[上海 22日 ロイター] - 中国湖北省の武漢市から拡大している新型コロナウイルスの肺炎感染は、2003年に広東省から始まった重症急性呼吸器症候群(SARS)が世界的な惨事を引き起こし、中国保健当局が公衆衛生の信頼を取り戻すのに苦労したつらい記憶をよみがえらせた。
それ以来、中国は大きな進歩を遂げたと各国の保健当局者は指摘する。
中国当局は当時、感染が世界の主要都市に拡散するまで大流行をひた隠しにしようとしたとして批判された。SARS感染は30カ国近くに広がり、774人が死亡した。
それから17年近くたった今回、中国の政府当局者は、SARSでの失敗から学んでいると主張する。
国営テレビによると、新型肺炎による死者数は23日午前11時点(日本時間)で17人、発症者は571人。感染は武漢市のほか、北京、上海、マカオ、香港でも確認された。タイでも4人、米国、台湾、韓国、日本ではそれぞれ1人の感染が確認されている。
SARSの際は初期段階で中国当局が沈黙を貫いたため、うわさが広がり、国内主要都市でパニックが発生。SARSの結果、中国の経済成長率は約1―2%落ち込んだとの推計もある。
中国政府顧問の劉恆氏はSARS大流行を公表するまでに政府は約4、5カ月かかったが、今回は1カ月もかかっていないと強調する。報道陣に「態勢は大幅に改善している。抑止に多大な注意を払っている」と述べた。
中国国家衛生健康委員会の李斌副主任は22日、報道陣に、中国は03年以降、健康への大規模な脅威に対処する新たな包括的手続きを確立したと説明した。
国内外の専門家が今回注目するのは、新型コロナウイルスの遺伝子構造の情報や感染経路が迅速に公表されたことだ。李副主任によると、中国政府はSARSの経験から学び、すべての関連データを世界保健機関(WHO)などと共有している。
SARSへの対応に当時加わった英国の感染症専門家、ジェレミー・ファラール氏は「新型コロナウイルスが素早く確認されたことは中国の公衆衛生がSARS以降に変わった証拠だ」と述べた。
<インフラ整備進む>
専門家によると、SARSでの失敗は医療分野で人員などが不足していたこと、医療体制が中央集権的だったことが要因だった。医療機関は感染症に対する経験が乏しく、病気のメカニズムの情報開示も一切されなかった。地方政府も感染の急拡大に責任を負うことに二の足を踏んだ。
それ以降、中国政府は疾病対策予防センターを設立し、全国の病院やクリニックをつなぎ、リアルタイムで感染を報告する態勢を整えた。
豪カービー研究所の病原体研究の専門家、レイナ・マッキンタイヤ氏は「中国政府はSARS以降、急性の重い呼吸器感染症をリアルタイムで監視するシステムを整えた」と話す。
<ぬぐえない不信>
中国政府は今回、当局者がいかなる感染も隠蔽すれば国民からそしりを受けると警告。国営メディアを通じたメッセージは、透明性向上が必要だと呼び掛ける内容だ。習近平国家主席も、今週からの春節(旧正月)で大量の国民が旅行する直前に拡大した感染を食い止める強い決意を表明している。
それにもかかわらず、インターネット上で新型肺炎のニュースを拡散する国民を政府当局が取り締まっているとの声も聞かれる。ソーシャルメディアは今でも、情報隠しが行われているという訴えに満ちており、中国のデータの正確性や発表のタイミングをなおも疑問視する向きもある。
カービー研究所のマッキンタイヤ氏は「我々は提供される情報しか判断できないし、公開されていない情報があるかどうかを判断する手段もない」と語る
SARSの教訓が生かされているか、本当に大きく試されるには、ウイルス伝播の方向が無数に変化する可能性のある春節の移動シーズンを待たないといけないかもしれない。
シドニー大学の感染症専門家は「感染が拡大している今の段階で、中国が今後、もっと対処できると期待していいのか、自分は自信がない」と話す。