〇米国の方向感欠き、対ロ交渉が重要に〇
11日の米市場は、NYダウが200ドル安、ドルが7ヵ月ぶり高値、米国債利回りは4ヵ月ぶりの高水準となった。
一応、インフレ加速懸念、12月利上げ対応の動き、低調な企業決算のスタートなどと解説されているが、各市場で説明が異なるので、「投資家が神経質になり、大量の売りが出ている」(ブルームバーグ)とされる。
解説には出て来ないが、大統領選でトランプ氏の失速感が強まっているものの、さりとて「クリントン大統領」になったとしても、ビジョンが明確な訳ではない。
むしろ、トランプ氏やサンダース氏の主張に引き摺られている面があり、大統領選後を描けないことが背景にあるように見える。
軸となる米国債利回り(10年物)で、先週、米GS、JPモルガンなどが「年内に3月以来となる2%台に乗せる可能性がある」と相次ぎ見通しを出したことで、様々なポジション調整が発生していると考えられる。
金融緩和終焉観測を背景に、世界的に債券が売られているが、12月利上げ攻防を控える米国での利回り上昇は避けられないとの見方が強まる。
11日は1.7673%に上昇した(5日時点は1.68%)。
トランプ失速→メキシコ・ペソの反騰などの要因もあり、ドルは巻き戻し的に主要通貨に対して上昇している。
その分、円高懸念は和らごう。
ただし、14日期限でMMFが規制強化となり、短期資金への急速なシフトが起こっている可能性には注意が要る。
米国の方向性の喪失は、日本も影響を受ける。
クリントン氏のTPP反対などは見極めに時間が掛かるとしても、安全保障問題などは影響が出易いリスクがある。
安倍首相は12月15日頃にプーチン露大統領を山口県に招き、対ロ交渉の大きなヤマ場をセットしている。
米国の混迷ぶりを見ると、日ロ接近に反対を唱える声は少なく、進展期待が日本株を支える構図になると考えられる。
乱舞気味のマスコミ報道では、「北方領土、2島返還が最低限、対ロ交渉で条件」(9/23読売)、「四島返還、2段階論浮上、国後・択捉先送りも」(10/9時事)など、「2島先行返還」論が中心だ。
「北方領土、自由往来を検討」(10/8読売)など、新方式の模索も盛んだ。
「2島返還」でも画期的とする見方がある一方、経済・社会的なインパクトは小さいと、あくまでも4島一括返還に拘るべきとの意見が交錯する。
株式市場にとってはサプライズ感のある「国後島の処遇」が分岐点になると考えられる。
北方領土交渉とセットの経済協力、投資拡大は連日のようにニュースになっているが、12月に民間企業交流の会合が予定されており、順調にいけば具体的な計画が相次ごう。
エネルギー関連、農林水産業、医療分野が中心と見られる。
8日、共同通信は対ロ経済協力の政府案が1兆円を超える規模と伝えた。
41件のプロジェクトが含まれると言う。
昨日、第二次補正予算が成立したが、これに関連し、早くも第三次補正の見方が浮上しているようだ。
当面、米国市場を睨みつつも、対ロ交渉の行方に関心を高めることになろう。
以上
出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(16/10/12号)