[ワシントン 20日 ロイター] - 米司法省と11州は20日、ついにアルファベット (O:GOOGL)子会社グーグルを独占禁止法(反トラスト法)違反で首都ワシントンの連邦地裁に提訴した。米政府による重大な独禁法訴訟としては20年余り前、マイクロソフト (O:MSFT)に対して起こして以来の重要な意味を持つ案件だ。だが専門家は、これでIT業界に大きな変革が起きると期待しても、裏切られる公算が大きいと警告している。
専門家の見立てでは、今回の訴訟は業界にとって「地震」ではなく、さざ波程度にすぎない。うまく審理に持ち込めて司法省が勝訴しても、そうなるとの保証もないが、グーグルが人々の生活に果たす役割はわずかしか変化せず、そうなるのも何年もかかるだろうという。
ニューヨーク大学法科大学院のエレノア・フォックス教授は「『終わりの始まり』と受け止めるべきではない。一部の人が考えるグーグルの問題点の中核部分にはたどり着かない」と指摘する。
グーグルやアマゾン (O:AMZN)、フェイスブック (O:FB)といった巨大IT企業は、あまりに強大な力を持ち、その優越的な地位を一貫して乱用しているとの批判を長らく浴び続けている。ところが過去の例を見ると、巨大IT企業の制御を目指す公権力の取り組みはいかに困難かが証明されている。
欧州では、欧州連合(EU)規制当局はグーグルに対して、過去10年間で3件の独禁法違反訴訟を提起し、80億ユーロ(約1兆円)超の罰金支払いを命じてきた。同社の比較ショッピングサービスや、携帯端末向け基本ソフト(OS)「アンドロイド」や広告プラットフォームを巡る不服申し立てに基づいた動きだった。
コペンハーゲン大学のクリスチャン・ベルクビスト教授は、巨大IT企業に対し米国より懐疑的だったEUの姿勢を米政府も遅ればせながら採用したとして、今回の訴訟を評価。それでも、欧州の対応事例がもたらしたのは苦い教訓だと認める。
先月公表されたある調査結果で、グーグルの欧州でのライバル勢に助言しているある研究者が、同社の比較ショッピングサービスは今なおEUルールに抵触していると主張しているからだ。
グーグルはこうしたEUルールの違反を否定。しかし、いずれにせよ、多額の罰金を科したにもかかわらず、欧州の市場競争には限られた影響しか及ぼせていないことは明らかだ。欧州市場では現状でもグーグルのブラウザ(閲覧ソフト)「クローム」のシェアは米国よりも大きいし、アンドロイドの優位もそのまま続いている。
米政府による過去の巨大IT企業に対する独禁法違反訴訟も、全面的に成果を挙げたわけではない。マイクロソフトは1990年代の政府との対決におおむね勝利した。ただ多くの業界アナリストによると、2000年代に入って同社が問題を抱えた一因は、独占禁止問題に対する圧力や、これに対応する時間を割く必要があったことだという。
また米政府は1980年代にIBM (N:IBM)と争い、最終的に訴訟を取り下げた。対照的なのは1984年のAT&T解体につながった訴訟で、これにより米通信事業の構造が抜本的に変わり、消費者や企業に恩恵が幅広く行き渡った。
<地殻変動は望み薄>
巨大IT企業に罰金を科し、後は放置する方法が功を奏さないことから、一部ではAT&Tのような解体・分割を解決策として推進する意見も出ている。
司法省高官のライアン・ショアーズ氏は20日の電話会見で、巨大IT企業に対して具体的にどう対応するのか聞かれると「排除すべき措置はない」と語り、解体を否定しなかった。それでも専門家は、米政府が解体まで踏み込むか、何らの解決策が実効性を持つかに懐疑的だ。
コペンハーゲン大のベルクビスト氏は「解体すべき問題がどこにあるのか。全部無料で使えるのに」と問い掛ける。同氏によると、グーグルのサービスは「金のなる木」の広告部門を守るため、幾つもの赤字事業を配置することで成立している。これらの赤字事業、例えばユーチューブやクロームなどを競争相手が取得して単独で展開しても、存続するのは困難だという。
思い切った分割ができなくても、米政府が勝訴すれば、あるいは和解の場合もあるが、グーグルの検索機能の修正にはつながる可能性が高いと専門家はみる。しかしそれでは、大半の人が気づくほどの変化にはならないかもしれない。
ワシントンの法律事務所で独禁法訴訟を専門に扱うジョナサン・ルービン氏は「グーグルにとって今回の件は痛くもかゆくもないだけでなく、同社が展開するどの市場でも、その地位が大きく揺らぐことは考えにくい」と話した。
(Raphael Satter記者)