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アングル:物価安定の鍵握る中小賃上げ、格差是正へいばらの道

発行済 2022-01-31 13:28
更新済 2022-01-31 13:37
© Reuters.  1月31日、今年の春闘では、中小企業の賃上げが例年にも増して注目されている。都内で1月7日撮影(2022年 ロイター/Issei Kato)

基太村真司

[東京 31日 ロイター] -   今年の春闘では、中小企業の賃上げが例年にも増して注目されている。岸田文雄政権が掲げる格差是正の象徴となるだけではなく、裾野の広い中小の賃上げが実現すれば、日銀が目指す物価安定にも一歩、近づくからだ。

経団連が取引価格の適正化を表明するなど環境整備も進みつつあるが、直接的な効果は未知数。ここにきての新型コロナウイルス感染再拡大や株価の急落で、経営者がより慎重になる懸念もある。

<肌感覚>

中小企業白書によると、中小企業数は日本企業の99%を占め、従業員数でも全体の7割に達する、いわば日本経済の主役。ただ、規模が小さく内需に片寄りがちな「街の中小企業」が多い分、海外市場底打ちの恩恵を受けて業績が回復してきた大企業に比べると業績は苦戦が目立ち、企業間の体力や活力の差は依然大きい。

東京の新橋駅近く。日本屈指の飲食店街で、20年超にわたり小さな店を切り盛りしてきたバーの経営者は、日頃からサラリーマンや中小企業の経営者らと接してきた。「従業員との関係が密接な中小企業に、賃上げをしたくない経営者はあまりいない。報いてやりたいができない、という苦悩を抱えている。私もそのひとりだが」と苦笑する。

厚生労働省によると、企業規模別の賃金の格差は依然として大きい。月額賃金をみるると、男性は大企業37万7100円、中企業33万1700円、小企業30万2400円。女性も大企業26万6400円、中企業25万3100円、小企業23万2900円と、ともに規模と賃金が比例する構図が続く。

賃金と密接な関係を持つ資金繰りには、格差拡大の予兆が再び表れている。昨年12月に日銀が公表した短観によると、大企業の資金繰りは回復基調が続く一方、中小企業は再び悪化へ転じた。余力に乏しい企業が多い中小はリーマンショック後、プラス圏へ転じるのに6年近くを要した経緯がある。

<交渉過程>

春闘の交渉過程では、大企業とは別の事情を抱える。これまで交渉のリード役だった大企業が要求を数値で示さなかったり、一律での要求を取りやめるといった動きが出てきたことで、遅れて本格化する中小企業の労働側が、交渉を勢いよく進めることが難しくなっている。

組合員数の減少もあり、連合はこうした動きに危機感を抱く。

芳野友子会長は「コロナだから仕方がない、昨年と同じでいいという議論に終始していては、安心社会への道筋が開けない」と強調。「格差是正が進みにくい状況下、大手も中小も(賃上げを)要求し、労使交渉することが重要だ」と呼び掛ける。

組合員182万人を擁する日本最大の産業別労働組合、UAゼンセンは2%の引き上げを求める方針だが、79万人で国内第2位の自動車総連は13日、一律のベア要求を見送ることを決めた。

<わずかな光明>

暗がりの下で中小企業に光明となりそうな動きがある。サプライチェーン(供給網)から発生した利益を適正に配分しようとする取り組みだ。

複数の会社がひとつの製品を組み立てるサプライチェーン。完成した製品から得られる利益が下請けである中小企業に十分行き渡らず、繁忙でももうけが限られ、賃上げ原資の積み上げに至らないとされる問題が多発している。

政府が価格転嫁対策に乗り出したこともあり、経団連は今回、春闘の指針を示したリポートで、買いたたきの排除など取引価格の適正化に「大企業が率先して一層推進する」と書き込んだ。

中小企業が製造する部材の値上げなどを容認する姿勢を見せた形で「かなり踏み込んだ」(関係者)表現となった。

連合の芳野会長は、こうした取り組みが中小企業の賃上げ余力になる、と力説する。

<好循環は>

資源価格の上昇や円安などを背景に、日本でも物価の上昇が目立っている。昨年12月の国内企業物価指数は前年同月比プラス8.5%と、過去最高だった前月に次いで過去2番目の伸び率を記録した。

全国消費者物価指数(コアCPI)は同0.5%の上昇だったが、携帯電話通信料の大幅値下げの影響を除くと、既に2%近くに達している。

日銀が長年物価目標として掲げてきた水準が目前に迫る中、黒田東彦総裁は「賃金の上昇を伴わずに資源価格、国際商品価格の上昇を主因とする物価上昇が起こったとしても、一時的にとどまる」として、賃金と物価が持続的に上昇する好循環を期待する。

一方、賃上げ交渉を控えた時期のいま、新たに懸念されているのが足元の株安だ。中小企業の経営者は保有資産の価値を大きく左右する株価の動向により敏感とされる。

新型コロナの感染者数急増やオミクロン株(BA.1)の亜種、ステルスオミクロン株と呼ばれるBA.2が国内で検出されたことも、同様に影を落とす。

労働問題に詳しい日本総研の山田久副理事長は、物価高の下で「賃金を上げる企業が少ないと、実質賃金がマイナスになって消費が落ち込み、景気が下振れするおそれがある」と警鐘を鳴らしている。

(基太村真司 グラフィック作成:照井裕子 編集:橋本浩)

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