[ブリュッセル 13日 ロイター] - ロシアのプーチン大統領が核兵器使用の可能性をちらつかせる中で、同国の核戦力運用部隊が近く大規模演習「グロム」を行う見通しだ。このため米国やその同盟国は、ロシアが本気で動くつもりか、それとも単なる演習の範囲内の行動にとどまるのかを確実に見分けるという重要な課題を背負わされることになる。
ロシアは毎年この時期に核戦力の大規模演習を実施するのが恒例で、西側の専門家によると今年も数日中に始まるとみられる。複数の米政府高官は、演習にはさまざまな弾道ミサイルの発射実験も含まれる公算が大きいと述べた。
ただ今年はプーチン氏が、長引くウクライナでの戦闘を背景にロシア領土を守るためには核の使用も辞さないと公言している中で、一部の西側当局者はロシアが演習を通じてわざと自分たちの意図をくらませようとする可能性があると警戒している。
西側当局者の1人はロイターに「だからこそロシアは核戦力の演習を行おうという時期に、あえてことさら過激な言い回しはしたがらない。なぜなら、そうする(過激な言葉を避ける)ことでわれわれ側は、目にする彼らの行動や実際に起きる出来事について、通常の演習かそれとも別の何かなのかを確かめるという余計な負荷がかかるからだ」と説明した。
それでもこの当局者は、西側のそうした判断力には「高い自信」があると言い切った。
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長はブリュッセルにおける会見で、今回のロシアによる年次演習もこれまで数十年と同じように、NATOがしっかり監視していくと請け合った。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官は、グロムではミサイルの実射を含めてロシアの戦略核運用部隊が大々的に展開することになるとした上で、それらはあくまで「ルーティーン」だと指摘。「ロシアは恐らく、この演習が特に最近の事象に照らして自らの戦力投射能力を向上させると信じているだろう。だがわれわれは、ロシアの核運用部隊が毎年この時期に大規模な訓練をすると承知している」と語り、米国は状況を「注視する」と付け加えた。
ある米国防総省高官は、ロシアの演習はNATOが計画し、来週開始する核抑止のための演習「ステッドファースト・ヌーン」と同じタイミングで実施されると予想するとともに「ロシアがウクライナで戦争しながら核に言及し、この演習を決めたのは無責任極まりない。核兵器をふりかざして米国や同盟国を威嚇するというのも無責任だ」と憤りをあらわにした。
プーチン氏が具体的な核攻撃の準備に入った形跡は今のところ見当たらない。しかし過去1カ月でウクライナの反撃が功を奏してきたのに伴い、ロシアから発せられる核兵器に関する言い回しはだんだんと強い調子になってきた。
最近ではプーチン氏がウクライナの4州併合を一方的に宣言し、「ロシア領」防衛には核を使うと脅している。一方NATO高官の1人は12日、ロシアが核攻撃すればNATOは「物理的に対応」すると述べた。
オースティン米国防長官は13日のNATO国防相会合後に、米国の核戦力態勢に変化を促す「兆候や警報」は目にしていないと発言した。
ロシアが直近で核戦力運用部隊の大規模演習を行ったのは今年2月で、ウクライナ侵攻の直前。当時これは西側のウクライナ支援を消極化させる意図があったと考えられていた。
また先の西側当局者は、ロシアの演習に関しては「政治指導部に核戦力部隊をどれだけコントロールして命令を発する能力があり、同部隊がその命令に従うかどうか」を探るという意味があると解説する。
この当局者によると、ロシアは今回の演習のさまざまな場面を公開し、対外的な威嚇に有効活用すると予想される。「彼らは演習中に核使用に触れるメッセージを発するはずだ。この演習を利用して戦略的な情報発信の面で優位に立つためだ」という。
NATOが実施する核抑止の演習は、ロシアのウクライナ侵攻前から予定され、もう10年余りにわたって毎年この時期に行われてきた。14カ国が参加し、核弾頭を搭載できる戦闘機や、米戦略爆撃機B52も投入される。ただ実弾は使用されない。
前出の米国防総省高官は「われわれの(核)抑止力を維持するためにルーティーンの活動を続けるが、特別なメッセージを発信するつもりはない。核兵器で脅すのは無謀で無責任だ。ロシアはそういうゲームを仕掛ける道を選ぶかもしれないが、われわれは決してそんなことはしない」と言い切った。
(Phil Stewart記者)