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アングル:サウジが砂漠に未来都市、データ収集で「監視」懸念

発行済 2022-08-28 07:42
更新済 2022-08-28 07:46
© Reuters.  8月23日、サウジアラビア北西部の砂漠地帯で今、数千人の労働者が未来都市の建設に携わっている。都市中心部を貫くのは、「ザ・ライン」と呼ばれる直線形のスマートシティー。画

[23日 トムソン・ロイター財団] - サウジアラビア北西部の砂漠地帯で今、数千人の労働者が未来都市の建設に携わっている。都市中心部を貫くのは、「ザ・ライン」と呼ばれる直線形のスマートシティー。炭素を排出せず、タクシーは空を飛び、教師はホログラフィー、そしてなんと人工の月まで浮かべるという構想だ。

石油大国サウジの経済多角化を目指し、ムハンマド皇太子の肝入りで開発が進む産業都市「NEOM」の中に、ザ・ラインは出現する。NEOMは総工費5000億ドルで、完工予定は2025年。

ザ・ラインは住居と事務所を垂直に積み重ねた特異な構造の都市になる。都市は住人900万人のデータを解析するが、データの使用方法についての住民の権利は強化され、世界初の試みとしてデータの対価も支払われるとプロジェクトの幹部は言う。

この「同意管理プラットフォーム」と呼ばれるシステムを管轄するNEOMテック&デジタルのジョゼフ・ブラッドリー最高経営責任者(CEO)は「信頼が無ければデータは得られない。データが無ければ価値は生まれない」と語った。

「この技術により、ユーザーは個人情報使用の意図を簡単に検証、理解することができる。データの利用を認めれば金銭的対価も支払われる」という。

ザ・ラインは人工知能(AI)が中心となって設計した都市で、多くのスマートシティーと同様、データは電力、水道、ゴミ、交通、医療、治安などの管理に利用される。

住民のスマートフォンや住居、顔認証カメラ、その他多くのセンサーを通じてデータは収集され、その情報は都市に送られてユーザーのニーズの予想に役立てられるとブラッドリー氏は説明する。

もっとも、これまで人権保護をおろそかにしてきたサウジだけに、責任を持ってデータを利用する、あるいは個人のプライバシーを守ることは望み薄だと専門家は言う。

テクノロジーによる社会への影響を研究するビンセント・モスコ氏は「監視について懸念が持たれるのも無理はない。これは事実上の監視都市だ」と指摘する。

ロイターはサウジ通信・情報技術省にコメントを求めたが、回答を得られていない。

<プライバシーの値段>

日常生活のすべての面でデジタル化が進む中、個人情報の所有権、使用法、価値について懸念が広がっている。

データの権利の専門家やエコノミスト、議員の一部は、データの対価を払うことを提案している。

だが対価を払う場合の金額を巡っては、専門家の意見は分かれている。また、データに値段を付けると、人によって個人情報の価値が異なって二層化し、「デジタルデバイド」によって生じた格差をさらに強固にしかねない、との声もある。

デジタル権利組織、アクセス・ナウのマルワ・ファタフタ氏は、情報利用への同意を得るプラットフォームは「個人情報を守るデータ保護規制の代わりにはならない」と批判。「プライバシーを巡る惨劇が待ち受けているようだ。金銭的なインセンティブを付けるなどもってのほかだ。人々が自由に同意する権利をゆがめ、営利目的で個人情報を売る慣行を常態化してしまう」と語る。

サウジは個人データ保護法を導入しており、ブラッドリー氏は、NEOM幹部らがプライバシーを巡る懸念に手を打っていると話す。

サウジの港町ジッダに住むエンジニアのファハド・モハメドさん(28)は、ザ・ラインに住むならデータ提供に同意すると言う。「私のデータは、既にソーシャルメディアのプラットフォームや配車アプリなどに利用されている。料金が支払われるのだから、(NEOMの)システムの方が良い」と語る。

<監視への懸念>

デジタル化の拡大に伴い、監視とプライバシーに関する懸念も強まっている。

NEOMの同意管理プラットフォームの利用者は、共有する個人データの種類やデータにアクセスできる主体を選び、データの使用方法を監視し、いつでもプラットフォームから抜けることができると、ブラッドリー氏は言う。

またデータが同意なしに使われたり、疑わしい活動があったりすると、システムがユーザーに警報を発するという。

しかしドバイに住むマーケティング専門家のファイサル・アルアリさん(33)は納得しない。「自分の望む範囲だけで、自分が選んだ第3者やサービスの間だけでデータが使われると、どうして信じられるだろう。他の理由で使われないという保証があるだろうか。100%信頼できるわけではない」と切り捨てた。

<人とのふれあい>

ザ・ラインを巡る懸念は、監視の問題だけではない。世界のスマートシティーの一部では、人とのふれあいを奪われて孤立を感じるという不満も出ている。

例えば韓国のスマートシティー、松島国際都市は、最先端の機能が整っているにもかかわらず人口が少ないままだ。スマホの操作で家の照明をコントロールできたり、捨てたゴミが管を通じて直ちに地下の仕分け設備に送られるといった便利さの代償として、人とのつながりがないからだとアインシャムス大学(カイロ)のサミア・ケドル社会学教授は説明する。

© Reuters.  8月23日、サウジアラビア北西部の砂漠地帯で今、数千人の労働者が未来都市の建設に携わっている。都市中心部を貫くのは、「ザ・ライン」と呼ばれる直線形のスマートシティー。画像は「ザ・ライン」のイメージ図。(2022年 ロイター/NEOM Tech & Digital Holding Co/Thomson Reuters Foundation)

「人とのつながりは重要な社会インフラだ。複雑なデータインフラは通常、都市生活で何より重要な社会的、文化的ニーズに応えられない」とケドル氏は語った。

サウジにも、これに同意する人がいるようだ。ファハド・アルゴファイリさんはツイッターで「NEOMに費やしている数十億ドルを、国の他の地域に実在する都市の向上に使った方が良くないか?」と疑問を投げかけた。

(Menna A. Farouk記者)

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