的な買いは見込めないとの見方を示す。
日銀の政策決定会合は7月の後は9月21─22日の開催予定で、それまで間があるため政策維持となってもいったん長期債や超長期債に買い戻しが入る可能性はある。ただ「先行き(の政策修正)への思惑は解消せず、投資家は超長期の金利上昇を待つ」(別の生保運用関係者)との声も出ている。
新発10年債利回りが0.4%を割り込んだり、新発20年債利回りが1%を割れるほどまで買いが進むかは「不透明」(国内証券の債券セールス担当)との見方が広がりつつある。
(坂口茉莉子 編集:田中志保)