今週、米ドルは主要通貨に対して全面的に下落しており、軟調な耐久財受注が原因であると考えられている。5日の雇用統計によってドルは持ち直したが、マーケットは我々と同様に懸念を抱き始めている。3月の非農業部門雇用者数は19万人を上回ったが、2月の改訂は小幅に終わり、賃金の伸びは鈍化していた。労働市場は米経済にとって重要な部分を担っている。FRBによると、経済と雇用は減速を見せるはずである。興味深いことに米国株が買い戻されているにもかかわらず、ドルは下落している。過去数週間に渡って、ドルは安全資産としての恩恵を受けてきたが、8日はそうではなかった。主な理由は、ユーロなどの通貨が過剰に売られ、利食いされたからであろう。消費者物価指数とFOMC議事録はドルにとって最重要のイベントである。原油価格の上昇はインフレを加速させるが、 FOMC議事要旨では経済成長や世界的な不透明感が主な懸念となっていると考えられる。
今週注目されているのは、ユーロであろう。欧州中央銀行(ECB)は10日、政策金利発表を控えている。8日にユーロ/ドルは上昇しており、下落するリスクが存在している。欧州における経済成長は弱く、ブレグジットや米中貿易協議、EU自動車関税など様々な要因がECBの見通しを曇らしている。先月の独貿易黒字は拡大していたが、輸入・輸出ともに減少した。ユーロが上昇している唯一の理由は売られすぎていたことが原因であろう。前回のECB会合でマリオ・ドラギ総裁は、保護主義への脅威や世界的な要因による経済減速リスクに対応するための緩和政策の必要性について語り、ユーロは1.13から1.1176へ下落した。前回の会合から状況は変わっていないことを考えれば、1.13まで上昇したとしてもそこから再び下落に転じるだろう。
英国にとっても今週は重要な局面となるだろう。4月12日がブレグジットの期限である一方、テリーザ・メイ英首相は6月30日までの延期を再度要請している。フランスやスペイン、ベルギーは合意なき離脱への準備を進めていると報じられた。10日のEU首脳会談に先駆けて本日、メルケル独首相とメイ首相は会合を開き、夜には労働党との協議を行う。しかし、コービン労働党党首によると、メイ政権は妥協する姿勢を見せておらず、ほとんど進展していないとのこと。メイ首相は当初6月30日までの延期を要請していたが、EUによって却下された。ブレグジット協定案が可決されるか英国で大きな変化がない限り、EUは長期間の延期を認めない姿勢である。英国は5月23日から26日実施の欧州議会選挙へ参加する意思を示しているが、フランスは4月12日より先まで離脱延期を認めることに懐疑的である。欧州理事会理事長のトゥスク氏は、「フレクステンション(flexible『柔軟な』とextention『延長』を合わせた造語)」を提案しており、これは英国に1年間のブレグジット延長を認めつつ、議会が離脱協定を批准した段階でそれを打ち切るというものだ。この案は繰り返しブレグジットが延期されることを避け、英国が望むなら期限よりも早く離脱することが可能となる。EUが延期を認めるか否かが今週の最大の焦点だ。EUがフレクステンションを認めた場合、ポンドは高騰するだろう。そして、合意なき離脱となれば、ポンドは暴落するだろう。
カナダドルの上昇に牽引され、8日の資源国通貨は軒並み上昇していた。カナダの住宅着工件数と建築許可件数は予想を下回ったが、原油価格は10月ぶりの高値となっている。1年間で原油価格は38%以上上昇しており、ウェスタン・カナディアン・セレクト(WCS)に限っては90%の上昇となっている。このことはエネルギーセクターの追い風となり、 Ivey購買担当者指数の回復に寄与するはずだ。