Dhara Ranasinghe
[ロンドン 9日 ロイター] - 鎖全体の強さはその中の最も弱い環によって決まるとするならば、ユーロ圏当局はイタリアと同国の銀行を迅速に支援しなければならない。
ただでさえユーロ圏主要国最弱の経済だったイタリアは、新型コロナウイルスの感染者が欧州で最も多く、死者も増加の一途をたどっている。経済活動は大打撃を受け、金融都市・ミラノを含む北部の豊かな地域を事実上封鎖することを迫られた。このため政府の資金調達コストが跳ね上がり、景気後退(リセッション)に突入するという緊迫した局面にある。
ここで大事なポイントとして浮上してきたのは、イタリアの銀行だ。リセッションが銀行の貸出債権の質を悪化させるという悩みもあるが、それよりも銀行が大量に保有しているイタリア国債が問題となっている。つまり国債売りによる相場下落が銀行の保有分に跳ね返り、損失が生じてさらなる売りにつながるという「負の連鎖」というかつての悪夢が再び顔をのぞかせる。
9日にはイタリアの銀行株 (FTIT8300)が12%余りも下落し、ウニ・クレディト (MI:CRDI)やインテーザ・サンパオロ (MI:ISP)といった銀行のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッドは、40ベーシスポイント(bp)強も拡大した。
ジャナス・ヘンダーソンのマルチ資産チーム責任者ポール・オコナー氏は「イタリアは欧州の金融・経済システムに走る断層だ。何も今の経済的なマイナスのショックに完全に目を向けるまでもなく、とうの昔から経済は弱く、銀行セクターの足場がもろかった」と述べた。
それでも9日にイタリアの銀行が激しい逆風に襲われたのは、同国とドイツの10年国債利回りスプレッドが昨年8月以降初めて、200bp以上に開いたことがきっかけだった。同スプレッドは実質的に、投資家がイタリアのリスクを背負うために要求するプレミアムとみなされている。
6日終盤と比べた利回りスプレッドの拡大幅は45bp前後と、2018年5月の政治危機に伴うイタリア国債売り以降で最大を記録した。
利回りがさらに上昇すれば国債を持つ銀行が損失を被り、手持ちの国債を売ろうとする可能性があり、それが政府の借り入れコストを一層押し上げかねない。
10年前のユーロ圏債務危機を教訓に、銀行に適用する規制と監視体制は強化されたが、こうした負の連鎖が作用する素地は変わっていない。実際、1月末時点でイタリアの銀行が保有する国債は3882億2000万ユーロと、政府債務のおよそ6分の1を占めている。
INGのシニア金利ストラテジスト、アントワーヌ・ブベ氏は「イタリアでソブリン債と銀行が相互に影響し合う構造は今なお健在だ。ソブリン債と銀行債が連動して取引されているのは間違いない」と話す。
ブベ氏によると、銀行は短期国債(BTP)取引で支配的な地位にあり、そこにイタリアのデフォルトリスクが最も明確に織り込まれているという。
確かに9日に2年物BTP利回りは一時50bp強も高騰し、終値でも32bp上昇して0.38%となった。イタリアの5年物CDSのスプレッドは219bpで、昨年6月以来の高水準に達した。
<有効な政策は>
こうした事態を受け、欧州中央銀行(ECB)が12日に開く理事会では、イタリア問題が議論の中心になりそうだ。市場は10bpの追加利下げを見込んでいるものの、政策金利が既にマイナス0.5%まで下がっている点を踏まえれば、利下げはイタリアが必要とする対応策ではない。
関係者の取材に基づく複数の報道によると、ECBはユーロ圏の企業に流動性を供給する措置も準備している。1つのアイデアとして、中小企業向け貸し出しを条件にした長期資金供給オペ(TLTRO)の導入が議論されている。ただ、イタリア国債が売られたことから、債券買い入れ拡大の方が現実味を帯びているとの声が聞かれた。
INGのブベ氏は「短期政府債とクレジットの価格動向を見れば、市場がECBの決意を試し、債券買い入れ拡大を強制しようとしているのは誰の目にも明らかだ。現段階では、信頼を取り戻せるECBの政策手段は債券買い入れしかない」と指摘した。
一方、ジャナス・ヘンダーソンのオコナー氏は「ECBはタイトな流動性の緩和策と与信円滑化に重点を置くだろうから、それはTLTROのような措置が講じられることを意味する。債券利回りを押し下げたい時なら量的緩和(QE=債券買い入れ)は強い効果を持つ。ECBはイタリア国債利回りが6-7%だった際にQEを始めた。しかし、今はそういう場合ではない」と説明した。