和田崇彦
[東京 29日 ロイター] - 政府が過去最大の補正予算案を決定し、日銀も資金繰り支援の態勢を整えるなか、企業の倒産が夏場に急増する可能性が指摘されている。地域の企業に融資する地方銀行の与信費用の計画が予想外に少ないとの声も浮上。コロナ第2波や倒産の急増などの「嵐」が再来するリスクに、金融当局は警戒感を強めている。
<政府は大盤振る舞い、それでも「足りない」>
政府は27日、20年度第2次補正予算案を閣議決定。追加歳出は31兆9114億円と過去最大となり、企業の資金繰り支援に11兆6390億円、持続化給付金に1兆9400億円、家賃支援給付金の創設に2兆0242億円を計上した。ある政府関係者は「徹底的に企業を守り、金融システムへの波及を防ぐ対策を打った」と胸を張る。
しかし、中小企業の経営者からは「持続化給付金が200万円ではとても足りない」、「手元に給付金が届くのが遅い」といった厳しい声が出ている。
<倒産件数、急増は夏場か>
帝国データバンク東京支社の赤間裕弥情報部長は「新型コロナの感染拡大で厳しい事業環境が続き、政府の対策にも関わらず倒産件数は増加が続くとみられる」と予想している。
同社によると、4月の倒産件数は前年同月比16.4%増の758件。新型コロナ関連の倒産は3月末から増加ペースが速くなっている。
しかし、倒産件数をめぐっては、東京地方裁判所の対応の変化により、増加のタイミングが後ずれするとみられている。
ロイターが入手した資料によると、政府が緊急事態宣言を出した4月7日の翌8日、東京地裁で破産を担当する民事20部が東京の3弁護士会に宛てて「不急の申し立て」を控えるよう書面で要請。しかし、弁護士らの反発で10日に方針転換し、「緊急性のある事件以外は処理を停止するが、申し立て自体を控える必要はない」と要請し直した。現在、東京地裁は緊急性の高い案件から処理している。
帝国データバンクの赤間氏は「弁護士の在宅勤務や裁判所から不急の申し立てを見送るよう要請が出ていることで、5月以降はいったん倒産件数が減る可能性がある」と指摘する。ただ、「遅れ気味の破産手続きが進むことで8―9月に急増する可能性がある」という。「2020年は倒産件数が1万件を突破する可能性がある」とみている。
倒産件数が1万件を超えれば、2013年以来7年ぶりとなる。
<意外と少ない与信費用、地銀の財務基盤に影響も>
一方、一部アナリストの試算によると、地方銀行の与信費用の見込みは貸出総額の0.2%程度。「コロナで融資先が厳しい状況に置かれている割に、意外と少ない印象だ」(同)という。
ある当局者は「収益環境が厳しい中で、思うように与信コストを盛り込めていない先もあるのではないか」と推察する。コロナの影響の長期化で、予想以上の与信費用が掛かれば一部の地銀の財務基盤に影響が出る可能性も出ている。
<「台風の目」の中の日本>
海外中銀と連携して実施したドル資金供給、上場株式投資信託(ETF)の購入増、金融機関向けの特別オペの創設、民間金融機関の無利子・無担保融資を円滑に進めるための新たな資金供給手段の決定――。日銀は3月以降、矢継ぎ早に対策を打ち出してきた。
足元では、3月に大幅下落となった日経平均株価が急ピッチで持ち直しているほか、緊急事態宣言の全面解除で事業活動も少しずつだが再開している。しかし、再び「嵐」が来ることへの警戒感がくすぶっている。
金融当局者の脳裏には、2008年の金融危機時の記憶が鮮明に残っている。この年、3月にベアー・スターンズの救済があったが、危機は終わらず9月のリーマン・ブラザーズ破綻でより深刻な事態に陥った。金融庁や日銀の幹部は、コロナ感染第2波に関する内外の情報や倒産件数、マーケット動向などを注視している。
今は台風の目の中にいる――。日銀内ではこんな声が出ている。
(編集:石田仁志)