[東京 15日 ロイター] - ヤフーとLINEの経営統合構想は、電子商取引(EC)で先行する楽天に肩を並べる規模に経済圏を拡大する側面がある一方、楽天の携帯電話市場参入で生じ得る波乱への備えともなりそうだ。ファンドが苦境にあるソフトバンクグループ (T:9984)にとって、安定的な収益を生み出している携帯事業への貢献も大きなポイントとなる。
<EC、ポイント会員数で並ぶ>
ヤフーとLINEの統合では、ソフトバンク (T:9434)と韓国のネイバー (KS:035420)が設立する共同出資会社がZホールディングス(ZHD) (T:4689)の親会社となり、ZHDの傘下にヤフーとLINEを置く案を軸に協議が進められている。
実現すれば、単純合算で売上高1兆1600億円、ポイント会員数1億1000万人となり、EC(電子商取引)で先行する楽天の1兆1000億円、1億人超とそれぞれ肩を並べる経済圏が生まれる。
<通信での顧客囲い込みも可能>
もう一つ見逃せない側面が、携帯電話事業への貢献だ。「他の通信会社のユーザーに手が届く大きなプラットフォームを持てれば、通信サービスに顧客を呼び込むことも可能」とUBS証券の高橋圭アナリストは指摘する。
携帯電話ビジネスは、総務省による10月以降の新ルールや、来春にも見込まれる楽天の携帯事業への本格参入で「ゲームのルール」が変わってきている。
総務省の新ルールでは、過度な囲い込みを是正するなどして競争を促す。通信業界では政府主導の値下げ圧力への警戒感は根強く、通信ビジネス以外で利益を出す必要性が増している。
ソフトバンク以外にドコモやKDDIも、コンテンツや金融・決済、ECなどのサービスを提供している。携帯電話利用者の利便性を高めたり、各サービスの顧客基盤を携帯電話利用者の獲得につなげる狙いがあるが、後発分野なだけに成長の途上といえる。
<楽天の脅威>
一方、楽天は、もともとECビジネスを基盤としており、すでに大規模な経済圏を持っている。MMD総研の調べによると、集客に貢献すると見られるポイントサービスの面で、楽天スーパーポイントは通信大手6サービス利用者が最もよく使うサービスの1位。金融市場では「楽天がポイント優遇などグループの経済圏と関連付けて集客を進めるのではないか」(証券アナリスト)と見られている。
さらに楽天の三木谷浩史会長兼社長は「他社が真似できない料金」を打ち出すと述べ、価格競争を仕掛ける構えだ。ネットワークの構築で低コストな仮想化技術を用いており、3キャリアに対し、価格競争での勝算を見込む。
ソフトバンクグループにとって、携帯電話事業の2019年3月期の営業利益は7250億円。ファンド事業の浮き沈みが激しい中にあって、安定的な資金の供給源として重要な存在となっている。S&Pグローバル・レーティング・ジャパンの西川弘之氏は「キャッシュフローを生む投資先である携帯子会社のキャッシュ創出力が下がるとすれば、グループの信用力にとっていいことではない」と指摘している。
ヤフーとLINEの統合が携帯電話事業にどれほどシナジーを生じるかにも、関心が寄せられそうだ。
(編集:石田仁志)