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防衛費増額の財源論争、安易な増税で競争力を削げば元も子もない(防衛力強化へ、有識者報告書2022を読む(4))(2)

発行済 2022-12-22 09:23
更新済 2022-12-22 09:30
© Reuters.
本稿は、「防衛費増額の財源論争、安易な増税で競争力を削げば元も子もない(防衛力強化へ、有識者報告書2022を読む(4))(1)」の続きである。


■その場しのぎの「増税」はやめよ

日本は外貨の獲得を自動車産業に大きく負っている。
EVでパラダイムシフトが起き、産業の裾野が大きく姿を変えた時、それは維持できるだろうか。
かつて世界を席巻した半導体分野でも、復権はついに叶っていない。
そもそもバブル経済が崩壊した後、日本が得意としていた外貨獲得モデルは中国にとって代わられたが、米国がインターネットで起こしたようなイノベーションによる新産業創出もできなかった。
それどころか第4次産業革命の波からは取り残される一方で、政府が注力を宣言するweb3分野でも人材流出がすでに起こっている。
危機の根本は、日本の企業や個人が「アニマルスピリッツ」を喪失してしまっていることなのだ。



このまま手をこまぬいていては、日本は外貨を稼ぐ力を徐々に喪失し、対外純資産をすり減らしていくことになる。
いみじくも報告書のいうように「足元では貿易赤字が続くとともに、長期的には成熟した債権国としての地位も盤石である保証はない」。
債権取崩国へ向かうことになる。
摘みあがった国債残高よりも恐ろしい、真の「亡国」への道だろう。



「国力としての防衛力を強化するためにも、経済力を強化する必要がある」というのはその通りであり、それを達成するために必要なのは、稼ぐ力を取り戻すこと——ひいては、経済の活力の源泉であるアニマルスピリッツを取り戻すことだ。
アベノミクスの3本目の矢が成し遂げようと試みて、ついになしえなかったことでもある。
少なくとも「我が国の財政基盤の強化」ではないはずだ。



こうした経済システムそのものの構造とそれを前提としたとした国家戦略が議論されないまま、「増税ありき」「取りやすく反発も少ないから法人増税で」というその場のしのぎのかたちで財源を決めるべきではない。
稼ぐ力にたがをはめるようなことをして、結果として経済が弱体化すれば、それが何よりの国防力低下に帰結してしまう。



「増税」が意味するものとは、民間部門から国への資産の移転である。
インフレーションも相対的に国の借金を小さくする効果があるため、国民から国に二重に資産移転を図ることになり、民間が稼ぐ力や消費の力の弱体化をさらに進めることになるだろう。
しかも足下では、世界的インフレが加速しており、スタグフレーションが起こる可能性が指摘されている。
景気後退による雇用喪失、国内消費のいっそうの弱体化が危ぶまれるところでもある。


■国のために戦う日本人は、わずか13%だった

報告書はこう訴えている。


「国を守る防衛力強化が急務となっているなか、国を守るのは国民全体の課題であり、国民全体の協力が不可欠であることを政治が真正面から説き、負担が偏りすぎないよう幅広い税目による負担が必要なことを明確にして、理解を得る努力を行うべきである。
持続的な経済成長実現と財政基盤確保とを同時に達成するという視点に立ち、国民各層の負担能力や現下の経済情勢へ配慮しつつ、財源確保の具体的な道筋をつける必要がある。
その際、高齢化が進むなかで今後も社会保険料等の負担が増すことを踏まえるとともに、成長と分配の好循環の実現に向け、多くの企業が国内投資や賃上げに取り組んでいるなか、こうした企業の努力に水を差すことのないよう、議論を深めていくべきである」


国を守るということが国民全体の課題であり、国民全体の協力を要することは論を俟たない。
「世界価値観調査」(2021年)によると「もし戦争が起こったら国のために戦うか」という問いに対して「はい」と回答した人の割合は、日本ではわずか13.2%であり、調査対象国中抜きんでて最下位だった。
米軍の傘の下で「稼ぐ力」の涵養に専念できていた時代が明らかに終焉しつつあるいま、このような意識を変えていく必要があるのは明らかだ。



だが、政府には、その目的のための手段として「だから増税」という結論に飛びつくことなく、国家戦略のグランドデザインを描いたうえで議論を深めてほしい。
実現できそうにない「経済成長実現と財政基盤確保とを同時に達成」という題目を掲げるだけでなく、まずどの痛みに耐えて、どのゴールを目指すのか、二律背反に膠着している議論をどう止揚していくのか。
そんな議論を交わしてビジョンを示してほしい。
「この国はいかにあるべきか」という根本的な議論を起こすのに、国民の生命と財産を守るための防衛費の財源をいかにすべきかという命題ほど適したものはないはずだ。


中村 孝也
株式会社フィスコ取締役
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。
現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。
フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。
なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。


写真:代表撮影/ロイター/アフロ

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