〇売り方主導の金融不安、重い動きに〇
米大統領選第1回のTV討論会は、「クリントン氏優勢だが、何も変わっていない」のコメントが印象に残るものとなった。
クリントン氏は健康不安を封じ込めたことが大きく、落ち着きのない(元々そうだが)トランプ氏との印象を与えた。
ただ、トランプ支持層は端からご承知で、米メディアのネット調査では、(支持層が積極的に動いたと見られ)トランプ優位と出ているところが多い。
両者の議論は噛み合っていないが、背後に双子の赤字(貿易、財政)が圧し掛かり、オバマ政権のシェール革命やアジア重視などの新戦略が見当たらない。
「混迷深いアメリカ」が続きそうだ。
両者は言及しなかったが、欧州金融機関の問題が引き続き市場を圧迫している。
この日は新たに英銀スタンダード・チャータードが売られた(ロンドン市場で2.5%安)。
株式の過半数を保有するインドネシアの発電所建設企業マックスパワーの不祥事を巡って、米司法省が捜査していると伝えられたことが嫌気された。
不安の元のドイツ銀は一時安値を更新(2.4%安)した後、米市場では0.6%高。
今回は米司法省から住宅ローン担保証券(RMBS)の販売を巡って140億ドルの支払いを求められ、資本不足に陥るとの見方が株下落の主因。
2月に売られた時は京を超える単位で保有するデリバティブ残高が問題視されたが、今回はそれに関する報道は見られていない。
ドイツ銀は罰金30億ドル程度を見込んで交渉する姿勢とされ(市場は50-60億ドル超の規模になれば資本増強が必要との見方)、交渉長期化の様相。
もっとも、ドイツ銀には大量の空売りが入っている。
英ヘッジファンド・マーシャル・ウェイスは16日時点で1130万株(1億5000万ドル程度)、6月にはソロス・ファンドが約700万株を開示した。
マークイットの集計では、発行済み株式数の1.8%(6/27以降は減少している)の空売り残を抱える。
不安は空売り筋が積極的に煽っている面も考えられる。
背景には金融機関のリストラの波が収まらないことがあろう。
日本でも再々、ポジション圧縮の動き(裁定買い残の大幅減など)が市場の重荷になっていると指摘してきた。
最近も米GSがアジア投資銀行部門で90人削減の動き、英バークレイズや米保険メットライフの日本オフィス縮小の動きなどが報じられている。
オイルマネーの縮小、米IPO低調など背景は様々だが、全体に金融縮小のイメージが強い。
世界的な超低金利化、新興国市場低迷や世界の貿易不振の影響も考えられる。
一応、リストラは年末に向けてのヤマ場(先行き小康に向かう)と見ているが、米大統領選の論戦でも、その危機認識が出て来ない。
漠然としながら先行き不安感と活況感に乏しい市場が続くものと考えられる。
以上
出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(16/9/28号)