今年最後の月である12月は下落局面での始まりとなり、我々が望む形とは程遠かった。
株式市場は世界的に売りが優勢となり、為替市場においては米ドル、豪(オーストラリア)ドルが最もパフォーマンスが悪い通貨であった。悪材料の集中が両通貨を下落させる要因となったが、最大の懸念材料は中国に集中していたため、豪ドルが最も影響を受ける形となった。
トランプ米大統領と習近平国家主席は貿易戦争への休戦合意に達し、今週は楽観的な見通しから始まったものの、米国政府によるファーフェイ(Huawei)のCFO逮捕により、貿易戦争への懸念は一気に高まることとなった。逮捕報道を受け、株式市場は大きく値を下げることとなったため、トランプ大統領はCFO逮捕に関してはまだわからないが、中国との貿易交渉は非常に上手くいっていると発言し、株式市場は下落局面を食い止めようとしていた。
この状況下において我々が意識しておかなければならないこととしては、今週中は不確実性が引き続き残るということである。ファーウェイ(Huawei)CFOの逮捕によって米中間の貿易交渉に影響を及ぼすのかどうか、投資家は今後の動向への様子見姿勢を取ると考えられるからだ。ECB(欧州中央銀行)理事会後の来週には、ブレグジット(英国のEU離脱)の投票も行われる。こういったビッグイベントや中国の動向が続くため、12月の為替市場は依然として緊張感が残る月となるだろう。
米ドル
経済指標レビュー
- US ISM製造業景気指数 59.3 (市場予想 57.5)
- 建設支出 -0.1% (市場予想 0.4%)
- ADP非農業部門雇用者数増減 179K (市場予想 195k)
- {{ecl-888|チャレンジャー人員削減|}} 51.5% (前回数値 153.6%)
- ISM非製造業購買担当者指数 60.7 (市場予想 59)
- 製造業新規受注対前月比 -2.1% (市場予想 2%)
- 耐久財受注 -4.3% (市場予想 -2.4%)
- 非農業部門雇用者数 155k (市場予想 198K)
- 失業率 3.7% (市場予想 3.7%)
- 平均時給 0.2% (市場予想 0.3%)
- ミシガン大学 消費者信頼感指数 97.5 (市場予想 97)
- 米ISM製造業景況感指数 59.3 (市場予想 57.5)
- 建設支出 -0.1% (市場予想 0.4%)
- ADP雇用者数 179K (市場予想 195k)
- チャレンジャー人員削減数 51.5% (前回数値 153.6%)
- ISM非製造業景況感指数 60.7 (市場予想 59)
- 製造業受注件数 -2.1% (市場予想 2%)
- 耐久財受注件数 -4.3% (市場予想 -2.4%)
- 非農業部門雇用者数 155k (市場予想 198K)
- 失業率 3.7% (市場予想 3.7%)
- 平均時給 0.2% (市場予想 0.3%)
- ミシガン大学消費者信頼感指数 97.5 (市場予想 97)
経済指標予想
- 米生産者物価指数: 下落の可能性あり。11月原油価格は下落となったことや、予想がすでに低水準であるため。
- 消費者物価指数: 下落の可能性あり。ガス価格が急落したものの、PPIの数値を待つ必要がある。
- 小売売上高: 上昇の可能性あり。ガス価格は下落したものの、レッドブック(Redbook)によると、11月の支出は増加したと報じている。
サポートライン/抵抗ライン
- サポートライン112.00
- 抵抗ライン113.50
米ドル相場は苦境に立たされる
現在の為替市場は「リスク回避」となっている。それは米ドル相場にとって良くも悪くもある。世界的に市場がリスク回避姿勢にある場合、通常資金は米ドルか日本円へと流れる。株式市場がさらに下落する可能性があることから、円需要は高くなってきており、今後も高いと思われる。しかしドル需要は他国通貨の状況に依存する。
最新の米国雇用統計、製造業、非製造業景況感指数から米国経済が減速している状態にあることがわかる。11月の新規雇用者数は、市場予想の19万8000人に対して、たったの15万5000人だった。10月の雇用者数も僅かに下落修正されたが、懸念材料は賃金水準にある。10月の平均時給の伸びが0.2%と、予想の0.3%を下回っただけではなく、12月の予想も0.1%下方修正されたのだ。
これは米国企業が雇用を減らすとともに、給与水準も減らすため、住宅着工数にも影響を及ぼすということを意味する。米国経済の成長のカギは労働市場にあるため、今月の雇用統計の結果は危険水域に入っている。その他の大きな問題は、過去2ヶ月間の市場ボラティリティの影響によって雇用意欲が損なわれる可能性があることが挙げられる。株式市場はさらに低迷する可能性があるため、企業は雇用に対してより保守的な姿勢を取ることとなるだろう。これによって、米国経済や他国経済への不況感が広がるおそれがある。
パウエルFRB議長が議会証言を行う日程はまだ決まっていない。しかし、雇用統計や米国株式市場の低迷、米国債利回りの下落から、投資家はFRBがハト派発言を行い、USD/JPYはさらに下落すると予想している。2018年最後のFOMC会合が行われる前に、インフレ、小売売上高が来週発表される。両指標は米非農業部門雇用者数(NFP)に関わるだけでなく、インフレリスクを上げている米中貿易戦争による影響を計るためにも重要な指標である。USD/JPYは112円を試す恐れがあり、仮にCPI(消費者物価指数)または小売売上高が予想を下回った場合、111.50へと値を下げる可能性もある。
ユーロ
経済指標レビュー
- ユーロ圏製造業PMI(購買担当者景気指数) 市場予想51.5から51.8に引き上げ
- ユーロ圏PPI(生産者物価指数) 0.8% (市場予想 0.5%)
- ユーロ圏サービス業PMI 市場予想53.1から53.4に引き上げ
- ユーロ圏統合PMI: 52.4から52.7に引き上げ
- ユーロ圏小売売上高 0.3% (市場予想 0.2%)
- ドイツ製造業受注件数 0.3% (市場予想 -0.4%)
- ドイツ鉱工業生産指数 -0.5% (市場予想 0.3%)
経済指標予想
- ドイツ貿易収支: 下落の可能性あり。景況感指数や製造業PMIの下落を受けて。
- ドイツZEW景況感調査: 上昇の可能性あり。市場が安定していることやイタリア情勢の好感を受けて。
- ユーロ圏鉱工業生産指数: 予測不能。
- ドイツCPI(消費者物価指数): 予測不能。指数が変化した場合、市場が動く可能性あり。
- ユーロ圏12月PMI: ZEW景況感調査や鉱工業生産指数の結果次第。
サポートライン/抵抗ライン
- サポートライン 1.1300
- 抵抗ライン 1.1450
ECBがユーロ経済の回復を妨げる可能性
ユーロは大暴落する恐れがあり、暴落は今週のECB(欧州中央銀行)政策決定会合の発表が引き金となる恐れがある。ユーロは長期間にわたって好材料が不足しており、投資家のリスク回避姿勢によって下落を続けている。
ECBは資産購入(金融緩和政策)を12月に終了する予定だが、世界経済の低迷や貿易戦争、原油価格の不確実性の影響により、ECBは成長率とインフレ率予想を引き下げる可能性がある。下図を参照すると、消費者支出や雇用市場は僅かに回復基調を取り戻しているが、企業活動においては悪化が目立っていることがわかる。ECBメンバーはハト派発言を続けており、金融緩和政策の必要性を示唆している。経済予想を引き下げ、ECBが金融緩和政策を引き続き行うことになれば、EUR/USDは1.13まで下落する可能性がある。しかし現行の政策から変更されなかった場合はEUR/USD相場は1.15まで上昇するだろう。
英ポンド
経済指標レビュー
- 英PMI 製造業 53.1 (市場予想 51.7)
- 英PMI 建設業 53.4 (市場予想 52.5)
- 英PMI サービス業 50.4 (市場予想 52.5)
- 英統合PMI: 50.7 (市場予想 52.1)
経済指標予想
- 英貿易収支、鉱工業生産指数、7-9月期四半期GDP: 上昇の可能性。英PMI 製造業の強さを受けて。
- 英雇用統計: 製造業雇用者数が小幅回復。
サポートライン/抵抗ライン
- サポートライン 1.2700
- 抵抗ライン 1.3000
英国会でのブレグジット合意案投票から想定される3つのシナリオ
今年度で最も重要なイベント、ブレグジットの合意案投票が火曜日に行われるため、ユーロ圏通貨へ注目が集まることだろう(追記:採決は延期された)。ポンド相場が来週大きく変動すると考えられるため、まずポンドの話から始めよう。メイ英首相はブレグジットの明暗は12月11日に行われる英議会の投票にゆだねられると述べている。合意なき離脱またはブレグジット中止は自分自身にかかっていると同氏は発言した(中止の場合はまず同氏の合意案が否決されるだろう)。ブレグジットに合意しているEUは、未だブレグジットの雲行きは怪しいと発言している。メイ政権を支える北アイルランドの地域政党、DUP(民主統一党)やトーリー党のEU懐疑派党員が合意案に反対していることから、多くの人が合意案の否決を想定しているだろう。
メイ政権が100票以上の可決票数を失うとブレグジット合意の全面敗北が決定し、ポンド相場の急落、英国経済の低迷そしてメイ政権の退陣へと繋がる可能性がある。そうなると総選挙や2回目のブレグジットの国民投票が行われるだろう。両者が起こった際のリスクとして、ポンド相場が1.25を下回るまで急落する可能性が挙げられる。50票以下で否決された場合、メイ首相はこれを理由にEUと再協議し、別の案で採決をすることができる。このシナリオはポンド相場にとって悪材料でしかないが、下落幅は1.26までに抑えられる可能性がある。あまり想定されるシナリオではないが、仮に同氏が英国会で可決をなんとか取り付けた場合、GBP/USDは短期間で1.3ドルまで回復すると考えられる。この投票の前夜までに、EU司法裁判所は英国のブレグジットを中止するか決断を下すだろう。仮に中止が決定された場合、メイ政権はさらに苦境に立たされることとなり、2回目の国民投票が行われる可能性がある。ポンド相場はブレグジットの動向、貿易、雇用市場の動向に左右されることとなる。
豪ドル、NZドル、カナダドル
経済指標レビュー
オーストラリア
- オーストラリア準備銀行は金利を据え置く。僅かな賃金上昇についての言及を削除した
- 購買担当者景気指数 オーストラリア産業グループ製造業指数 51.3 (前回数値 58.3)
- ANZ ANZ求人広告件数 -0.3% (前回数値 0.3%)
- 建築許可件数 -1.5% (市場予想 -1.5%)
- 経常収支 -10.7b (市場予想 -10.2b)
- 購買担当者景気指数 AIGサービス業指数 55.1 (前回数値 51.1)
- 第3四半期 GDP 前期比 0.3% vs (市場予想 0.6%)
- 貿易収支 23億1600万オーストラリアドル (市場予想 30億オーストラリアドル)
- 小売売上高 0.3% (市場予想 0.3%)
- 購買担当者景気指数 AIG建設業指数 44.5 vs 46.4
ニュージーランド
- 交易条件指数 第3四半期 -0.3% (市場予想 0%)
- ANZ求人広告件数 0.5% (前回数値 1.4%)
カナダ
- カナダ銀行は金利を据え置く。インフレのない成長はあり得ると述べている。
- 貿易収支 -1.17B (市場予想 -0.73B)
- Ivey購買担当者指数 57.2 (前回数値 61.8)
- 雇用者数増減 94.1K (市場予想 10K)
- 失業率 5.6% (市場予想 5.8%)
経済指標予想
オーストラリア
ニュージーランド
- 年度半期更新 - 市場変動の可能性があるが、予想が難しい。
カナダ
- データなし
サポートライン/抵抗ライン
- サポートライン: 豪ドル .7150、NZドル .6800、カナダドル 1.3100
- 抵抗ライン: 豪ドル .7300、NZドル .6900、カナダドル 1.3400
経済指標、リスク回避姿勢による豪ドルへの影響
先週の世界市場の下落を受けて、オーストラリア(豪)ドルも影響を受けることとなり、豪ドルが最もパフォーマンスの悪い通貨となった。米中貿易戦争によるオーストラリアへの影響は別として、豪経済指標は好不調さまざまである。サービス業景況感と小売売上高は前回指標を上回ったものの、製造業景況感、住宅建築許可件数、第3四半期GDPはかなり悪化している。第3四半期のGDP成長率は直近2年半で最低水準となっている。オーストラリア準備銀行(RBA)は政策金利を1.5%に据え置き、中立スタンスを改めて表明している。デベル副総裁によると、現状のまま推移した場合、利上げは行われるだろうと発言している。今週に発表される主要経済指標はないため、投資家のリスク選好が豪ドルの上昇要因となるだろう。また、直近の鉄鉱石、金、銅価格の上昇も豪ドルの下落の下支えとなりうる。ニュージーランド(NZ)ドルも先週下落することとなったが、豪ドルほどの下落とはならなかったため、AUD/NZDは2017年7月ぶりの豪ドル安をマークした。ニュージーランドの経済指標においては、貿易、求人広告、住宅価格、コモディティ価格いずれも弱い数値となり不調が見られた。今月の主要経済指標は企業PMIのみを残すものの、今後もAUD/NZDの動きは激しさを一層増すとみられる。
カナダドルは、強い雇用とOPEC総会によって底を打ったか
カナダ銀行は直近の政策金利でタカ派のトーンを落としているが、11月に記録的な9万4100の雇用の増加があり、カナダの経済は堅調である。これは1976年にカナダ統計局が記録を始めて以来、一月における最高の雇用増大である。この大規模な雇用増大により、失業率は5.6%にまで下がり、記録を塗り替えている。この多くが、原油価格低下にも関わらず2万3700人を追加雇用している石油生産の中心地であるアルバータ州のフルタイムの雇用であった。
カナダ銀行のステファン・ポロツ総裁はさらなるインフレなき成長の可能性があり、利上げは経済指標によって行うと述べている。この雇用統計の結果は、利上げの可能性を高めている。また、OPECは日量120万バレルの減産を決定し、原油価格は50ドルで下落を止めることができたようだ。OPECの減産の決定、原油価格の回復の見通し、米国の弱い雇用データ、カナダの好調な雇用の中で、カナダの経済指標で来週公表される予定のものはないが、カナダドルは底値を打つと考えるには十分な理由になっている。