Jonathan Landay Idrees Ali Gram Slattery
[ワシントン 22日 ロイター] - トランプ前米大統領を含む共和党の2024年大統領選候補が麻薬組織(カルテル)との戦いとして、メキシコへの軍隊派遣やミサイル攻撃を提案している。ただ、米軍・政府の現・旧関係者は、違法薬物流入を食い止められないだけでなく、米国内で流血の報復を招く可能性があるとの見方を示している。
トランプ氏のほか、フロリダ州のデサンティス知事、ヘイリー元国連大使は選挙に勝利した場合、麻薬鎮痛剤「オピオイド」の一種「フェンタニル」の米国への流入を食い止めるためメキシコでの軍事力行使を承認する可能性があると述べている。
米税関・国境警備局(CBP)のデータによると、南部国境におけるフェンタニルの押収量は近年爆発的に増加しており、2014年にはわずか10.7キロだったものが、22年には約8400キロに拡大。米疾病対策センター(CDC)によると、22年には約8万人の米国人がオピオイド関連の過剰摂取で死亡し、その主な原因はフェンタニルだ。
しかし、米国にとって最大の貿易相手国に軍隊を派遣することは失敗する危険性があるという。カルテルが米国内で報復する可能性があるほか、米軍人やメキシコの民間人がカルテルメンバーとの銃撃戦で死亡する可能性がある。メキシコは米国の法執行機関との協力を断ち切るとみられ、フェンタニル製造所を突き止めるのも困難だ。
メキシコに詳しい米軍将校は匿名を条件に「特殊部隊を派遣する。カルテルのリーダーを始末する。さて、今度は誰がトップになるのか。これはカルテルを分裂させ、ますます暴力的なグループを生み、封じ込めるのが難しくなる」と語った。
元駐メキシコ大使でシンクタンク「ウッドロウ・ウィルソン国際センター」のフェロー、アール・アンソニー・ウェイン氏は、フェンタニルの製造所を見つけるのは難しいが、「間違ったアパートメントを襲い、隣の罪のない子どもや一家を殺すということは起こりやすい」と述べた。
元国務省職員でテロ対策と麻薬対策に携わっていたジェイソン・ブレイザキス氏は、カルテルが米特殊部隊の襲撃を受ければ、報復として彼らの工作員が米国内の民間人を攻撃する可能性があると話す。
実際のところ、かなりの量のフェンタニルは合法的な国境越えで米国人によって密輸されており、密輸業者に対する殺傷力の行使は政治的に受け入れ難く、ほぼ間違いなく違法だ。
米軍の報道官は「仮定の話」にコメントできないと述べた。
<支持を集めるアイデア>
トランプ氏は大統領任期の最終年にメキシコへの軍事攻撃を提案。トランプ政権で2代目の国防長官を務めたマーク・エスパー氏の回顧録によると、トランプ氏は20年に少なくとも2回、「麻薬製造所を破壊するためにメキシコにミサイルを撃ち込む」ことができるか尋ねたという。
エスパー氏は、それは違法で戦争行為だと答えたと記している。
しかし、共和党のストラテジストによれば、フェンタニルの蔓延が深刻化する中、党の指名獲得を争う候補者から軍事行動を求める声が強まった。
ヘイリー氏は今月、ロイターとのインタビューで「われわれは待つつもりはない。これ以上の米国民を死なせるわけにはいかない」と述べた。
最近のロイター/イプソス世論調査では、回答者の52%が「麻薬カルテルと戦うためにメキシコに米軍兵士を派遣すること」を支持し、26%が反対。共和党員は64%対28%の大差で支持していた。
それでも、ほとんどの共和党員を含む米国民は、メキシコ政府が承認しなければこのような行動に反対すると答えている。
複数のストラテジストもロイターに対し、共和党候補が大統領に就任しても一方的な軍事行動を取る可能性は低いとの見解を示している。
元メキシコ外務次官のセルジオ・アルコセル氏は、このような行動は「メキシコにとって受け入れがたい」と述べ、組織犯罪や移民に関する情報共有を妨げ、経済関係を損なうことになると述べた。
(取材協力:Dave Graham in Mexico City)