*16:23JST 中国半導体最前線PartIV 半導体微細化「ムーアの法則」破綻の先を狙う中国【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察をお届けする。
半導体の微細化に関して「半導体の性能が18ヵ月で2倍になる」という経験則「ムーアの法則」は実際上かなり前から破綻しているが、人々は「3nm、2nm…」と競い合っている。
ならば、「3nm、2nm…」の実態は何かと言えば、それは商品番号にすぎず、実際TSMCでも、たとえば「TSMC 3nm」チップとは言わずに、TSMC「3N」(※2)と、「こっそりと商品番号に置き換えている」ことに気が付かなければならない。
その意味では製造者側は、実は良心的に「ムーアの法則」の破綻を認識していると言っていいだろう。
多くの研究者は、物理学的には「3nm」辺りから事実上それ以上の微細化はできないとする「ムーアの法則」限界理論を10年以上前から展開はしている。
しかしビジネス界はわかっていながらも、互いに「騙し騙され」、「3nm、2nm…」を唱えてきたのである。
投資家に気付かれるのを避けるためだろう。
いま現在は、既に「ムーアの論理」は破綻していると見る専門家は多く、中国もその中の一例だ。
破綻すればどの関連企業も実際にはそれ以上先へは進めないので、「どん詰まり」のところで足踏みをすることになるだろう。
アメリカが全方位的に中国の半導体技術を潰そうとしても、西側が限界領域で足踏みしている間に中国もその限界領域にまで達し、その頃にはAIを含めた新産業において中国は一気にアメリカを追い抜くという「心づもり」で動いていることを、今回は考察したい。
◆「ムーアの法則」はなぜ破綻するのか?
「ムーアの法則」に関してはご存じの方が多いとは思うが、念のために書くと以下のような経緯で生まれたものである。
1965年、のちに(1968年に)アンディ・グローブ氏とともにインテル社を創業したゴードン・ムーア氏が大規模な集積回路(Integrated Circuit =IC、以後IC)の製造・生産に関して、IC当たりの部品数あるいは性能が毎年2倍になると予測し、その成長率があと10年は続くと予測したことから始まった。
10年後の1975年になると次の10年を見据えて「2年ごとに2倍になる」に修正し、さらに「1.5年ごとに2倍」とも予測して、それが維持されたことから「ムーアの法則」と呼ばれるようになった。
しかし、ICの微細化が進むにつれ、半導体チップの性能も驚異的に高まってはいったが、それにつれて「ムーアの法則」の破綻に関して数多くの論考が発表されるようになった。
身近なところで言うならば、たとえば、早くも2014年05月21日にはITmediaから(※10)の図表に示したように、AI開発では電気量において将来的には中国に優位性があると言えるのかもしれない。
その証拠に最近、Former Google CEO Eric Schmidt Says U.S. Trails China in AI Development | News | The Harvard Crimson(※11)にあるように、Googleのエリック・シュミット元CEOが、最近、中国の方がAIの開発が進んでいるという趣旨の観点を発信している。
同氏は、ハーバード政治研究所のフォーラムで、「より強力なAI開発競争でアメリカは中国に遅れをとっている」と述べたとのこと。
ハーバード・ケネディスクールの元学長、グラハム・T・アリソン氏(1962年卒)が司会を務めたこのイベントでのシュミット氏の発言は、昨年10月のIOPで「アメリカがAI開発で中国をリードしている」と述べた立場から逆転している。
講演の中でシュミット氏は、「アメリカのような優秀なエンジニア、強力なチップ、大規模なデータソースへのアクセスに加えて、中国はAIモデルのトレーニングに必要な電力をより多く持つことでも恩恵を受けている」と述べている。
これは筆者の「中国半導体PartIII」での独自分析が正しかったことを裏付けてくれて、ホッとしている。
ただ、日本としてはホッとしているわけにはいかないだろう。
少なからぬ日本人にとっては、見たくない不愉快な現実だろうとは思うが、この「中国半導体最前線シリーズ」で書いたことは、日本の真の発展あるいは政策の方向性にとっては、無視できない「現実」であることを認識していただきたいと切望する。
この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※12)より転載しました。
米アマゾンのラボAIチップ開発など研究(写真:ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/platform_HPC_tech_advancedTech
(※3)https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1405/21/news012.html
(※4)https://semicon.jeita.or.jp/STRJ/STRJ/2015/2015_08_Tokubetsu_v2.pdf
(※5)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/20b6ff18f1af61aecf56b53c1327ff989cb45bf6
(※6)https://grici.or.jp/5891
(※7)http://politics.people.com.cn/n1/2024/1205/c1001-40376144.html
(※8)https://www.semiconductors.org/
(※9)https://www.investors.com/news/technology/semiconductor-stocks-gear-makers-getting-china-boost/
(※10)https://grici.or.jp/5904
(※11)https://www.thecrimson.com/article/2024/11/19/eric-schmidt-china-ai-iop-forum/
(※12)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3445ed89b794463c97c011a2b1db2b52cb5fbde4
<CS>
半導体の微細化に関して「半導体の性能が18ヵ月で2倍になる」という経験則「ムーアの法則」は実際上かなり前から破綻しているが、人々は「3nm、2nm…」と競い合っている。
ならば、「3nm、2nm…」の実態は何かと言えば、それは商品番号にすぎず、実際TSMCでも、たとえば「TSMC 3nm」チップとは言わずに、TSMC「3N」(※2)と、「こっそりと商品番号に置き換えている」ことに気が付かなければならない。
その意味では製造者側は、実は良心的に「ムーアの法則」の破綻を認識していると言っていいだろう。
多くの研究者は、物理学的には「3nm」辺りから事実上それ以上の微細化はできないとする「ムーアの法則」限界理論を10年以上前から展開はしている。
しかしビジネス界はわかっていながらも、互いに「騙し騙され」、「3nm、2nm…」を唱えてきたのである。
投資家に気付かれるのを避けるためだろう。
いま現在は、既に「ムーアの論理」は破綻していると見る専門家は多く、中国もその中の一例だ。
破綻すればどの関連企業も実際にはそれ以上先へは進めないので、「どん詰まり」のところで足踏みをすることになるだろう。
アメリカが全方位的に中国の半導体技術を潰そうとしても、西側が限界領域で足踏みしている間に中国もその限界領域にまで達し、その頃にはAIを含めた新産業において中国は一気にアメリカを追い抜くという「心づもり」で動いていることを、今回は考察したい。
◆「ムーアの法則」はなぜ破綻するのか?
「ムーアの法則」に関してはご存じの方が多いとは思うが、念のために書くと以下のような経緯で生まれたものである。
1965年、のちに(1968年に)アンディ・グローブ氏とともにインテル社を創業したゴードン・ムーア氏が大規模な集積回路(Integrated Circuit =IC、以後IC)の製造・生産に関して、IC当たりの部品数あるいは性能が毎年2倍になると予測し、その成長率があと10年は続くと予測したことから始まった。
10年後の1975年になると次の10年を見据えて「2年ごとに2倍になる」に修正し、さらに「1.5年ごとに2倍」とも予測して、それが維持されたことから「ムーアの法則」と呼ばれるようになった。
しかし、ICの微細化が進むにつれ、半導体チップの性能も驚異的に高まってはいったが、それにつれて「ムーアの法則」の破綻に関して数多くの論考が発表されるようになった。
身近なところで言うならば、たとえば、早くも2014年05月21日にはITmediaから(※10)の図表に示したように、AI開発では電気量において将来的には中国に優位性があると言えるのかもしれない。
その証拠に最近、Former Google CEO Eric Schmidt Says U.S. Trails China in AI Development | News | The Harvard Crimson(※11)にあるように、Googleのエリック・シュミット元CEOが、最近、中国の方がAIの開発が進んでいるという趣旨の観点を発信している。
同氏は、ハーバード政治研究所のフォーラムで、「より強力なAI開発競争でアメリカは中国に遅れをとっている」と述べたとのこと。
ハーバード・ケネディスクールの元学長、グラハム・T・アリソン氏(1962年卒)が司会を務めたこのイベントでのシュミット氏の発言は、昨年10月のIOPで「アメリカがAI開発で中国をリードしている」と述べた立場から逆転している。
講演の中でシュミット氏は、「アメリカのような優秀なエンジニア、強力なチップ、大規模なデータソースへのアクセスに加えて、中国はAIモデルのトレーニングに必要な電力をより多く持つことでも恩恵を受けている」と述べている。
これは筆者の「中国半導体PartIII」での独自分析が正しかったことを裏付けてくれて、ホッとしている。
ただ、日本としてはホッとしているわけにはいかないだろう。
少なからぬ日本人にとっては、見たくない不愉快な現実だろうとは思うが、この「中国半導体最前線シリーズ」で書いたことは、日本の真の発展あるいは政策の方向性にとっては、無視できない「現実」であることを認識していただきたいと切望する。
この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※12)より転載しました。
米アマゾンのラボAIチップ開発など研究(写真:ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.tsmc.com/english/dedicatedFoundry/technology/platform_HPC_tech_advancedTech
(※3)https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1405/21/news012.html
(※4)https://semicon.jeita.or.jp/STRJ/STRJ/2015/2015_08_Tokubetsu_v2.pdf
(※5)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/20b6ff18f1af61aecf56b53c1327ff989cb45bf6
(※6)https://grici.or.jp/5891
(※7)http://politics.people.com.cn/n1/2024/1205/c1001-40376144.html
(※8)https://www.semiconductors.org/
(※9)https://www.investors.com/news/technology/semiconductor-stocks-gear-makers-getting-china-boost/
(※10)https://grici.or.jp/5904
(※11)https://www.thecrimson.com/article/2024/11/19/eric-schmidt-china-ai-iop-forum/
(※12)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3445ed89b794463c97c011a2b1db2b52cb5fbde4
<CS>