■中期経営計画『Dash 1000』とその進捗
3. 自社電源確保の進捗状況
(1) 佐伯発電所の商業運転開始
イーレックス (T:9517)は電源について、自社発電、IPPからの購入及びJEPXからの購入の3ルートで確保している。
PPSとして持続的成長を実現するには、自社電源の確保は不可欠だ。
2017年3月期はこの点でも大きな進展があった。
2016年11月の佐伯発電所の商業運転開始だ。
既存の土佐発電所(組織上は100%子会社のイーレックスニューエナジー(株))に続く2番目の自社発電所となる。
佐伯発電所の運営主体はイーレックスニューエナジー佐伯(株)で、同社は70%を出資している(残りは東芝 (T:6502)のグループ会社20%、東燃ゼネラル石油 (T:5012)10%)。
発電所は太平洋セメント佐伯プラント内にあり、PKSを主燃料とする、土佐発電所と同じ循環流動層タイプのバイオマス発電所だ。
定格出力は50MWで土佐発電所の20MWの2.5倍の出力となっている。
土佐発電所と同タイプであるため、土佐発電所で蓄積した運転技術と燃料調達ノウハウを生かして、運転開始直後からフル稼働で安定操業ができているもようだ。
発電された電力は全量を同社が引き取り販売している。
(2) 次期発電所建設計画の概要
佐伯発電所で商業運転がスタートした直後ではあるが、同社は次の自社電源確保策に取り組んでいる。
目下進行中の発電プロジェクトは、岩手県大船渡市の“大船渡プロジェクト”と、福岡県豊前市の“豊前プロジェクト”だ。
いずれも75MWクラスのバイオマス発電所だ。
a) 大船渡プロジェクト
2016年7月29日に大船渡での発電所建設が正式に発表された。
内容は、同社が太平洋セメント (T:5233)と共同出資で大船渡発電(株)(資本金40億円、出資比率は同社35%、太平洋セメント65%)を設立し、太平洋セメントの大船渡工場敷地内に発電出力75MW規模のバイオマス発電設備を建設するというものだ。
発電設備は土佐、佐伯両発電所と同じ循環流動層タイプで、バイオマス90%、石炭10%の燃料比率も同じとなっている。
バイオマス燃料の種類は、PKSに加えてEFB(パーム空果房)の使用も予定している。
EFBは太平洋セメントがサラヤ(株)やタイの企業と共同で発電燃料化に成功したものだ。
2017年3月期下期に着工し、2019年秋の完成予定だ。
発電された電力は全量を同社が引き取り、外部に販売していく計画だ。
b) 豊前プロジェクト
2016年11月10日には豊前市でのバイオマス発電所について発表された。
同社が2016年10月に設立した豊前ニューエナジー(合)に九電みらいエナジー(株)と九電工 (T:1959)が出資し、3社共同で国内最大級のバイオマス発電事業を行うというものだ。
出資比率は同社が65%、九電みらいエナジーが27%、九電工が8%と予定されている。
設備は豊前バイオマス発電所の名称で、九州高圧コンクリート工業(株)の敷地内に建設される。
PKSと木質ペレットを燃料とするバイオマス発電設備で、発電出力は75MW、年間発電量は約500,000MWhとされている。
これはバイオマス発電所としては国内最大級の規模となる。
2017年3月の着工予定で2019年10月の営業運転開始を目指している。
発電された電力は全量を九州電力 (T:9508)に販売することになる。
同社は2019年稼働予定の大船渡・豊前両発電所に加え、さらに2つの発電所プロジェクトを計画している。
今第3四半期における進捗は、沖縄が建設候補地の1つとして明確になったことだ。
これは販売戦略のところで述べた沖縄における小売事業の開始と密接につながっていると言える。
沖縄は本土と電力ケーブルが接続していないという特殊事情があることも背景にあるとみられるが、一方で沖縄の経済規模からみて新設発電所の電力をどのように消化していく予定なのか注目される。
もう1つは“A地点”とだけ公表されていてそれ以外の詳細は不明のままだ。
規模と発電方式は既発表のプロジェクトと同じものが計画されており、オペレーション上のリスク低減には寄与するとみられる。
今後の詳細発表を待ちたい。
(3) 資金調達の状況
同社が計画するバイオマス発電所はいずれも国内最大規模の大型設備であるため、1件当たりの設備投資額は200億円~300億円に達するとみられる。
同社の企業規模に照らすと大きな負担であるのは疑いなく、投資家、株主の視点からも資金調達が大きな注目点となる。
前述のように同社は2016年完成の佐伯発電所に続き、現在、大船渡と豊前の2つのプロジェクトを進めているが、結論から言えば、この2つのプロジェクトに対する資金手当ては終了している。
その大まかなスキームは以下のとおりだ。
同社は2016年3月に公募増資を行い、約30億円を調達した。
この資金は佐伯発電所を運営するイーレックスニューエナジー佐伯への投融資資金として活用され、当該子会社は借入金の返済に充当した。
これによって同社自身は銀行から60億円の新たな融資枠(コミットメントライン)を獲得した。
この60億円を活用し、大船渡・豊前両プロジェクトの運営会社の資本金に出資した。
両プロジェクトのうち大船渡プロジェクトについては、同社はマイナー持分であり、資本金の出資をもって資金調達面での負担は終了した形となっている。
今後の大船渡発電(株)(2016年8月5日設立)の運営資金の調達は、太平洋セメントが中心となって行うことになる。
一方、豊前プロジェクトは同社が主体的に資金調達を行うことになる。
これについて同社は、かねてよりプロジェクトファイナンスの活用を計画していたが、2017年1月にプロジェクトファイナンスにかかる270.5億円のシンジケートローンの組成が完了し、豊前プロジェクトの所要資金の調達を終えた。
今後、沖縄と“A地点”の2つの発電プロジェクトが具体化してくれば資金調達の問題が再びクローズアップされてくると予想されるが、当面、資金調達問題は市場の関心の中心からは外れたと言ってよいだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
3. 自社電源確保の進捗状況
(1) 佐伯発電所の商業運転開始
イーレックス (T:9517)は電源について、自社発電、IPPからの購入及びJEPXからの購入の3ルートで確保している。
PPSとして持続的成長を実現するには、自社電源の確保は不可欠だ。
2017年3月期はこの点でも大きな進展があった。
2016年11月の佐伯発電所の商業運転開始だ。
既存の土佐発電所(組織上は100%子会社のイーレックスニューエナジー(株))に続く2番目の自社発電所となる。
佐伯発電所の運営主体はイーレックスニューエナジー佐伯(株)で、同社は70%を出資している(残りは東芝 (T:6502)のグループ会社20%、東燃ゼネラル石油 (T:5012)10%)。
発電所は太平洋セメント佐伯プラント内にあり、PKSを主燃料とする、土佐発電所と同じ循環流動層タイプのバイオマス発電所だ。
定格出力は50MWで土佐発電所の20MWの2.5倍の出力となっている。
土佐発電所と同タイプであるため、土佐発電所で蓄積した運転技術と燃料調達ノウハウを生かして、運転開始直後からフル稼働で安定操業ができているもようだ。
発電された電力は全量を同社が引き取り販売している。
(2) 次期発電所建設計画の概要
佐伯発電所で商業運転がスタートした直後ではあるが、同社は次の自社電源確保策に取り組んでいる。
目下進行中の発電プロジェクトは、岩手県大船渡市の“大船渡プロジェクト”と、福岡県豊前市の“豊前プロジェクト”だ。
いずれも75MWクラスのバイオマス発電所だ。
a) 大船渡プロジェクト
2016年7月29日に大船渡での発電所建設が正式に発表された。
内容は、同社が太平洋セメント (T:5233)と共同出資で大船渡発電(株)(資本金40億円、出資比率は同社35%、太平洋セメント65%)を設立し、太平洋セメントの大船渡工場敷地内に発電出力75MW規模のバイオマス発電設備を建設するというものだ。
発電設備は土佐、佐伯両発電所と同じ循環流動層タイプで、バイオマス90%、石炭10%の燃料比率も同じとなっている。
バイオマス燃料の種類は、PKSに加えてEFB(パーム空果房)の使用も予定している。
EFBは太平洋セメントがサラヤ(株)やタイの企業と共同で発電燃料化に成功したものだ。
2017年3月期下期に着工し、2019年秋の完成予定だ。
発電された電力は全量を同社が引き取り、外部に販売していく計画だ。
b) 豊前プロジェクト
2016年11月10日には豊前市でのバイオマス発電所について発表された。
同社が2016年10月に設立した豊前ニューエナジー(合)に九電みらいエナジー(株)と九電工 (T:1959)が出資し、3社共同で国内最大級のバイオマス発電事業を行うというものだ。
出資比率は同社が65%、九電みらいエナジーが27%、九電工が8%と予定されている。
設備は豊前バイオマス発電所の名称で、九州高圧コンクリート工業(株)の敷地内に建設される。
PKSと木質ペレットを燃料とするバイオマス発電設備で、発電出力は75MW、年間発電量は約500,000MWhとされている。
これはバイオマス発電所としては国内最大級の規模となる。
2017年3月の着工予定で2019年10月の営業運転開始を目指している。
発電された電力は全量を九州電力 (T:9508)に販売することになる。
同社は2019年稼働予定の大船渡・豊前両発電所に加え、さらに2つの発電所プロジェクトを計画している。
今第3四半期における進捗は、沖縄が建設候補地の1つとして明確になったことだ。
これは販売戦略のところで述べた沖縄における小売事業の開始と密接につながっていると言える。
沖縄は本土と電力ケーブルが接続していないという特殊事情があることも背景にあるとみられるが、一方で沖縄の経済規模からみて新設発電所の電力をどのように消化していく予定なのか注目される。
もう1つは“A地点”とだけ公表されていてそれ以外の詳細は不明のままだ。
規模と発電方式は既発表のプロジェクトと同じものが計画されており、オペレーション上のリスク低減には寄与するとみられる。
今後の詳細発表を待ちたい。
(3) 資金調達の状況
同社が計画するバイオマス発電所はいずれも国内最大規模の大型設備であるため、1件当たりの設備投資額は200億円~300億円に達するとみられる。
同社の企業規模に照らすと大きな負担であるのは疑いなく、投資家、株主の視点からも資金調達が大きな注目点となる。
前述のように同社は2016年完成の佐伯発電所に続き、現在、大船渡と豊前の2つのプロジェクトを進めているが、結論から言えば、この2つのプロジェクトに対する資金手当ては終了している。
その大まかなスキームは以下のとおりだ。
同社は2016年3月に公募増資を行い、約30億円を調達した。
この資金は佐伯発電所を運営するイーレックスニューエナジー佐伯への投融資資金として活用され、当該子会社は借入金の返済に充当した。
これによって同社自身は銀行から60億円の新たな融資枠(コミットメントライン)を獲得した。
この60億円を活用し、大船渡・豊前両プロジェクトの運営会社の資本金に出資した。
両プロジェクトのうち大船渡プロジェクトについては、同社はマイナー持分であり、資本金の出資をもって資金調達面での負担は終了した形となっている。
今後の大船渡発電(株)(2016年8月5日設立)の運営資金の調達は、太平洋セメントが中心となって行うことになる。
一方、豊前プロジェクトは同社が主体的に資金調達を行うことになる。
これについて同社は、かねてよりプロジェクトファイナンスの活用を計画していたが、2017年1月にプロジェクトファイナンスにかかる270.5億円のシンジケートローンの組成が完了し、豊前プロジェクトの所要資金の調達を終えた。
今後、沖縄と“A地点”の2つの発電プロジェクトが具体化してくれば資金調達の問題が再びクローズアップされてくると予想されるが、当面、資金調達問題は市場の関心の中心からは外れたと言ってよいだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)