■今後の見通し1. 2019年12月期の業績見通し進行中のすららネット (T:3998)の2019年12月期の業績は、売上高1,136百万円(前期比21.5%増)、営業損失29百万円、経常損失30百万円、当期純損失22百万円と予想されている。
期初予想に比べて売上高は、BtoCが予想を下回っていることから若干だが下方修正された一方で、経費支出も予想を下回っていることから、営業損失は上方修正(損失幅の縮小)された。
増収にもかかわらず営業損失を予想しているのは、以下のような先行投資負担による。
(1) TVCM:2019年3月から初めてのTVCMを流した(約100百万円)が、計画したほど効果がなかったので下半期は中止する。
(2) 人員増:2018年12月期は5名の人員増だったが、2019年12月期は通年で約20名を新規採用する予定。
(3) 理科・社会の教材作り:2020年春のリリースを目指して理科・社会の教材を作りこんでいる(経費先行)。
これらの投資はいずれも次の成長ステップに向けてのものであり、2020年12月期以降は再び成長路線に戻ることが見込まれている。
2. 中長期の展望現時点での中期経営計画(2019年3月発表)では、今後の数値目標として2021年12月期に売上高1,800百万円、営業利益290百万円を掲げている。
この目標を達成するため、今後も以下のような事例に加えて様々な施策を実行していく計画だ。
(1) 国内市場でのシェアアップ:特に低学力生徒向け現在、同社の顧客対象と成り得る学習塾の数は全国で約40,000、私立中学校及び高等学校等は約2,000と推定されている。
これに対して実際に同社が契約を行っているのは、2019年6月末で学習塾が813、学校が160にとどまっている。
したがって、数字的にはまだまだ拡大の余地はあると言える。
実際にすべての学習塾や学校が同社の顧客対象となるわけではないが、同社が同業他社に比較して有利と考えられるのは、低学力生徒に適した教材・カリキュラム・教育方法を有している点だろう。
今後も日本全体で少子化が進むのは明らかで、多くの学習塾や学校が生き残りをかけて生徒の囲い込みを図らざるを得ない。
しかし、以前のように、高学力生徒の難関校突破や中程度学力生徒のレベルアップだけで生徒数を増やすのは容易ではない。
ある程度、低学力生徒を囲い込み、さらに結果を残さなければならないだろう。
そうした環境下では、同社の提供する教材やサービスが受け入れられる可能性は高いと思われる。
(2) 多くの企業との業務提携前述のように同社は限られたリソースで効率的な営業活動を行っているが、更なる拡大のためには限界がある。
これを補うために、以下のように様々な企業と業務提携を行っている。
今後は、これらの業務提携の効果が徐々に具現化し、業績拡大に寄与してくるものと思われる。
a) NTT西日本睡眠改善及び学習パフォーマンス向上を目指した「眠育」プログラムに関する共同トライアルをスタートしている。
同社は生徒の行動習慣・学習習慣を変えることを開発コンセプトの1つとして「すらら」を開発しているが、本件は行動習慣の内、睡眠習慣を変えるという先進的なプログラムである。
b) 凸版印刷新たな教科として「理科」教材の新規開発を共同で進めている。
リリースはまだ先のようだが、当商品ラインナップの拡大は、同社の売上及びユーザー数の増加が見込める。
その他、インドやアジア地域を始めとする海外での販売協力、コンテンツの相互利用、学習ビッグデータの解析など、多岐にわたるテーマで連携に関する協議を開始している。
c) NTT西日本、NTTドコモ、チエル (T:3933)(販売関連)学校法人市場に対する販売代理業務を行っている。
販売代理をスタートして2年未満だが、既に何校か契約に至っており、着実に効果が出ている。
d) NTTドコモ(開発関連)人工知能を用いて生徒と対話する機能(AIサポーター)を共同で開発し、リリースした。
(3) 海外での事業展開:特に発展途上国既述のように同社の教材・サービスの特色の1つは、「まったく理解していないゼロからのレベルでも理解できる教材」を作っている点である。
このような「ゼロからの教材」が海外市場、特に教育レベルの低い発展途上国では大いに生かされるのである。
したがって同社が海外市場で対象とするのは、現地で日本の駐在員子弟向けに受験用の講義を行う学習塾ではなく、現地の生徒のレベルアップを図るローカルの塾になる。
そのため、市場のポテンシャルは非常に大きいと言える。
既にインド、スリランカ、インドネシア等で同社の教材の導入実績があり、東南アジアを中心に今後も拡大が期待できそうだ。
(4) 多様な生徒への支援での活用放課後等デイサービスは2012年4月に児童福祉法に位置付けられた新たな支援で、2019年3月1日現在同社では契約校舎数が50校を突破している。
学習支援を求める保護者のニーズに応え今後導入が拡大していくことが期待される。
「すらら」小学校低学年版は、子どもの発達科学研究所監修のもと、一般の児童はもちろん、学習障がいなどの発達の課題を持つ児童でも取り組みやすく、学力を伸ばしやすいよう考慮し制作されている。
前述のような鳥取県教育委員会やN高等学校での採用などもこの例と言えるだろう。
(5) 異業種企業の市場参入既に発表されている築地本願寺(寺子屋サービス)やケイアイスター不動産との提携の例に見られるように、異業種企業が「すらら」を採用することで教育事業に参入することは可能になる。
今後も様々な形で異業種企業との提携は進むと予想される。
■株主還元策同社は2018年12月期まで配当を行っておらず、現時点では2019年12月期も無配の予想である。
当面は投資及び内部留保優先の方針だが、今後の業績動向によっては株主還元策が発表される可能性もありそうだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)