Noriyuki Hirata
[東京 17日 ロイター] - 日本株は10月の調整局面を経て急激な戻り相場を演じている。日経平均はバブル後高値に迫るまで上昇。市場では、米経済指標を通じて、インフレ鈍化と経済の底堅さが確認され、「ナローパス」とされた「適温」相場に入ったようにみえる、との強気の声も出てきた。
一方、春先のような大相場の再現には、需給面からは、牽引役と期待される海外勢が好むような「変化」が必要とみられ、来年始まる新NISA(少額投資非課税制度)への注目度が高まっている。
今週発表された米消費者物価指数(CPI)は市場予想を下回り、インフレ鈍化が再確認された。一方、10月小売売上高はマイナスながら市場予想を上回り、景気の底堅さも継続している。
16―17日は連騰後の利益確定売りが上値を抑え、株価が調整する場面もあったが、それまでの上昇幅に比べると限られた。
しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンド・マネージャーは、利益確定売りが一巡して金利動向の落ち着きが続けば、日経平均は「いずれ年初来高値を上抜ける可能性がある」とみている。
日経平均をTOPIXで割るNT倍率は11月に入って以降、上昇基調となっており、グロース株が優位な流れになっている。日経平均が先行して上昇する流れは春先の株高局面でもみられた現象で、「適温」相場での海外勢の主導による一段高の再現を期待する声もある。
もっとも、春先とは取り巻く環境が異なってはいる。好業績を受けてEPS(1株当たり利益)は増加し、PER(株価収益率)は一時期に比べ低下した。ただ、足元のPERは14倍台後半と割高感はないものの、春先の13倍台に比べると割安感は薄い。
為替はドル/円が150円台前後の高水準を継続し、135円前後にあった春先に比べ、ここから円高に振れるリスクも強まっている。春先は米国や中国の景気懸念が強まり、日本株は消去法的に買われたが、足元の米景気はさほど減速しておらず、利上げが終了して景気が堅調となれば、マネーは米国に流れる可能性もある。
<環境の「変化」がカギに>
「春先には、割安な上に変化が感じられた日本株が選好された。変化を感じられるかが、今後の焦点になる」と、ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは指摘する。当時は賃上げや、東証による上場企業に対する株価や資本コストを意識した経営の要請に対する取り組みなどが新味のある材料として手掛かりになった。
目先の変化として注目されるのが、連続賃上げや、来年から始まる新NISAだ。
賃上げの流れが継続するかへの海外勢の関心は高い。連続賃上げとなれば脱デフレが意識され、値上げを通じた収益拡大への思惑や、現金の価値低下を通じて株式投資に資金が回るとの思惑につながり得る。
新NISAは、非課税保有期間の無期限化、口座開設期間の恒久化に加え、年間投資枠が拡大されることで利便性が向上し、約2000兆円の日本の家計金融資産の一角が、いよいよマーケットに本格的に流入し始めるのではないかと期待が寄せられている。
目先はバリュー株が相対的に弱いが、新NISAでは経験の浅い投資家の参入が見込まれ、高配当株を中心にバリュー株に資金が向かうとの見方もあり、相場の底上げにつながる可能性がある。
CLSA証券の釜井毅生エグゼキューション・サービス統括本部長は、新NISAの存在を海外勢はしっかり認識していると指摘する。「NISA資金の多くは海外株式に流れてしまうとの見方がある一方、個人投資家の裾野が拡大することは国内相場を支えると考えている投資家もいる」という。
国内勢は、個人投資家を中心に新NISAの非課税枠利用を待つ形となり、年内は動きにくくなるとの見方がある。一方、「制度と無関係な海外勢は新NISAによる資金流入を先取りして年内から動き出すかも知れない」と、ニッセイ基礎研の井出氏は指摘している。
(平田紀之 編集:橋本浩)