Greg Stutchbury
[ウェリントン 16日 ロイター] - 世界のラグビーにおける「アイランダー(太平洋島しょ国)」の存在感は否定できない。何しろ、プロラグビー選手の5人に1人はトンガ、フィジー、サモアにルーツを持っているからだ。
だが、出身選手の華やかな活躍とは裏腹に、太平洋島しょ国にとって日本で開催される今年のワールドカップはまたもや失望に終わりそうに見える。
弱い経済基盤、資金不足、国内での活躍の場の乏しさー。こうした慢性的な問題が島しょ国のラグビー強化を阻んでおり、状況はむしろ以前よりも悪化しているのではないかという苛立ちすら高まっている。
<「やるべきことはまだある」>
アイランダーの出身選手たちは、誰もが羨むパワーとスピードで、数十年にもわたってラグビーファンを魅了し続けてきた。世界のリーグの「ティア1(トップグループ)」に入る強豪国の代表チームで、これらの国々にルーツを持つ選手を抱えていない国は珍しい。
それにもかかわらず、アイランダー諸国が今年のワールドカップでプール戦を勝ち抜いて決勝トーナメントに進出する可能性は、ラグビーがプロ化される以前に比べれば低くなりそうだ。
その原因である育成資金の確保について、パシフィック・ラグビー・プレイヤーズ(PRP、アイランダー諸国出身者の選手会)の運営に当たるエイデン・クラーク氏は、国際統括団体であるワールドラグビーの努力を評価しつつも、まだやるべきことはあると指摘する。
「変化に向けて大きなチャンスを握っているのは、ワールドラグビー側だ」と彼はロイターに語った。「もし積極的な支援が実現すれば、過去20年間続いてきた状況を変えていく本当のチャンスになるだろう」と同氏は主張する。
ワールドラグビーは過去4年間、育成プログラムやトレーニングキャンプを中心に、約2400万ドルの資金を太平洋地域に投じてきた。その成果は日本で開催されるワールドカップで現れるだろうと期待する。
「アイランダー諸国は2019年日本大会に向けて素晴らしい状況にあると確信している」。ワールドラグビーでハイパフォーマンス・マネジャーを務めるピーター・ホア氏は先月、こう自信を見せた。
だが、アイランダーのチームが栄光から遠ざかって、すでに久しい。ラグビーがプロ化に踏み切った1995年以前は、アイランダー諸国がワールドカップ準々決勝に進出する例が3回見られた。しかし、その後、決勝トーナメントに進出したのは2007年のフィジーだけだった。
<貧困からの脱出>
アイランダー諸国がワールドカップで苦戦する大きな理由の1つは、家族に豊かな生活を与えるために、選手が世界各国に散らばってしまうことだ。
最も才能に恵まれた選手たちは、居住年数の要件を満たしたうえで、もっと豊かな国の代表に囲い込まれてしまう。選手の所属チームが代表合流のためのリリースに同意してくれたとしても、資金難に苦しむアイランダー諸国のラグビー協会が頻繁に代表選手を招集することは難しい。
PRPのデータによれば、世界のプロラグビー選手の18%はアイランダーであり、その多くがイングランド、フランス、日本などの資金豊富なチームに所属している、とクラーク氏は話す。イースポルティフ・インターナショナルによれば、こうしたプロ選手は平均20万ドル以上の年俸を得ているという。
もっとも、それ以外の選手は欧州各リーグの下位チームで何とか食いつないでいるのが現実だ。それでも、年4000~5000ドルという母国での平均所得よりも高給を稼ぐことができる。
マッセイ大学(ニュージーランド)のロシェル・スチュワートウィザーズ専任講師(開発論)は、「端的に言ってしまえば、アイランダー諸国の人々は貧しいということだ」と語った。
<島を離れず活躍する道は>
才能ある若い選手たちが自分の島を離れることなくラグビーでそれなりに生計を立てられるようになれば、代表チームにとっても最善の結果が期待できる。
可能性の1つとしてよく取り上げられるのが、アイランダー諸国合同チームを結成して南半球の国際プロリーグであるスーパーラグビーに参戦する、あるいは現在ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチン各国の代表で戦われているラグビー・チャンピオンシップをアイランダー諸国にまで拡大するという案だ。
だが、将来有望な選手には恵まれているとはいえ、アイランダー諸国はいずれも人口が少なく、興行収入を稼いで選手の報酬をまかなうほどの経済基盤は提供できない。
「現在の経済環境において、太平洋地域でプロの大会を開催するというのは、およそ現実味がない」とクラーク氏は言う。
クラーク氏は、ラグビー先進国の国内リーグにアイランダー諸国のチームを参戦させるやり方はうまく行くかもしれないと言う。オーストラリアで国代表・スーパーラグビーに次ぐ位置付けのナショナル・ラグビー・チャンピオンシップにフィジーのチームである「ドゥルーア」が参戦しているのと同じ形だ。
アイランダー3国と日本を含む形で、スーパーラグビーとラグビー・チャンピオンシップの下部リーグを導入するというのも1つの道かもしれない。
もちろん、どのアイデアにせよ、日本でのワールドカップに向けては遅きに失しているが、2023年に向けて、アイランダー諸国がさらに地位を低下させる事態を防ぐために、ワールドラグビーはこの問題にもう一度目を向けるべきだとクラーク氏は考えている。
「何が最良のモデルなのか問い直さなければならない」と同氏は言う。「結局堂々巡りになるかもしれないが、いくつかの選択肢を探り始める必要がある」。
(翻訳:エァクレーレン)