■アンジェス (T:4563)の主要開発パイプラインの動向2. NF-κBデコイオリゴNF-κBデコイオリゴは、人工核酸により遺伝子の働きを制御する「核酸医薬」の一種で、生体内で免疫・炎症反応を担う「転写因子NF-κB」に対する特異的な阻害剤となる。
主にNF-κBの活性化による過剰な免疫・炎症反応を原因とする疾患の治療薬として、研究開発を進めている。
(1) 椎間板性腰痛症(注射投与)椎間板性腰痛症の患部に注射投与することによって、慢性腰痛に対する鎮痛効果とともに、椎間板変性に対する進行抑制や修復を促す効果が期待される。
新タイプの腰痛治療薬として2018年2月より米国で第1b相臨床試験を開始している。
予定症例数は24例で、椎間板性腰痛症患者を対象としたプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験となる。
投与後12ヶ月間の経過観察を行い、安全性及び有効性(痛みの緩和など)を確認する治験デザインで、カリフォルニア州立大学サンディエゴ校を中心に複数の医療施設で実施されている。
当初の計画より若干遅れがあるものの、特段の支障もなく被験者の登録が進んでいる。
治験期間としては24例目の投与が開始されてから12ヶ月後となるため、終了時期は早くても2021年以降となる見通しだ。
同試験によってPOCを取得できれば、ライセンスアウト交渉を進めていく方針となっている。
椎間板性腰痛症は慢性的な腰痛疾患で、特に中高年層を中心に患者数は多い。
米国では治療法として椎間板内注射が一般的であり、手技に習熟している医師も多いため、NF-κBデコイオリゴの導入が進む環境は整っていると同社は考えており、今後の開発動向が注目される。
(2) 次世代型「キメラデコイ」同社は2016年7月に次世代型「キメラデコイ」の基盤技術の開発を完了し、製品開発を進めている。
従来のNF-κBデコイオリゴと比較して、「STAT6」と「NF-κB」という炎症に関わる2つの重要な転写因子を同時に抑制する働きを持つため、炎症抑制効果も格段に高まることが期待される。
実際、動物実験ではNF-κBデコイオリゴに比べ強い炎症抑制効果を持つことが確認されている※。
また、次世代型「キメラデコイ」は生体内での安定性に優れ、NF-κBデコイオリゴよりも分子量が3~4割少ないため、生産コストも低く抑えることが可能になるといった長所を持っている。
※核酸医薬の専門誌であるMolecular Therapy-Nucleic Acids(2018年3月発行)に、マウスを使った動物実験での研究論文が掲載された。
キメラデコイを気管内に投与した結果、喘息の原因である炎症を引き起こす生体内物質の増加を抑え、気管内の炎症を抑制する効果が確認されたこと等が報告されている。
同社は具体的な対象疾患として、喘息、慢性関節リウマチ、変形性関節症、クローン病(炎症性腸疾患)などの炎症性疾患を想定している。
既に開発が進行中の椎間板性腰痛症については既存のNF-κBデコイオリゴで開発を継続するが、今後新たに開発するものに関しては、基本的に「キメラデコイ」で進めていくことになる。
現在は製品の完成度を高めている段階にあり、前臨床試験の開始時期は未定となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)