*13:24JST 窪田製薬HD Research Memo(4):「Kubota Glass」は顧客満足度向上への取り組みを推進(1)
■主要開発パイプラインの概要と進捗状況
1. ウェアラブル近視デバイス「クボタメガネ」
(1) 近視のメカニズムと市場規模
窪田製薬ホールディングス (TYO:4596)は、近視の進行を抑制または改善する効果が期待されるクボタメガネ・テクノロジーの開発に注力している。
近視の種類は屈折性近視、軸性近視、偽近視、核性近視などに区分されるが、その多くは軸性近視と呼ばれるもので、眼軸長が伸展することにより網膜が焦点の後ろに移動し、遠くが見えにくくなるメカニズムとなっている。
このため、眼軸長を短縮させられれば軸性近視は矯正できることになる。
現在は治療法がなく、屈折矯正(メガネ、コンタクトレンズ、屈折矯正手術)によって光の屈折を調整し、網膜に焦点を合わせることで視力矯正を行っている。
近視人口は生活様式の変化もあって世界的に増加傾向が続いており、最も身近な疾患と言われている。
同社資料によると、世界人口に占める近視の比率は2010年の約28%から、2050年には約50%(約47億人)に上昇するとの予測もある。
2020年以降は新型コロナウイルス感染症拡大(以下、コロナ禍)による在宅時間の増加やスマートフォン普及の影響などもあって、世界的に近視が流行しているとWHO(世界保健機関)が警告を発している。
特に、強度近視の人口は2050年に9.8%、約9.3億人まで増加すると予測されており、近視抑制は国際的な課題にもなっている。
特にアジア諸国では急速に近視人口が増加し、20歳以下の近視保有率は80%を超える国が続出しており、2050年にはアジア人における近視矯正に係る費用が年間450兆円に達するとの予測もある。
文部科学省が実施している「学校保健統計調査」によれば、学生で裸眼視力1.0未満の生徒の比率は年々増加傾向で、2022年は高校生で71.6%、中学生で61.2%と過半を占め、小学生でも37.9%と3人に1人以上の生徒が近視となっている。
近視が進行すると、将来的に緑内障や白内障など失明につながる重篤な疾患に罹患するリスクが正視に比べて2~5倍に上昇すると言われており、根治療法の開発が強く望まれている疾患でもある。
世界の近視用レンズ市場は、2021年の244億米ドルから2025年には273億米ドルに拡大するとの予測もある。
現在、メガネ型ARデバイスとして販売している「Kubota Glass」が、近視進行抑制効果のある医療用製品として認可されれば大きな需要が見込めることになり、今後の動向が注目される。
(2) クボタメガネ・テクノロジーの仕組み
クボタメガネテクノロジーとは、網膜にAR技術によって能動的に光刺激を与えて近視の進行抑制、治療を目指す同社独自のアクティブスティミュレーション技術である。
自然光のような広い波長と明るさを発光するマイクロLEDとミラーレンズを使ってMyopic defocusという周辺網膜より手前にピントを合わせた画像を投影することで眼軸長の伸展の抑制または短縮を促し、近視の進行を抑制する仕組みである。
既にヒトでの概念実証試験を行い、眼軸長の伸展を抑制する効果が確認※されている。
他社製品で子どもを対象とした臨床試験データはあるが、成人を対象とした試験を実施して効果を確認したのは、同社が初めてとなる。
※米国の眼科専門研究所にて、21~32歳の近視傾向のある被験者12名に対してクボタメガネ・テクノロジーを用いた試作機である卓上デバイスにて眼軸に与える影響を検証した結果、対象眼と比較して眼軸長の短縮効果が確認されたことを2020年5月に発表した。
また、18~35歳の25名の被験者を対象としたウェアラブルデバイスでも同様の効果が得られたことを同年8月に発表した。
2021年には台湾で医療機器の製造許可取得及び医療機器のデザイン・開発会社として「ISO13485:2016」の認証を取得したほか、2022年には米国でも医療機器の登録を完了しているものの、まずは国内でメガネ型ARデバイスとして販売し、製品の完成度を高めたうえで海外展開を進めていく。
また、同社はクボタメガネ・テクノロジーをベースに将来的にはスマートメガネやスマートコンタクトレンズ等に応用するなど、メガネのいらない世界の実現に向けた開発を推進する方針だ。
(3) 他社製品との比較
近視の進行を抑制するデバイスは各社が開発を進めており、既に医療デバイスとして米国や中国などで承認され販売が開始されている製品※1もある。
Myopic defocusを用いた製品としては、MiSightをはじめ複数あるが、いずれも受動的に光刺激を与えるもので、同社のようにAR技術を応用して能動的で効果的な光刺激を与えるデバイスとは一線を画している。
このため、装用時間は「クボタメガネ」が1日1~2時間で済むのに対して、他社製品は12~15時間とほぼ1日装用する必要がある。
短時間の使用で近視進行を抑制する効果が得られる点は、「クボタメガネ」の長所の1つと言える。
また、各社の臨床試験データを比較した場合、近視進行抑制率や眼軸伸長抑制率のデータにおいて「クボタメガネ」がトップクラスの値を示しており、有効性について他社製品より優れていることを示唆する臨床試験結果も出ている。
点眼薬やオルソケラトロジー※2といった治療法もあるが、副作用やリスクの大きさが難点で普及するには至っていない。
また、レーシックやICL(眼内コンタクトレンズ)といった外科手術も選択肢としてあるが、侵襲性が高いことが難点で眼軸長が伸びて視力が低下するリスクも残るため根治療法とは言えないだろう。
※1 米クーパービジョンのコンタクトレンズ「MiSight 1 day」が2019年に米国で初めて販売承認された。
※2 一般的なコンタクトレンズとは異なり、特殊なデザインの高酸素透過性コンタクトレンズを就寝中に装着する事により角膜の形状が正しく矯正され、日中を裸眼で過ごすことができる近視矯正方法のことで、2009年に日本でも承認された。
「クボタメガネ」の安全性については、眼光学機器の光放射の安全性を規定する国際標準化機構(ISO15004)の安全基準グループ1の規格を満たし、「潜在的な危険が存在しない」とされているほか、より高い安全性が求められるISO13485の小児用医療機器の認証も取得し担保されている。
効能・効果が表示できる医療機器として販売するためには有効性を確認する大規模な臨床試験が必要となるため、現状は野外環境を再現するAR機器として日本で販売しているが、近視を研究する医師や学者の間ではクボタメガネ・テクノロジーが理に適っていると一定の評価を受けており、研究も進んでいる。
2023年には新たに、台湾の中国医薬大学新竹附設医院と前向き介入試験のための共同研究契約を締結した。
近視の小児45例を対象に、低濃度アトロピン点眼薬0.01%投与群と「クボタメガネ」着用群のそれぞれの有効性、並びに併用療法による相乗効果の可能性を評価する試験となり(観察期間1年間)、研究結果が注目される。
「クボタメガネ」に関しては、低侵襲性と高い安全性が担保されていること、6歳から自身で着脱できる使い勝手の良さ、有効性の高さに加えて、他の近視治療とも併用して利用できることも特徴であり、近視進行抑制デバイスとして将来的に市場を開拓する可能性は十分あると弊社では見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
1. ウェアラブル近視デバイス「クボタメガネ」
(1) 近視のメカニズムと市場規模
窪田製薬ホールディングス (TYO:4596)は、近視の進行を抑制または改善する効果が期待されるクボタメガネ・テクノロジーの開発に注力している。
近視の種類は屈折性近視、軸性近視、偽近視、核性近視などに区分されるが、その多くは軸性近視と呼ばれるもので、眼軸長が伸展することにより網膜が焦点の後ろに移動し、遠くが見えにくくなるメカニズムとなっている。
このため、眼軸長を短縮させられれば軸性近視は矯正できることになる。
現在は治療法がなく、屈折矯正(メガネ、コンタクトレンズ、屈折矯正手術)によって光の屈折を調整し、網膜に焦点を合わせることで視力矯正を行っている。
近視人口は生活様式の変化もあって世界的に増加傾向が続いており、最も身近な疾患と言われている。
同社資料によると、世界人口に占める近視の比率は2010年の約28%から、2050年には約50%(約47億人)に上昇するとの予測もある。
2020年以降は新型コロナウイルス感染症拡大(以下、コロナ禍)による在宅時間の増加やスマートフォン普及の影響などもあって、世界的に近視が流行しているとWHO(世界保健機関)が警告を発している。
特に、強度近視の人口は2050年に9.8%、約9.3億人まで増加すると予測されており、近視抑制は国際的な課題にもなっている。
特にアジア諸国では急速に近視人口が増加し、20歳以下の近視保有率は80%を超える国が続出しており、2050年にはアジア人における近視矯正に係る費用が年間450兆円に達するとの予測もある。
文部科学省が実施している「学校保健統計調査」によれば、学生で裸眼視力1.0未満の生徒の比率は年々増加傾向で、2022年は高校生で71.6%、中学生で61.2%と過半を占め、小学生でも37.9%と3人に1人以上の生徒が近視となっている。
近視が進行すると、将来的に緑内障や白内障など失明につながる重篤な疾患に罹患するリスクが正視に比べて2~5倍に上昇すると言われており、根治療法の開発が強く望まれている疾患でもある。
世界の近視用レンズ市場は、2021年の244億米ドルから2025年には273億米ドルに拡大するとの予測もある。
現在、メガネ型ARデバイスとして販売している「Kubota Glass」が、近視進行抑制効果のある医療用製品として認可されれば大きな需要が見込めることになり、今後の動向が注目される。
(2) クボタメガネ・テクノロジーの仕組み
クボタメガネテクノロジーとは、網膜にAR技術によって能動的に光刺激を与えて近視の進行抑制、治療を目指す同社独自のアクティブスティミュレーション技術である。
自然光のような広い波長と明るさを発光するマイクロLEDとミラーレンズを使ってMyopic defocusという周辺網膜より手前にピントを合わせた画像を投影することで眼軸長の伸展の抑制または短縮を促し、近視の進行を抑制する仕組みである。
既にヒトでの概念実証試験を行い、眼軸長の伸展を抑制する効果が確認※されている。
他社製品で子どもを対象とした臨床試験データはあるが、成人を対象とした試験を実施して効果を確認したのは、同社が初めてとなる。
※米国の眼科専門研究所にて、21~32歳の近視傾向のある被験者12名に対してクボタメガネ・テクノロジーを用いた試作機である卓上デバイスにて眼軸に与える影響を検証した結果、対象眼と比較して眼軸長の短縮効果が確認されたことを2020年5月に発表した。
また、18~35歳の25名の被験者を対象としたウェアラブルデバイスでも同様の効果が得られたことを同年8月に発表した。
2021年には台湾で医療機器の製造許可取得及び医療機器のデザイン・開発会社として「ISO13485:2016」の認証を取得したほか、2022年には米国でも医療機器の登録を完了しているものの、まずは国内でメガネ型ARデバイスとして販売し、製品の完成度を高めたうえで海外展開を進めていく。
また、同社はクボタメガネ・テクノロジーをベースに将来的にはスマートメガネやスマートコンタクトレンズ等に応用するなど、メガネのいらない世界の実現に向けた開発を推進する方針だ。
(3) 他社製品との比較
近視の進行を抑制するデバイスは各社が開発を進めており、既に医療デバイスとして米国や中国などで承認され販売が開始されている製品※1もある。
Myopic defocusを用いた製品としては、MiSightをはじめ複数あるが、いずれも受動的に光刺激を与えるもので、同社のようにAR技術を応用して能動的で効果的な光刺激を与えるデバイスとは一線を画している。
このため、装用時間は「クボタメガネ」が1日1~2時間で済むのに対して、他社製品は12~15時間とほぼ1日装用する必要がある。
短時間の使用で近視進行を抑制する効果が得られる点は、「クボタメガネ」の長所の1つと言える。
また、各社の臨床試験データを比較した場合、近視進行抑制率や眼軸伸長抑制率のデータにおいて「クボタメガネ」がトップクラスの値を示しており、有効性について他社製品より優れていることを示唆する臨床試験結果も出ている。
点眼薬やオルソケラトロジー※2といった治療法もあるが、副作用やリスクの大きさが難点で普及するには至っていない。
また、レーシックやICL(眼内コンタクトレンズ)といった外科手術も選択肢としてあるが、侵襲性が高いことが難点で眼軸長が伸びて視力が低下するリスクも残るため根治療法とは言えないだろう。
※1 米クーパービジョンのコンタクトレンズ「MiSight 1 day」が2019年に米国で初めて販売承認された。
※2 一般的なコンタクトレンズとは異なり、特殊なデザインの高酸素透過性コンタクトレンズを就寝中に装着する事により角膜の形状が正しく矯正され、日中を裸眼で過ごすことができる近視矯正方法のことで、2009年に日本でも承認された。
「クボタメガネ」の安全性については、眼光学機器の光放射の安全性を規定する国際標準化機構(ISO15004)の安全基準グループ1の規格を満たし、「潜在的な危険が存在しない」とされているほか、より高い安全性が求められるISO13485の小児用医療機器の認証も取得し担保されている。
効能・効果が表示できる医療機器として販売するためには有効性を確認する大規模な臨床試験が必要となるため、現状は野外環境を再現するAR機器として日本で販売しているが、近視を研究する医師や学者の間ではクボタメガネ・テクノロジーが理に適っていると一定の評価を受けており、研究も進んでいる。
2023年には新たに、台湾の中国医薬大学新竹附設医院と前向き介入試験のための共同研究契約を締結した。
近視の小児45例を対象に、低濃度アトロピン点眼薬0.01%投与群と「クボタメガネ」着用群のそれぞれの有効性、並びに併用療法による相乗効果の可能性を評価する試験となり(観察期間1年間)、研究結果が注目される。
「クボタメガネ」に関しては、低侵襲性と高い安全性が担保されていること、6歳から自身で着脱できる使い勝手の良さ、有効性の高さに加えて、他の近視治療とも併用して利用できることも特徴であり、近視進行抑制デバイスとして将来的に市場を開拓する可能性は十分あると弊社では見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)